第9話 ポイズン・ディテクション

 私たちが生きていくうえで、食事は欠かせない。だが、もし、その食事の中に自身の体に有害となるような物質が含まれていたら?運が悪ければ、死亡する可能性だってある。某国の大統領である私はそのような問題を回避するために、あるテクノロジーの力を借りた。それが、ポイズン・ディテクションだ。簡単に言えば、毒検知である。


 これは、食事の際にとても役に立つ。私がフォークやスプーン、あるいは箸などの上に、出された食事のうちの一口分を乗せるだけで容易に、その料理の中に毒が含まれているのかどうかを判定できる。その中に、少しでも毒が含まれているのなら、手は黄色く変色するし、致死量レベルの毒が混入していた場合は、手が赤く腫れあがる。どちらにせよ、その料理を食べるなという警告をテクノロジーが発しているのは間違いないのである。


 では、どんな毒物なら検知できるのか。ポイズン・ディテクションと呼ばれるテクノロジーについて親友に説明した時に、こう聞かれたことがある。私は、その際に、以下のように答えた。


「基本的に、どんな毒物でも検知できる。ただし、現時点において完全に解明がなされていない未知の毒物が料理の中に入っていたら、検知は不可能になる」


 だからこそ、新たな毒物の分子構造が明らかになる度に、定期的なアップロードをすることが、このテクノロジーでは求められる。そして、そのアップロードのために、自分の時間を大幅に減らされるというのが、ポイズン・ディテクションの2つある欠点のうちの1つだった。そして、もう1つのデメリットが、食事以外のシーンでこのテクノロジーが使えないということだ。つまり、公共の場でタオルなどの物を渡されてもそれが安心して使えるのか、私には見分けがつかない。したがって、公共施設を来訪する前には、あらかじめSPを3~5人ほど到着させて、私が触れるかもしれない箇所に異常はないか、毎回、調査させていた。


 だが、そんな私でも注意不足であったと今では感じさせられるエピソードが幾つかある。今回は、そのうちの1つを紹介しようと思う。


 あれは、今から半年前のことだが、当時の私は、同盟国の首相と仲良く雑談を交わしながら、ゴルフをしていた。そして、最後にもう1コース残したところで、あの首相は言ったのだ。


「お互いのパターを交換してゴルフしませんか?」


 私は、すぐに了承した。手の異変を感じたのは、首相がそれまで握っていたパターを持ち始めた直後のことだった。ゴルフをしている最中は、少しかゆい程度の感覚だったが、それが終わり首相と別れた数時間後には、炎症が手の全体に広がっていたのである。手の炎症に気が付いたSPの対応によって、私はすぐに病院まで搬送された。そうして、手の異常が消えた後に、医者はこう言っていた。


「あれは、遅効性の毒ですね。もし、適切な治療を受けていなかったら、あなたはもうこの世にはいないでしょう」



 

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