第3話
翌日。王立魔術学院へとやってきたマリファだが、ひとつ気がかりなことがあった。
「……編入初日って、確かイベントあったよね」
朝、寝起きで思い出したことなのだが、編入初日、緊張から校門の前で派手に転んでしまい、ルートごとに選んだ攻略対象に助けられる、というイベントが発生するのだ。
「えぇ……嫌だなぁ……」
派手に転ぶなんて恥ずかしいではないか。どうなることやら、と不安を感じながら門を潜ろうとする。
「……あれ?」
門を潜っても、校内に入っても、イベントは発生しなかった。何事も起きずに手続きを済ませ、教室の前まで来ていた。
「可笑しいな……バグでも起きた……?」
いやまあ派手に転ぶなんて恥ずかしい事、起きてくれない方が有り難いんだけど、等と呟きながら、教室に入った。
「マリファ・ファミールと申します。どうぞよろしくお願いします」
自己紹介をすると、どこからかクスクスと笑い声が聞こえた。早速悪口を言われているらしい。どこから聞こえたかと教室を見回すと、こちらをじっと見つめるリュシフィアと目が合った。朱色の瞳に吸い込まれそうになっていると、教師の声に意識を戻された。
「ファミール侯爵令嬢は教会が定めた聖女様です。くれぐれも、粗相のないようにお願いしますよ。特にリュシフィア・ソフィアード。自分が公爵家だからと下に見るのはやめるように」
「……」
名指しされたリュシフィアは無言でちらりと視線を教師に向けた後、すぐにそらして魔術書を読み始めた。
なんとも微妙な空気が流れる中、授業が始まった。
この国の歴史や数学、魔力操作の実演授業など、授業内容はとても面白かった。前世から勉強するのが好きだったマリファにとって、全く苦はなくむしろ楽しい時間だった。新しい知識を身につけることができるのは、いつだって嬉しいものだ。
放課後、やっぱりリュシフィアを救うのを諦められないマリファは、正規ルートを壊して断罪イベントをなくしてしまおうと考え、さっさと帰ろうとしているリュシフィアの前に塞がるように立って声をかけた。
「リュシフィア・ソフィアード女公爵様、少しよろしいでしょうか」
「……なにか?」
顔をしかめて返事をされる。警戒されてるなぁ、とマリファは苦笑した。
「私、是非ともお話したいと思っていたのです。お茶でも如何ですか?」
「……はぁ、まあ、いいでしょう」
しばらく無言でいたものの、了承してもらえたようで、諦めたように息を吐いた後答えが返ってきた。
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