第8話

 心にもやもやを抱えたまま、マリファは王宮のある一室に来ていた。今日は第一王子に招かれ、お茶会に参加する予定だ。

 「ようこそ、ファミール侯爵令嬢」

 「ルトレイス殿下、本日はお招きありがとうございます」

 ルトレイスの出迎えに、挨拶を交わして奥に視線を向けると、そこには第二王子のバルトローズとリュシフィアもいた。リュシフィアの側には執事らしき男が控えている。

 「さ、こっちに座って」

 「は、はい」

 緊張しながらも席につく。すると。

 「……さて、他に誰もいないね?」

 「防音対策もバッチリです」

 ルトレイス、バルトローズ、リュシフィアがそれぞれ目配せをし、執事が頷く。そして、

 「「「はぁ〜〜」」」

 三人同時に溜め息をついた。

 「ああもう、色々と嫌になる。あ、レヴィも元の姿に戻って大丈夫だよ。ファミール嬢も普段通りにしていいからね。敬称も何もいらないよ。遠慮しないでね」

 普段の凛々しい王子の姿はどこへやら、完全に砕けた態度に変わったルトレイスの変容振りに、マリファは呆気に取られるしかなかった。リュシフィアは国への恨みをブツブツと呟いており、バルトローズはそんなリュシフィアに苦笑いしつつも所々で同意を示している。

 「え、ええと……」

 困惑していると、ポンと肩を叩かれた。

 「いつもの事です、気にしないでください。これ、ストレス発散用のお茶会なのです」

 そこにいたのは、執事姿の男性。リュシフィアに仕えているようで、軽く小突いている。

 ひとしきり愚痴を零した後、ようやくマリファが置いていかれていることに気づいたらしい三人は、同時に苦笑した。

 「はは、ごめんごめん。ちゃんと説明するね」

 ルトレイスが言うには、三人は親族であり、仲が良いらしい。ルトレイスとバルトローズが異母兄弟であり、ルトレイスとリュシフィアはリュシフィアが養女としてルトレイスの母親の家、ソフィアード公爵家に引き取られているため、義理の兄妹となる。家同士の事情もあり少々複雑な関係性らしいが、あまり気にせずに交流を深めているとのこと。そして、たまにこうして集まり、他人に聞かれないように厳重に警戒した上で、普段は言えない国王やら政策やらへの愚痴や文句など、本音をぶちまけるためのお茶会を数週間おきに開いているらしい。そうでもしないとやってらんないんだ、とルトレイスは告げる。

 「だってリアが冤罪かけられたり、無茶苦茶な命令してきたりするんだよ?あの国王。直接文句言ったら不敬罪になるし、こうでもしないと爆発する。まだ死にたくない」

 「物騒なこと言わないでくれます、兄上?でもあれが父親とかほんと嫌だ」

 「お兄様、バルトローズ殿下、どれだけ自身の父親嫌ってるんですか」

 「「あんなのが父親だとは思ったことないな」」

 「さいですか」

 「なんか、すごいですね……」

 衝撃的過ぎて、正直頭がいっぱいである。そんなマリファに更に追い打ちをかけるように、リュシフィアの執事が。

 「これが彼らの本音という訳です。とはいえ、そう簡単に不敬罪にはなりませんが。何せ内政を殆ど一人でこなすルトレイス様と、騎士団長のバルトローズ様、魔術師団長のリュシフィア様ですからね」

 この国の国防の要、王宮騎士団と、魔物退治の護衛機関、魔術師団。その長である二人と、本来国王や宰相が行うべき職務をひとりでこなしている王太子。それが、ここにいる彼らである。

 並大抵の貴族では太刀打ちできない権力を、この王子達は既に実力で獲得しているのだ。

 勿論、リュシフィアは正体を隠して魔術師団長の座についているのだが。

 「あ、ちなみに、そこにいるリュシフィアの執事だけど、彼、魔神レヴィルストだよ。君はリアと仲が良いらしいし、知っておいたほうがいいかな」

 またしても爆弾発言である。

 ゲームでは普通の魔術師であった悪役令嬢の執事が、魔の森の主であり魔物達を統べる神である魔神だと言うのだ。

 「元々は魔の森の条約に基づく契約ですがね。なんか面白いことになってるから近くで様子見しております」

 ははは、と笑いながら答えるレヴィルスト。見世物ではないのだけれど、というリュシフィアの言葉は聞こえないふりをしているようだ。

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