第4話
学院構内のカフェテラスまで引っ張るように連れて行き、着席する。
紅茶を飲むだけでも凄く様になるなぁ、と見当違いな事を考えていると、鋭い視線が飛んできた。
「それで、話とは何ですの?」
「あ、ええと……」
実は話の内容考えてませんでした、とは言えず、マリファは口籠った。
「……」
沈黙。怪訝な表情を浮かべるリュシフィアに、マリファは遠慮がちに口を開いた。
「……あの、ソフィアード女公爵様、ご兄弟って、いらっしゃいますか?」
「……はい?」
彼女は今度は驚いた表情を浮かべる。突拍子もない質問なのは理解していたが、今朝の件があったり、第二王子の従者の筈のスティーベル・ファミールがイディス・リーデルロンドと共にいて、バルトローズは騎士団バッジをつけている人たちと共にいたり(騎士団と魔術師団は所属の証として専用のマントを身につけるのだが、学院では目立つし邪魔だからと、それぞれの紋章が描かれているバッジをつけている。騎士団に所属しているバルトローズと、魔術師団に所属しているリュシフィアも、それぞれバッジをつけている。)と、ゲームの内容との相違点があったため、マリファにはどうしても確認したいことがあったのだ。
「……すみません、おかしな質問だとは分かっておりますが、お答えいただけるとありがたいです」
「……、おりません。義理の兄として、ルトレイスお兄様がいらっしゃるくらいですが」
「え……?リカ様は……?」
「……リカ様?どなたのことです?」
リカ様。ゲームに出てくるリュシフィアの従兄、リカ・ファレストの事だ。攻略対象のひとりでもある。
「リカ様がいない……?」
リュシフィアと同い年であり、同じ教室にいるはずだった彼がいない。前世でリカとリュシフィアの組み合わせが大好きだったマリファにとっては、かなりショックの大きい事実であった。
「そ、そんなぁ……リカ様がいない……リカリアが……」
「……?」
首を傾げるリュシフィア、机に突っ伏して嘆くマリファ、という傍から見れば訳のわからない状態が出来上がっていた。
少しの間嘆いていたものの、ゆっくりと顔を上げたマリファは、正直に目の前の彼女に打ち明けることにした。
「驚かないで聞いてください。私、実は前世の記憶があるのです」
前世の事、ゲームの事、登場人物や悪役令嬢の事。自分が覚えていることを何もかも話した。彼女からすれば全て突拍子もない話であるはずなのに、リュシフィアは始終黙って聞いていた。
「なるほど。そうでしたか。そして差異の確認として私に兄弟がいるか問うてきたのですね」
「……頭おかしいのでは、とか思わないのですか?」
あっさりと話を受け入れたリュシフィアに問いかける。すると、返答は意外な内容だった。
「まあ、珍しい事ではありますが、貴女の様に別世界の記憶を持って生まれる方はいらっしゃいますもの。渡り人、と呼ばれている方ですわね。この世界の他に世界がないとは限らない訳ですし、貴女が確かに見たものであれば、それは間違いなく"別世界の記憶"なのでしょう。否定する気はありません」
それに、と彼女は更に続ける。
「私自身、別世界に渡ったことがありますし。そのゲームは存じ上げませんが、ある別の小説の世界が実際に並行世界として存在していた、というケースを知っておりますので。相違点があるのは、実際に人が生きているからでしょう。創作物ではない、人々が普通に生活し日々を過ごしている世界であるからこそ、創作物とは違う事象が生まれている。予定を立てても実際にやってみると予定通りにいかなかったりするのと似た原理かと。……って、これは少し違うかしら。例えが難しいわね……」
平然と言ってのけるリュシフィアに、今度はマリファが驚く番であった。
「じ、女公爵様……随分あっさりと……」
「……まあ、こちらも色々と事情がありますのよ」
二人で顔を見合わせ、ふっと吹き出すように笑う。リュシフィアから警戒の色は完全に消えており、年相応といった柔らかい笑顔だった。
「改めまして、リュシフィア・ソフィアードと申します。リアとお呼びくださいな。よろしければ、また別世界のお話を聞かせていただいても?」
「もちろんです!マリファ・ファミール、前世の名は
「ええ、構いませんわ」
いつの間にか、辺りは夕日に染まっていた。夕日を背に微笑むリュシフィアは、神々しいくらいに美しいと感じられる容姿であった。
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