第11話 運命の日 タカノトモミ
《 Side * タカノトモミ 》
運命の金曜の夜。
自動追体験が終わる夜。
オジサン、つまりは私が、駅を出て空を見上げる。
外灯とビルの窓明かりがキレイだな。
イラストの背景に使えるかも。
ふらふらと人通りの少ない裏路地に入っていく。
んー? いつもと違う帰り道だよ?
オジサン、なんで今日だけこの道を歩いたんだろう?
私が住んでるマンションが見えてきた。
うええ、当たるの? 当たっちゃうの?
私が、オジサンに直撃しちゃうの?
なんて思ってたら。
ひゅうっ、グジャッ!
「うわあっ!?」
でっかい肉のカタマリがツブれる音なんて、生まれて初めて聞いた。
1メートル、いや、50センチも離れてなかったから、めっちゃびっくりした。
転んでしりもちついちゃった。
落ちてきたのは。
アシ子だった。
え?
アシ子が落ちてきたっ!?
え? なんでっ??
落ちてくるのは私の身体のハズなのに。
オジサンに激突して、二人で脳ミソぶちまけて死んじゃうハズだったのに。
どうして私の身体じゃないの?
もしかして私、無意識に避けちゃったかな……?
割れたアシ子の頭蓋骨から脳ミソが飛び散ってる。
血の海に街灯の明かりが反射して……なんかキレイだな。
アシ子……死んじゃった………
特別に好きでもなかったけど。
嫌いでもなかったのに。
あれ。
涙が……
こんな別れ方って……ないよ……
◇
ケーサツに通報したのは私。
私も病院に搬送されたけど、全くの無傷だった。
血で汚れた安物スーツは棄てるしかないかな。
クリーニングしても、さすがに着られないよね……
ケーサツにあれこれ事情聴取されたけど、私はただのとばっちりで全くの無関係。
「大変でしたねえ。精神的にショックを受けられたでしょうから、少し休まれていくと良いですよ」
ケーサツのヒトは優しく声をかけてくれたけど、それっきり。
ん。あれ。
ちょっと待て。
私、オジサンのままだな。
うーん。どうしよう……
とりあえず帰ろうかな。
あ!! 締め切り!
カードイラストの締め切りって明後日じゃん!
これはっっ!
何とかしてオジサンと連絡とらないとおっ!
あれっ。あれっ?
ケータイが無い! なんでっ? ドコかで落としたっ?
いつ落としたんだろっ?
転んだ時に落としたっ?
救急車の中かなっ?
救急車から降りた時かなっ?
わかんないんですけどっ!
うっわ、ヤバっ!
どうしようっ!
あ。
別にケータイは無くてもオジサンに、私に会えればいいんじゃん。
って思って、私のマンションに向かってみたものの。
たどり着けない!
知らない内に違う道を歩いてる!?
なんでっ? 意味わかんないんですけどー!
◇
オジサンのアパートに戻ると、また白い手紙がきてた。
三ヶ月もこのままって。
マジかー。
無いわー。
◇
朝。月曜の朝。
やっぱ、仕事には行かなきゃいけないよね……
うわー。また満員電車に乗るのかー。
イヤだけど、でも。
オジサンがこの身体に戻った時に困らないようにしておかないと。
そう思って仕事に行ってはみたものの。
ドコから知ったのかはわからないけど、会社に着いてから何人かから声をかけられた。
災難だったな!とか、生きてて良かったな。とか。
でも、何て答えていいかわからない。
ああ、とか、うん、とかしか言えなかった。
自動追体験だと簡単に見えたパソコンの入力作業は、実際にやってみると、めちゃ大変。
入力、入力、訂正、入力、確認。
入力、入力、訂正、入力、確認。
入力、訂正、訂正、入力、確認。
入力、入力、訂正、訂正、確認。
確認、確認、プリントアウト。
美人上司に提出。
「あんな事があった後だから、精神的に辛いのかも知れないでしょうけれど……ここ、間違ってますよ」
「えっ?」
オジサンがしなかったような凡ミスを連発。
結果、残業。
美人上司は冷たい。
でも、コーヒー淹れてくれた。
あー。
サラリーマンて大変だ。
◇
オジサンに会わなきゃいけないのに、なんか不思議なチカラのせいで私のマンションに行けないんだよなあ。
気付いたら違う道を歩いてるなんて。
どーにもなりませんよ。
三ヶ月の間、この身体で生活するしかないのかな……
やっぱりオジサンに、私に会わなきゃ。
でも、どうやって?
うーん。
あ!
私のホームページにカキコすればいいじゃん!
なんでこんな簡単な事に気付かなかったんだろっ。
オジサン、気付いてくれるかなあ……
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