第15話

 昼休憩中、リュシフィア様と一緒に昼食をとろうと探していると、建物の影となっている箇所から、小さな話し声が聞こえてきた。

 「全く……研究所で魔力暴走とか、やめてくださいよ。あの時俺が止めなかったらどうなってたか……」

 「分かってるわよ。さっきから謝ってるじゃない。何事も無かったから良いでしょう」

 慌てて見つからないように隠れ、耳を澄ます。声の主は、イディスとリュシフィアだった。

 「研究所にトラウマ刺激されるのは分かりますけどね、実験施設はここじゃなくて第ニ棟です。ここ第一棟は手を出さないでいてくださるのでしょう?そういう契約じゃないですか」

 「貴方の"行為"をある程度見逃す代わりに、そちらも私の復讐を見逃す、だったわね。もちろん弁えてる。条件反射は大目に見て頂戴」

 「条件反射で暴走しないでくれるかい?」

 「……実験棟と同じ内装をしているのが悪いと思うのだけど」

 行為、見逃す。そこまで聞いて、ひとつ、思い出した出来事がある。

 イディスルートのバッドエンド。イディスの家に監禁され、一生愛でられる、別名ヤンデレエンド。そのエンドでのみ語られる、イディスの秘密。

 イディス、そしてリーデルロンド家は、インキュバスの一族である。

 この事実を他の貴族や王家は一切知らされず、唯一事情を知るソフィアード公爵家は黙認し続けていた。

 そしてゲーム内でも、イディスは悪役令嬢に対してあまり関心を抱いていなかった。恐らくゲームでも、何らかの形でリュシフィアとイディスが取引をしていたのだろう。

 「とにかく、この件はこれで終わりでいいでしょう?」

 「まあ、良いですよ。今後気をつけてくださいね。……それで、いつまでそこに居るつもりかな、マリファ・ファミール嬢?」

 心臓が、止まるかと思った。

 盗み聞きしているのが、ばれていたのだ。

 「あ……えと……」

 言い訳をするべきか、大人しく謝罪するべきか。口を開こうとするも、固まったまま動けない。

 「……まあ、黙っていてくだされば大目に見ますよ。こちらとしては今まで通り生活できれば構いませんから。但し、他の誰か一人にでも話した場合、それなりの覚悟はしてもらいますよ。リュシフィア様もそれで良いですね?」

 「……ええ」

 「いいの、ですか?」

 「別に、貴女は王家の連中とは思考が違うようですからね。差別的な行為をしないでしょう?」

 「しません!絶対にしません!口が裂けても言いません!」

 「なら、良いですよ」

 「……ありがとう、ございます」

 深々とお辞儀をして、急いでその場を離れた。

 


 「……ああそうだ、これ」

 「……横領の証拠。ばっちり掴んだのね」

 「勿論です。リーデルロンドを甘く見ないでほしいですね。……今の所、これで全部の様です」

 「わかったわ、ありがとう」

 

 ――後ろで、そんなやり取りがあった事は、知る由もなかった。

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