第20話 運命の夜 タカノトモミ
《 side * タカノトモミ 》
運命の夜。
私がアシ子に突き落とされる夜。
オジサンに激突して死んじゃう、あの夜だ。
あれ? なんでこんなコト知ってるんだろ?
なんか知らない内に元の身体に戻ってるし。
着なれてるハズのセーラー服がなんだか懐かしいな。
ん?
えーと。
私はここからアシ子に突き落とされて、オジサンに激突して……二人とも死んじゃう……んだよね。
そんで、それから……
突然、その瞬間がきた。
後ろからヒトの気配。
「死んでよ」
どこか悲しそうなアシ子の声。
ダメだ。こんなのダメだよ。
私は咄嗟に振り向いて、駆け寄ってきたアシ子を抱き止めた。
身長も体重もアシ子の方が上だから、その勢いを受け止められずに、ベランダの柵でしたたか背中を打ちつけた。
痛いなあ、もう。
抱き止めたアシ子に目をやると。
「うっ……うう……っ!」
アシ子は、泣いてた。
でも、先に言わなきゃ気がすまない。
私は、思いの丈をアシ子にぶつけた。
「なんでっ……ねえっ、なんでこんなっ!
私はまだ死にたくないし、アシ子にだって死んで欲しくない!
なんでっ? なんでこんなコトするのっ?
殺したいくらいに私のコト嫌いだったのっ?
言いたいコトがあるなら、ハッキリ言えばいいじゃん!」
「トモミさんはっ、売れっ子でっ。羨ましくって、妬ましくって……悔しくってっ!」
「何でっ? アシ子だって上手いじゃん!
私にいろいろ教えてくれてるじゃん!」
「お料理だって、家事だってっ!
私がどんなに頑張っても、いつも私に冷たくてっ……」
「私がアシ子の作ってくれたお弁当、残したコトなんてあるっ!? いつも感謝してたんだよっ?」
「そんなのっ、いつもそっけない態度ばかりで、感謝のコトバなんてひと言も言ってくれなかったじゃないですかっ!」
溜まりに溜まったフラストレーションがバクハツして生まれた、突然の殺意。
心のダムが決壊して溢れ出た日頃のストレスが、アシ子をそうさせたみたいだ。
そっか……
言葉にしなきゃ伝わらないコトもあるんだ。
そうだよね。
私が勝手に思ってるだけじゃ伝わるワケ無いよね……
……
ん?
あれ?
あれれ?
私達……なんでベランダで、がっつり抱き合ってるのかな?
アシ子と私って、こんな関係だったっけ?
ん?
なんでアシ子が号泣してるのかな?
運命の夜ってこんなだったかな?
あれ?
運命の夜って……なんだっけ?
「あの、トモミさん」
「うんっ?」
「私たち……なにしてるんですかね」
「えーと……抱き合ってるってコトは。アレじゃない? 百合的な?」
「……トモミさんと私がですか? え。私、なんで泣いてるんですかね?」
「あのさー、前から思ってたんだけどさー。アシ子って、おっぱいおっきいよねー」
どさくさ紛れにアシ子のおっぱいわし掴み。
ずっしりしてるのにふわふわで、私の手には収まりきらない大ボリューム。
うん、間違いなくGカップ以上だね。
「ひゃあっ!?」
すっとんきょうな声をあげて、アシ子はずざざっと私から離れた。
「せっ、セクハラですよっ!?」
「えー? いーじゃん、女の子同士なんだしさー。ねえ……一緒におフロ入ろっか?」
「この流れでおフロ入ったら、トモミさんっ、間違いなく私のおっぱい触りますよねっ?」
「当然でしょー! おっぱいはナマで触ってなんぼだし!」
「……オヤジくさいですよ、トモミさん」
「えー? オジサンじゃなくてオヤジなのー?」
ん?
オジサン……って?
なんだろ。
懐かしいような、切ないような……
なんか、大切なコトがあったような……
「あの、手作りアイスありますよ? 食べます?」
「えっ!? アシ子の手作りアイスっ?
食べますよ、食べますともっ!
その前に一緒におフロにっ! おっぱいの洗いっこしようっ!」
「イヤです! おフロはひとりでどうぞっ」
アシ子とこんな風に話したのって、久しぶり……いや、初めてかも。
イラストのコトばっかり考えてて、アシ子に冷たく当たって……
「ねえ、アシ子っ」
「はい?」
「これからは『リカちゃん』て呼ぶねっ?」
「えー!? いきなりですかっ?
恥ずかしいですよっ!?」
「いいじゃん! だって『リカちゃん』なんだしさっ。ハイ、決まりー!」
ふと見上げた夜空には星。
なんだろ。いい夜じゃん。
運命の夜にしてはさ。
ん?
……運命の夜って……なんだっけ?
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