転生主人公《ヒロイン》はシナリオを壊す

逸日《いつひ》

第一章 転生ヒロインの奮闘

第1話 

 『……ごめん、ゆず』

 何もない、ただ光だけが満ちている空間。

 声が、聞こえる。悲しそうで、寂しそうで、泣きそうで、溢れんばかりの後悔がこもっている、そんな声。

 『……ごめん、俺のせいで、本当にごめん』

 はっきりとは見えないが、成人男性のような声が、誰かに何度も謝っている。

 これは夢、誰かの記憶だ。夢か、と小さく呟く。

 目の前にいるのは、男性と幼い少女。男性が、繰り返し少女に謝っていた。

 「だいじょうぶ。わたしはだいじょうぶだから、あんしんして」

 宥めるように、そう、幼い声が答えた。

 『折角の君の人生なのに……俺が……俺のせいで狂っていくんだ……大丈夫な訳がない……』

 「それもまたうんめいでしょう?わたしはきにしてない。そんなにじぶんをせめないで?」

 ーーね、****さま。

 光の加減によって茶色にも見える綺麗な黒髪の少女が、そう言って笑いかけている。この少女の記憶だ、と直感で確信した。

 『――――、――……』

 告げられた言葉が、聞き取れない。視界が徐々に白く染まっていった。

 青年から発せられた光が、少女へと吸い込まれていく。

 薄れゆく意識の中、少女の髪色が徐々にプラチナブロンドへと変化していくのが見える。

 『俺の力の全てを、君に託す。―――、頑張って』

 意識が落ちる。その直前、夢見の最後に、そんな言葉が聞こえた気がした。

 

 

 

 ぼんやりと、意識が浮上していく。

 「今のは……?」

 ゆっくりと身体を起こしながら、マリファは呟いた。見慣れない部屋に戸惑うも、ああ、そういえば、と思い出す。平民であったが、先日珍しい聖属性魔術を所有していることが判明し、ここソルフィア王国の宰相ファミール家に養女として引き取られたのだ。

 ソルフィア王国、ファミール侯爵家、聖属性魔術……何かが引っかかる、と思考を巡らせていくと、先程の夢の少女の変化した後の髪色からとあるゲームを思い出し、あ、と声を上げた。

 「あ、お、思い出した……!!」

 途端にもう一つの記憶が流れ込んできた。

 天川あまかわ 茉莉まつり、十九歳。乙女ゲームや小説が大好きな大学生だったが、交通事故に巻き込まれて重症を負い入院していた。

 そして、現在の名はマリファ・ファミール。乙女系ゲーム『光の聖女と国の危機』の主人公の名前。先程の夢に出てきた少女は、年齢こそ違うがこのゲームの悪役令嬢のリュシフィア・ソフィアードの面影があった。

 「え、私マリファになってる!?っていうか、さっきのリュシフィア様の記憶!?」

 あまりに大きな声を出し過ぎてしまったため、使用人に怪訝な顔をされてしまったが、笑って誤魔化し支度を進めた。

 

 

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