第5話

 朝と夕方、教会で守護神フィーニス様に祈りを捧げ、王国を覆う巨大な結界に聖属性の魔力を流して維持する。これが聖女の役目である。その聖女の役目の傍らで学院で魔術を学び、放課後にリュシフィアとお茶をする。そんな日々を繰り返す。ちなみに、義理の兄であるスティーベル・ファミールとは関わりが無い。というのも、彼はイディス・リーデルロンドの元で住み込みで働いているからだ。名目上は行儀見習いとして、実際はイディスの従者であるため。

 マリファは二人から全力で逃げていた。

 余計なフラグを立てたり、揉め事に巻き込まれたりなど、絶対にしたくはない。避けられるのであれば、避けるに限る。


 ある日、宰相である父に連れられ、王城へとやって来た。今日は、第一王子ルトレイスと会うことになっている。

 「やあ。はじめまして」

 優しい笑顔で、応接間にてルトレイスに出迎えられる。

 「お初にお目にかかります、ルトレイス王太子殿下。マリファ・ファミールと申します」

 緊張しながらも一礼する。着席を促され、ソファに腰を下ろすと、ルトレイスから謝罪があった。

 「ごめんね、本当は弟のバルトローズも一緒の予定だったんだけど、騎士団の方の仕事があるらしくて。……改めて、ルトレイス・ソフィアードだ。よろしくね、聖女マリファ殿」

 「いえ、大丈夫です、お構いなく。……って、あれ?ソフィアード……?」

 「ああ、内密に頼むよ。私は、ソルフィアとソフィアード、両家の血を引いているんだ。今の国王がソフィアードの先代当主に手を出した結果産まれたものでね。……正直、あの人のことは全く信用していないんだ。それに、幼い頃はソフィアードの元で暮らしていたのに、王家にそれを壊されたから、その反発もあって。国王が絡む重要な式典以外では、ソフィアードの名を使っているんだ」

 だから、ここだけの秘密にね。そう言って笑うルトレイス。流石王族といったところか、爽やかで好青年といった印象であった。

 あーかっこいい!かわいい!

 知らない人が見れば、高確率でルトレイスではなくバルトローズの方が兄だと勘違いするほど、ルトレイスはかわいい、所謂ワンコ系の外見をしている。穏やかに笑う彼のスチルは、かなり人気があった。かく言う前世のマリファもそう。

 

 好きです、ルトレイス様!前世からずっと!

 

 更にこの王子、ルトレイスルートではリュシフィアからの好感度もある程度上げていないとハッピーエンドに辿り着かない、リュシフィアからの虐めを受けた際に、逆にリュシフィアを傷付けてしまうとバッドエンド直行という難易度である他、裏ルートではリュシフィアへの悪評を流した人物を調べ上げ、全員に何かしらの復讐を施す等、腹黒かつシスコンというギャップ持ちである。

 そのギャップを含め、前世のマリファはルトレイスが大好きだった。

 ほぅ、と見惚れていると、ニコッと笑って首を傾げられる。

 その後の会話も弾み、会合を目的としたお茶会は、とても楽しいものとなった。

 

 王家との繋がりを保ちたいらしい父の計らいによって、その後も頻繁に王城に連れられ、その度にルトレイス殿下かバルトローズ殿下と共に過ごすことになった。頻度が高く、それなりに良い関係を築けていると言う事から、そのうちルトレイスの婚約者に、という話も出ているそうだ。ちなみに、バルトローズは既にリュシフィアと婚約しているそう。

 それに比例するように、教室内では悪口を言われる頻度が上がっていき。

 「……なに、これ」

 机の上に置かれていたのは、ボロボロになったマリファの教材。ついにいじめが発生するようになったのだ。

 「……これは、酷いですわね」

 隣の席に座ったリュシフィアが呟く。リュシフィアは最近こうしてよくマリファの隣で授業を受けている。

 す、と右手が掲げられ、教材が光に包まれる。仲良くなってから知ったことだが、リュシフィアは時空属性への適性持ちであり、魔力量がかなり豊富だ。あっという間に教材の"時"が巻き戻り、傷つく前の綺麗な状態に戻っていた。

 「ありがとうございます、リア様。流石です」

 「どういたしまして」

 小声で礼を言い、周囲を見回す。すると編入初日に悪口を言っていた令嬢数人が、こちらを見てクスクスと笑い合っていた。

 あの人達か、と内心で悪態をつくも、すぐに教師が教室に入ってきたため、そのまま席に座った。

 

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