第12話
例の一件からすぐ、リュシフィアの態度が何処かよそよそしくなっていった。リュシフィアではない"誰か"については覚えていないものの、「何かしらの迷惑をかけた」という認識が残っているようで、学院で何度か会話していても、以前より距離が開いてしまったように感じられる。
そして、距離が開いているように感じられる原因がもう一つ。最近、国内の各地で魔物の大量発生が多発しているのだ。魔術師団のみでは捌ききれる量ではなくなっているようで、騎士団や学院の生徒達も討伐に駆り出されており、授業どころではなくなっていた。当然リュシフィアも各地を駆け回っており、会話どころか会う機会すらかなり少なくなっている。
「これは……不味いかもな……」
王宮の一室。ここはルトレイスの仕事場である。魔物討伐の報告書をまとめるマリファの隣で、ルトレイスが呟いた。
「どうかなさったのですか?」
「……ここ。見てみて」
指を差されたところを読む。そこには、『魔物達の攻撃威力、さらに上昇。すぐ近くにいるにも関わらず、リュシフィア・ソフィアードへの攻撃はなし。魔物のなかには、まるでリュシフィア・ソフィアードからの指示を待つ様に待機する者も確認された。この一件に、リュシフィア・ソフィアードが関わっている可能性あり』と書かれていた。
「……え?リア様が?関わっている?」
「勿論本人は否定しているよ。でも、似たような状況が多数目撃されているとの報告があったんだ。流石に無視する訳にはいかないよね……」
困ったな、とルトレイスは眉をひそめた。目撃されている、ということは、おそらくこの情報は既にあちこちに広がっているだろう。
魔物達を呼び寄せ、広めているのはリュシフィア・ソフィアードである、という認識が出来上がるのは、時間の問題だろう。
「話を聞こうにも、向こうは知らないの一点張り。忙しいからとあちこち駆け回り、具体的な釈明はなし。これでは、裏で何かしらの手を引いていると思われても仕方がない状況だ。……これ以上、庇い切れなくなってきたなぁ。どうするつもりなんだか」
独り言のようなルトレイスの呟きを聞きながら、マリファは内心驚きを隠せなかった。
(これ、魔王復活のフラグじゃ……!?)
元のゲームの終盤で発生する、魔物のスタンピート。古の魔王の復活が迫っている証拠であり、またリュシフィアが向けられる悪意に耐えきれず、魔王に身を売る前兆として用意されていたイベントだ。だが、展開が早い。少なくとも、討伐実習から一ヶ月以上後のイベントだったはずだ。
(ど、どうして今……?何処かでイベント間違えた?リュシフィア様、大丈夫なの……?)
焦る気持ちを抑えつつ、書類整理を続ける。
どうすれば間に合うのか。どうすればリュシフィアを助けられるのか。考えがまとまる事はなく、焦りと不安だけが広がっていった。
――この世界に働く、元のゲームの強制力、辻褄合わせの結果、この時点で既にゲームよりも深刻な程、リュシフィアに悪意が集っているのだが、マリファは気づいていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。