第7話

 闇。見渡す辺り一面の闇。そんな中に、マリファは一人立っていた。

 あぁ、また夢見か。

 即座に理解し、意識を目の前に集中させる。

 闇でほとんど見えていなかったものの、集中したことでぼんやりとだが、内容が見えてきた。

 

 そこにいたのは、紫色のマントを羽織り、フードを目深に下ろした人物。後ろ姿なのか、男性か女性かもわからなかった。その人物の前には小さな祠。かつて魔王と呼ばれた人物であり、この国の建国者にして初代ソフィアード公爵の、魔力を封印した際に作られた封印の楔。その楔を隠し守護する役割を持つ祠。国内にいくつか存在し、それが魔王の魔力を抑えつけているという。封印を解いた場合、魔王が魔物を率いて国を滅ぼしに来ると言われている代物。事実かどうかは不明だが、皆壊そうとは思わないだろう。

 だが、その人物は違った。小さな祠目掛けて魔術を放ち、壊したのだ。

 封印の一部が解け、霧散する。

 「……これで、ふたつめ」

 声が聞こえる。女性の声。

 知っているような、知らないような、そんな声。

 「……まだ、足りない」

 足早に立ち去っていく姿を見送りながら、マリファの意識は薄れていった。

 

 

 「……なんだったんだろう、あれ」

 日課となっている朝の礼拝の最中、マリファは首を傾げた。すると、

 『教えてあげようか』

 何処からか、凛とした声が響いた。と同時に教会が光で包まれる。バサッ、と音がした。驚いて目を開けると、そこには黄金に輝く男性がマントを翻して立っていた。

 「し、守護神様……!?」

 慌てて全員が礼を取る。立っていたのは、神々の主神でありこの国の守護神である神霊フィーニス。使い魔である獅子の姿の光の神霊を従え、マリファを見据えていた。

 困惑しつつ、マリファは口を開いた。

 「守護神フィーニス様、ご機嫌麗しゅう。あの、先程のはどういう……」

 『この地に施されている封印が、少しずつ解けてきている。それと同時に、魔物達の動きも活発化している。それは、ある人物が封印を壊して回っているからだ。誰とは言わないけどね。私達は、その人物を見守っているから。あの封印は、魔王と呼ばれた魔術師の枷であり、壊して回っているその人物の枷でもある。私達は、その者の覚醒を待っている。そして君は、その人物を知っているはずだよ、当代聖女マリファ・ファミール』

 ゆっくりと、神託を告げるように、守護神は語りかける。

 キラキラと、マリファの目の前を淡い光が舞う。それはすぐに消えてしまい、首を傾げた。

 周囲の誰もが固まったまま聞き入る中、守護神は更に続けた。

 『この件に手出しは無用だ。いいね?』

 「「「はっ」」」

 問い掛けに、反射的に全員が答えていた。

 それを聞き届けると、一度微笑んでから守護神は消えていった。

 「「「……」」」

 しばらく、その場から動けなかった。

 ようやく動けるようになったときには、既に一時間が経過していた。それでもなお、守護神様のお告げの内容を理解しきれずにいた。

 

 

 

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