第9話 タカノトモミの独り言 2

《 Side * タカノトモミ 》


 サラリーマンて大変だ。


 朝は早い。夜は遅い。

 満員電車は気持ち悪い。


 信じられない。ある意味、尊敬ソンケー


 木曜の朝の通勤電車。

 今日は目の前に女の人がいる。

 はー、いい匂い……なんて思う余裕すらない。 

 満員電車に押し込まれるのって、容量オーバーだってわかってるのにデッカイ肉のカタマリをタッパーに無理矢理詰め込んでるみたいな感じ。


 そこには性別なんて関係ない。

 こんな状況でムラムラするとかありえない。


 でもいるんだな、オサワリしちゃうヒト。


 触りたくなっちゃうのって、わからなくもないけどさ。

 チカンで捕まっちゃったりしようものなら人生詰みじゃん。

 あー、こわ。


 オジサンは背が高いから呼吸困難なんて心配はないみたいだけど、目の前に髪の薄いオジサンが来ちゃった時はサイアクだった。


 だって、臭いんだもん。

 頭皮アブラぎってるし、フケだらけだし。

 

 

 でも、背が高いおかげでニオイの直撃は回避できてる。


 私、トモヒサオジサンで良かったよ。いや、よくないけど。

 女子高生の私が満員電車に乗ってたらと思うと……

 ないわー。ムリだわー。

 


 この身体になって初めてわかった。

 サラリーマンて会社に着くまでに疲れちゃうんだ。


 会社に着いたら着いたで仕事に追われて。


 今日も二連モニターとにらめっこ。


 入力、入力、入力、入力、確認。

 入力、入力、入力、入力、確認。

 入力、入力、入力、入力、確認。

 入力、訂正、入力、入力、確認。

 入力、入力、入力、入力、確認。

 確認、確認、プリントアウト。


 えー……っと。淡々としてるなー。


 美人上司は笑顔。

 それはツクリモノだけど、笑顔って大事ですよねー。

 


 肉体労働じゃないのにハードワーク。

 サラリーマンのデスクワークってこんななの?

 私のイラスト仕事もデスクワークだけど……


 生活の為に働いてるのはわかるけど、ナニが楽しいんだろ?

 お金の為? 生活の為? 自分の為?


 うーん。私にはわかんないや。



 オジサンには小説を書くっていう趣味があった。小説家にでもなりたかったのかな?


 と思ってみたけど、そうじゃないみたい。

 今日は寄り道せずにまっすぐ帰宅、シャワー、食事しながらスマホで執筆。


 これがオジサンの生活。

 彼女無しの一人暮らし。スマホがトモダチで家族みたいなもの。


 まあ、わからなくもないけど。


 スマホって便利過ぎるんだよねー。調べれば何でも出てくるし、動画観れるし、音楽聞けるし。

 なんなら会話だって出来ちゃうし。


 この年齢になるとトモダチとかと遊んだりしないのかな?

 

 オジサン、人付き合いが苦手なのかなー?

 まっ、私も他人のコトは言えないかな。


 

 小説創作してるのは好感持てるかな。


 私もデジタルイラスト描いてるから、なんとなくわかる。

 小説でも、イラストでも、手作りアクセサリーでもなんでもそうだけど、創作って大変なんだよねー。

 ゼロから作るってホントに大変だもん。



 次の日。

 外回りの仕事中にコンビニに立ち寄る。

 買ったのはゼリー飲料だけ。


 この時、オジサンは商品のバーコードを店員さんに見えるように差し出した。


 オジサンにとっては当たり前のコトだったみたいだけど、何気ない気づかいに店員さんはちょっとだけ嬉しそうだった。

 

 ふむふむ。

 ひとつ勉強になりました。

 

 私の中で、オジサンの好感度が上がりましたよ。

 


 私の身体に入ってるオジサンは、私の生活の事をどう思ってるんだろ?


 まあ、どうでもいいかなー。


 予定では、もうじき死んじゃうんだし。


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