第2話

 支度を終え、マリファは複数の紙を前に座っていた。

 「さて、と」

 思い出したことを、ひとつひとつ紙に記入していこう。そう思って用意したのだ。

 まずは前世の自分から。茉莉は日本という国で育った。ごく一般的な家系で、多少の不自由という名の節約はあったけれど、厳しくも優しい両親の元で幸せに暮らしていた。しかしある日、交通事故に巻き込まれて意識不明の重体。おそらく死んだのだろう。

 次に、ゲーム『光の聖女と国の危機』。王太子や有力貴族の息子達を攻略して恋愛ストーリーを楽しみつつ、王国に攻め入って来ようとする魔物達を倒して国を守るという、よくあるスマートフォン向け恋愛シュミレーションゲームだ。

 この国の人々は皆魔力を持ち、魔道具と呼ばれる魔力を利用して動かす道具を使用し生活している。

 戦闘に適する"属性魔術"を持つ人々は魔術師と呼ばれ、希少価値が高く国に重宝される。魔術師達は王立の学院に通った後、国の護衛機関である魔術師団に所属するケースが多い。 属性は、雷、炎、風、水、氷、土、木からなる自然元素魔術と、光、闇、時空、そして治癒と浄化の魔術からなる聖属性魔術が存在しており、魔術師はそのどれかに適性を持つ。適性があるだけで希少だが、複数への適性持ちや聖属性魔術への適性持ちはかなり希少であり、相当な影響力を持ち大切にされる。

 主人公であるマリファ・ファミールは平民であったが、聖属性への適性があり、聖女として崇められることになる。学院に通って魔術を学びつつ聖女として人々を癒やし、王子達と協力して魔物達から国を守りながら愛を育む、というストーリーである。

 主要な登場人物は第一王子のルトレイス・フォルト・ソルフィア、第二王子バルトローズ・ソルフィア、魔道具の研究、開発を行っている王立魔術研究所の所長の息子イディス・リーデルロンド、第二王子の従者であり、次期宰相のスティーベル・ファミール、悪役令嬢の従兄で従者のリカ・ファレストの計五人+隠し攻略キャラ。

 「……あと、大事なのはっと」

 悪役令嬢リュシフィア・ソフィアード。どのルートでも主人公の邪魔をしてくる敵キャラクターだ。

 リュシフィアは王弟一族の末裔であり、ルトレイスの異父妹である王女様だが、闇を操る魔術師として怖れられている。聖女として祀られた主人公への妬みと悪意ある周囲の態度への苛立ちから主人公を虐め、卒業パーティーで断罪、魔力封印と国外追放を言い渡されるが、断罪への不服と国への復讐として古の魔王の封印を解いてしまうという悪役令嬢だ。

 全ルートクリア後に開放されるリュシフィア視点の裏ルートにて、彼女に関する事の全容が明かされる。仕事を押し付けられ、罪を着せられ、それでも人知れず国を守り続けた結果、崩壊してしまった少女。最終的には古の魔王に乗っ取られ、魔王と共に封印されるか、浄化されるかしかない、救いのないキャラクターとして描かれていた。嫌われながらも自分のエゴの為に、と動いた結果回り回って誰かのためになる行動をする悪役令嬢、として位置づけられている。プレイ中、救いがなさすぎて、誰か助けてあげてと叫びたくなったのを覚えている。

 「折角転生して内容を思い出した訳だし、リア様、救いたいよね……」

 そうつぶやいて、はっと思い出した。この裏ルート、表ルートとは逆に主人公が断罪されてしまうのだ。結果的にリュシフィアは断罪されなくなるが、自分が国外追放になるのは勘弁してもらいたい。

 マリファは明日から学院に通うことになっている。マリファと同い年の魔術適性所持者は数人程度であり、一年上のリュシフィアと同じクラスで講義を受ける事が決まっていた。

 「リア様と仲良くなって、リア様救出手段を探す?でも裏ルートに入ったら断罪される……それだけは絶対避けたい……!ならやっぱり正規ルートを辿っていかないと。できれば推しのルトレイスルートがいいな!まずはゲームのストーリーパートの出来事を思い出さないと……!」

 気合を入れ直し、新しい紙を取り出して今後の作戦を書き出していった。

 

 

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