第10話
お茶会から約一週間。今日は学院の授業の一環で、学院近くの森へとやって来ていた。
「ではこれから、数人一組になって魔物狩りをしてもらいます。魔術を使いこなすには、実践が肝心です。心してかかるように。怪我をした場合はすぐに私が近くの教師に報告すること。いいですね」
教師の指示の元、グループ分けが始まったのだが。
「バルトローズ殿下、私と共に参りましょう?」
「いいえ、私と!」
既に騎士団長の職を継いでいることが公表されているバルトローズの元に、大勢の女子生徒が集まっていた。
「あ、いや、俺は……」
詰め寄られている本人は困った様子であるが、周りは引く様子がない。
「マリファ様、行きましょう?」
「リア様。勿論です!」
マリファは、声をかけてきたリュシフィアとグループを組んで歩き出す。
「ちょ、待ってくれ!俺もいれろ!」
慌ててこちらを追いかけてくるバルトローズに、顔を見合わせて苦笑した。
「仕方ありませんね、いいでしょう」
「……まあ、こちらが一番安全でしょうしね」
「渋々かよ……というかリュシフィア、婚約者なのだから助けてくれても良いと思うのだが?」
「え、何故?あの人だかりの中に入っていって目立ちたくはありませんが?」
「理由が酷いな!知ってたが!」
言い合いながらも、三人で森を歩いていった。女子生徒達からの射殺すような視線を感じたが、知らないふりである。
「……とはいえ、この森で魔物狩りですか。ここ、殆ど魔物は出ないはずですが……」
「……だよな。騎士団でも、そういう報告を受けてる場所だからな……。本当にいるのか……?」
普段はのどかな森なんだが……と首を傾げるリュシフィアとバルトローズ。疑問に思っていると、何処からか吼えるような声が聞こえてきた。
「この声……ワイバーンね、しかも近い」
小型の飛竜の魔物、ワイバーンだ。そこまで強くはないものの、翼で風をおこして攻撃してくるため、少し厄介な魔物である。
「二人とも下がってろ」
バルトローズが剣を抜き、構える。剣に炎をまとわせ、茂みから姿を現したワイバーンへ斬りつけた。
そのまま炎魔術でワイバーンを燃やす。しばらく絶叫をあげた後、霧散して魔物の魔力の核である魔石が落ちた。
「すごいです、バルトローズ殿下!」
「ま、これくらいはな」
得意気なバルトローズに対し、リュシフィアは微妙そうな様子だ。
「殿下、もう少し魔術の発動スピードあげられません?」
「無茶言うな。これでも限界まで速度上げてやってるんだぞ?お前のスピードがおかしいだけだからな?」
「えー」
「えーじゃねーよほんと……」
なんでも、バルトローズに魔術を教えているのはリュシフィアらしい。彼女の魔術の知識は膨大らしく、分かりやすい上に効率も良いようだ。学院で習うよりも身につくのが早いんだ、とバルトローズが語る。
「今度マリファ嬢も教えてもらうといい。伊達に魔術師団長やってる訳じゃないからな、こいつ。多分全属性の魔術に対応できるぞ」
「へぇ……凄いんですね、リア様……」
「そうね、教えて差し上げましょうか。マリファ様には、聖属性の発動スピードの上昇と、あとは光魔術も扱えるようになっていただきたいですわね」
「え、光魔術もですか?」
「ええ。適性をお持ちですもの」
教会で適性検査を受けたときには、聖属性への適性しか出なかったのだが、リュシフィアが言うには、光属性への適性もあるという。
「ご迷惑でなければ、是非」
「迷惑だなんてとんでもない。お安い御用ですわ」
「気をつけろよ、マリファ嬢。こいつ、スピード重視の鬼だぞ」
「……」
無言で微笑むリュシフィア。次の瞬間、
「いっでぇ!!」
バルトローズの頭上に何故か大量の木の枝が落下してきた。リュシフィアの魔術によるものである。
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