第15話 行方不明のケータイは

 何から話そうか思案していると、先に話しかけてきたのはタカノトモミの方だった。


「白い手紙だけどさー、三ヶ月後にどうなるかって書いてなかったでしょ?」


 そう言われればそうだ。

 三ヶ月後にどうなるかは何もわからない。


「前の手紙には『三日後に天に召される』って書いてあったのにね。結局、召されなかったけどさ」


 ほう。

 落ち着いた雰囲気の俺って、なかなか捨てたもんじゃない。

 チャラいより真剣な顔つきの方が良いぞ。

 いや、今はそれどころではない。

 


「この状況って、私達にはどうにも出来ないでしょう? 三ヶ月、このままでいるしかないんじゃないですかね?」


「三ヶ月後にどうなるのかなー?

 また同じ時間を繰り返したりするのかな?

 こういうのって、ループものって言うんでしょ?」


 ループもの……ゲームみたいにセーブポイントからやり直すってコトか?

 そんなコトあるか?


 死ぬ三日前に戻ったのは謎だし、身体が入れ替わったのも謎のままだ。

 事務処理ミスも何もかも『あのお方』の仕業なら、俺達にはどうにも出来ない。



 三ヶ月後に。

 もし、死ぬ三日前に戻れたとしたら……?

 二人とも死なずにすむ『ルート』があるとしたら?



「ねえ。手紙に書いてあった性的接触って、アレのコトだよね?」


「えっ?」


「ね、私の身体でやらしいコトした?」


 いきなりかい。

 ナニを言い出すのかと思えばソレですか。

 18歳なら、そういうコトに興味深々なのはわからなくもないけどな。

 俺の顔でゲスい事を訊いてくれるなよ。


「してないですよ。他人の身体を勝手にいじくり回すなんて出来る訳ないです」


「私はしたよ。えっちなコト」


「えっ!?」


「オジ……トモミちゃんだってお風呂入ったり、トイレ行ったりしたでしょ?」


「それはっ、生活に必要なコトだし、トイレなんて生理現象なんだから仕方ないじゃないですかっ」


 えっちなコトって、俺の身体でナニをしたっ?

 気になるじゃないかっ。


「ここじゃちゃんとした話できないでしょ? 私のマンション行かない? イラストのコトも気になるしさ」


「えー?……そう、ですね」


 なんかフラグと言うか地雷と言うか、トラップと言うか。


 怪しい匂いしかしないんだが。


           ◇


 二人でタカノトモミのマンションに向かう。


「ちょっと前に来ようとしたんだけどね、知らない内に違う道を歩いてたどり着けなかったんだよー。二人一緒だとダイジョブなんだね。なんでかな?」


「え? キミもそうだったの?」


 俺も自分のアパートには近づけなかった。


 そうか。トモミもそうだったのか。

 おかしなコトもあるもんだ。


 何もかも『あのお方』のチカラなら、俺達にはどうにも出来ない。

 それとも、こうなるように仕向けられている、とか?



「あ、そうそう。オジサンのケータイ失くしちゃったみたいでさー。交番で免許証見せて紛失届けは出したんだけどねー。どうしよっか?」


「え? 今はどうしてるんですか?」


「会社のケータイ借りてるから、仕事の連絡はなんとかなってるよ」


 

 俺と連絡が取れなかったのは、やはりトモミが俺のスマホを失くしたからだったのか。


 失くしたとは言うが行動から推察すると、おそらくピンポイントで探せる範囲だろう。

 心当たりがあるとすれば、事件の夜しかない。


 あの夜、トモミは事後に警察に連絡して、救急車に乗り、警察署で紛失に気がついた。と。


 ならば、マンションの裏路地があやしい。


 本当なら人が死んだような場所には行きたくないが、落ちている可能性があるのなら探してみる他ない。


           ◇


 アシ子が亡くなった事件現場には、小さな花束とペットボトルのジュースが供えられていた。


 俺とトモミはそれに向かって手を合わせた。


 それをしたから何がどうなるってものでもない。

 でも、そうせずにはいられなかった。


 トモミの、俺の表情は見ないようにした。



 信頼していた仲間に裏切られたのだ。

 爽やかな顔をしている訳がない。



 俺のスマホは、充電が切れた状態で裏路地の片隅に落ちていた。

 誰にも見つけられずに放置されたままだ。


 警察が現場検証をした筈なのに見つからなかったのか?


 誰にも見つけてもらえないなんて。

 なんか、俺の小説みたいだな。

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