第14話

 それから数日後。今日は、学院の授業の一環として、王立魔術研究所へと赴いていた。前世で言う、社会科見学のようなものだ。

 「ようこそ、王立魔術研究所へ。研究所の所長を務めております、ライディス・リーデルロンドと申します。そこにいる、イディス・リーデルロンドの父でございます」

 初老の男性が挨拶する。本日は宜しくお願い致します、と生徒全員で揃えて返した。

 「研究所の歴史や研究内容など、息子から色々とご説明させて頂きますので、是非将来の選択肢の候補の一つに入れてみてください。……それでは、私は仕事がありますのでこれで失礼させて頂きます」

 後は頼んだぞ、とイディス様に伝え、立ち去っていく所長。任されたイディス様が前に進み出て、説明を開始した。

 ここ、王立魔術研究所では、魔道具の制作を主に行っている。魔道具とは、魔核を用いて起動させる、日常生活で使用する道具のことだ。戦闘用に作られる魔術具の複雑な制作魔術を一般化し、誰でも使えるように改編させて制作する、いわば魔術具の劣化版である。現代では、魔道具は作れても魔術具を作れる者はいないため、魔術具制作の魔術の再現も目標にしているのだとか。

 前世でいう電子レンジや洗濯機などの家電製品を、電気ではなく魔術で動かしているようなものであった。

 その魔道具を一般販売し、その他にも薬草に関する研究や古い時代の魔術や歴史について調査、研究しているのが、ここ王立魔術研究所である。

 王立魔術学院の卒業生の就職先として候補に上がっている組織でもある。大抵は魔術師団に所属するか騎士団に所属するかして、国の為に魔術を振るいながら勤めるのだが、一部の卒業生は王立魔術研究所で研究員として働いているのだ。

 各研究所の施設をまわりながらそんな説明を聞いていたのだが、魔術具制作者の件で思わずリュシフィア様の方を見てしまった。

 最近、王都のとあるカフェで魔術具を取り扱っている、という噂が出回ってきているからだ。魔核の提供はソフィアード公爵家、魔術具の制作はウィル・ドレッドという人物らしい。この人物については情報が名前以外公表されていない為、実在するかどうかも怪しいのだが、実際に魔術具を購入した者はいるため、現代において再現できないとされていた魔術具の制作魔術が、この人物によって再現されたのは間違いないのだ。

 ソフィアード公爵家が直接取引しているので、リュシフィア様も知っているはずだ。顔色をうかがおうと見てしまったのだが、

 「ここ……は……」

 顔面蒼白。目からハイライトが消え、怯えたような表情。ふわり、と髪がなびき、徐々に魔力が発せられていく。

 「……え、り、リュシフィア様!?」

 思わず大きな声を出してしまったのは仕方ないと思う。何故なら、それ程までに突然魔力が上昇していたのだから。

 「どうかしましたか?」

 イディス様から、声がかけられる。と、ふっと魔力が消滅し、リュシフィア様もはっとした表情で数回瞬きをした後、

 「……なんでもない」

 と呟いて口を閉じてしまった。

 「……では、気を取り直して、次に行きましょうか」

 少し訝しげな表情の後、イディス様は明るく仕切り直した。

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