第6話

 「はぁ……リア様と仲良くなってゲームの内容からずれていってると思ってたのに、ゲーム内で受けてたいじめが起きてる……」

 放課後。最近はリュシフィアのお気に入りのカフェでお茶会をしている。なんでもこのカフェのマスターと知り合いらしく、仕入れ品の優遇をする代わりに割引してもらっているそうだ。

 「やはり、強制力というものが働いているのでしょうかね……」

 ふぅ、と一息ついてからリュシフィアも零す。これだけ仲良くしているというのに、マリファの悪口や悪評は全てリュシフィアが流しているという噂が立ってしまっていた。しかも、マリファの才能に嫉妬して、という理由で悪評が流れており、学院内でも、『悪評は信じないがリュシフィアが流しているというのは事実』という認識が強い。

 「こうなったら、仲良し大作戦いきましょう!私達の仲の良さをアピールして噂が間違いだと証明しましょう!」

 「……いえ、放っておきましょう」

 怒り心頭、というマリファに対してリュシフィアは至って冷静だった。というよりは、無関心であった。悪意の矛先が自分に向いているというのに、彼女は何もしない。

 「……それでいいのですか」

 「……別に、いいの」

 無表情のまま、呟くように告げるリュシフィア。

 ここ数日で、世間のリュシフィアに対する見方がとんでもないものであると、マリファは気づいていた。

 世間にとって、リュシフィアは悪の存在。様々な事象が、理由の無いままに彼女のせいであるとされている。

 例えば、領地から金品を横領している、とか、領民を毎日数人ずつ甚振っている、とか。

 そもそも、十歳で当主になったとはいえ、横領するほどリュシフィアは貧困状態であると言うわけではない。それに、彼女はしばらく領地に戻っていないのだ。横領も、領民を甚振るのも、できる訳がない。にも関わらず、そんな悪評がいくつも立っている。

 まるで、この世全ての悪の根源はリュシフィア・ソフィアードである、とでも言う様に。

 その悪評に耐えきれなくなったのか、マリファが学院に編入する一ヶ月ほど前に、リュシフィアの手引きによってソフィアード公爵領で魔物の氾濫が発生し、ソフィアード公爵領の半分が魔物達の住処である魔の森に飲み込まれたらしい。リュシフィア曰く、その土地は元々魔の森の一部であり、魔の森の主から借り受けて領地を広げていたのであって、条約を放棄して土地を返還しただけだそうだが。

 そんな訳で常に悪意を背負わされている為か、リュシフィアは諦めている様子である。これはゲームの裏話でも語られていた。リュシフィアは悪意を押し付けられているため他人と関わるのを避けており、王家どころか全ての王国民を敵と認識している、と。

 「だからこそ、救いたいんだけどなぁ……」

 マリファの呟きは、リュシフィアには聞こえなかったようだ。

 ゲーム内では、義兄のルトレイスと婚約者のバルトローズは王家の目があって表立って味方につくことができず、従兄のリカと執事のレヴィだけがリュシフィアの真の味方であった。だからこそ、自分も味方になってあげたい。古の魔王に飲み込まれてしまう前に彼女を救ってあげたい。そう思うのに、世界の強制力に邪魔をされる。もどかしく思いながら、マリファは今日もリュシフィアと共に過ごした。

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