第9話
出された紅茶も飲まずにあれこれ話し続けていた三人に、冷めますよ?とレヴィルストが声をかける。そうだった、と改めて紅茶を口にした途端、何故かリュシフィアだけが盛大に吹き出した。
ゲホッ、ゴホッ、と苦しそうにするリュシフィア。慌てていると、キッ、とレヴィルストを睨みつけ、
「レヴィ!あんたねぇ!!」
涙目で怒鳴った。レヴィルストはというと、全く悪びれる様子がなく、くく……と笑いを堪えていた。
「毒!入れたでしょう!」
「入れました。良いものが手に入りましたので。……予想通りの反応をありがとうございます、お嬢様」
「ふざけんじゃないわよ」
執事らしくなく、主人に対して毒を盛ったレヴィルスト。起こってはいるものの、平気そうなリュシフィア。え?、と戸惑ってルトレイス、バルトローズの方を見ると、二人ともまたか、と苦笑していた。
「え、毒って、大丈夫なのですか?」
「もちろん。お嬢様には毒への耐性が御座いますので。死にませんよ、これくらいでは」
「魔界毒入れた癖に何言ってるのよ」
魔界毒、とは、魔の森に群生している薔薇に似た植物"薔薇毒花"の花の蜜に含まれている毒のことだ。花粉や花の蜜だけでなく、葉や花弁等、花全体に毒があり、口に含むと一瞬で全身が痺れ死に至る猛毒を持つ。但し、体内に取り込まなければ毒の効果は出ず、触るだけならばなんの問題も無い。正式名称は別にあるものの、魔界で最も強い毒であることから、魔界毒という呼び名で魔界では有名である。ソルフィア王国でも、古代魔術のひとつである、とある呪術で取り扱うものであり、一応一般的に周知されている。
その毒を飲んでも平気だと言うのだ。執事という立場にいながら、主人であるリュシフィアととても親しそうに話をするレヴィルストにも驚きだが、毒を飲んでも(噎せたようだが)平然としているリュシフィアの方が衝撃が強かった。
次々と明かされる友人の事情に、マリファはお茶会の間ずっと混乱し続けていた。
ちなみに、この本音をぶちまけるお茶会だが、この後三時間は続き、夕方になって帰る支度をしなければ、という事でようやく今回は打ち切りという形になったのだった。
帰り際。ルトレイスに送ってもらうことになったマリファは、その道中で、こんな質問をされた。
「……ねえ、マリファ。君は、リュシフィアの事をどう思ってる?」
「……どう、とは?」
質問の意図が分からず、首を傾げる。優しい方だと思いますが、と続けると、良かった、と言う言葉と共に、話をしてくれた。
ソフィアード公爵領が魔の森に接しており、リュシフィアが魔の森の魔物達と取引、条約を結んで国を守っている、言い換えれば魔物達と関わりを持っているというところから、国王が一方的にリュシフィアを嫌っており、悪評を流しては評判を下げているのだという。実力はリュシフィアの方が格段に上であるため、悪意を押し付けて地位を落としたいらしい。
「……まあ、俺とバルはリアをずっと近くで見てきたからね、リアの味方についてるんだよ。たまにあんな態度を取るものの、基本的にはこの国を守りつつも魔物達にも優しくて、慕われる様なすごくいい子だから。……君も、妹を嫌わないでやってね、マリファ」
「はい、もちろん」
力強く頷いてみせると、ルトレイスは安心したように笑い返してきてくれた。
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