第49話 アニメ化するならそろそろパンチラくらいしろ⑤~テルと部活の変なルール~

「アニメ化するならそろそろパンチラくらいしろって言ったら、ホリーにビンタされて、リンダちゃんに説教されて、アイラちゃんにはずかしめられて、ランプちゃんのパンツ見た。興奮した」



 ダッシュ練習の後の休憩時間、レゴが興奮気味こうふんぎみに言うと、脇腹わきばらおさえるテルは、息を切らせつつ応えた。



「何を、言ってるんですか、レゴ先輩は?」


「はい、先輩禁止。もう、テルちゃんったら、何度言わせるの?」


「だ、だって、先輩のことをするの、その、慣れなくて」


「慣れなよ。入部してから、もうずいぶんったでしょ」


「でも、何なんですか、このルール? わざわざ先輩のことちゃん付けで呼ばなくちゃいけないなんて」


「簡単な理由だよ。試合中に、悠長ゆうちょうに先輩なんて付けて呼んでたらパスのタイミングのがすでしょ」


「そ、それはそうですけど、試合中だけそうすればいいんじゃ」


「日頃やっていないことが試合でいきなりできるわけないでしょ。試合でやることは、練習中に全部やっておく。これ、鉄則」


「うぅ、レゴ先輩、いつも変なことばっかり言っているのに、ときどきまじめなこと言いますよね」


「ときどきとは何だ。それにまた先輩って言っているし。あと、敬語も禁止だからね。先輩後輩みたいな上下関係があると、言いたいこと言えなくなっちゃうから」


「それも、苦手なんですよね」


「何でよ。普通に友達だと思って話してくれればいいだけなのに」


「私の通ってた中学って、めちゃくちゃ上下関係厳しかったんですよ。廊下ですれ違うときは後輩がはしけるとか、歩きながらの挨拶あいさつ禁止とか、髪を肩より伸ばしちゃだめとか、敬語は絶対だし、雑用が1年の仕事なのは当然なのに、2、3年が部室使い終わるまで、1年は使っちゃだめとか、他にもいろいろ」


「何それ? 戦前の軍学校か何かなの?」


「その例えはよくわかりませんけれども、上下関係は厳しいのが当たり前だったから、いきなりフランクに話せと言われても、なかなか難しいと言いますか」


「大丈夫大丈夫。ゆりいところから厳しいところに順応じゅんのうするのはたいへんだけど、厳しいところから緩むのは簡単だから。堕落だらくするだけだから。人間って、基本設計が堕落するようにできているから、肩の力を抜けばすぐだよ」


「レゴ先輩がそう言うから、しばらくがんばってみたんですけど、その、先輩のことをちゃん呼びなんかして、もしも、中学の先輩に見られたらなんて考えたら、怖くて!」


「あー、重症だね。トラウマになっちゃってんじゃん」


「すいません」


「いや、謝らなくていいんだけど、テルのせいじゃないし。うん、そういうときは、冷静に1つずつ確認していけばいいんだよ」


「確認ですか?」


「そう。まず、このバスケ部に中学の先輩はいるの?」


「いえ、いないです」


「じゃ、高校には?」


「えっと、バスケ部以外の先輩なら何人もいますけど、バスケ部の先輩は3人います」


「そいつらはバスケしてないのね。で、そいつらが体育館に来る可能性はある? ないよね? だって、バスケやめちゃったんだから」


「えっと、そうですね。ないと思います」


「じゃ、気にすることないじゃん。ここには、テルの怖がる先輩はいないんだし、好きにやればいいんだよ」


「で、でも」


「まだ何かあるの?」


「他の高校には、バスケしている先輩はいるので、練習試合したとき、私が、皆さんのことをちゃん呼びなんてしてたら、生意気だって怒られるかも」


「他の高校のことは気にしなくてよし」


「でも」


「デモもテロルもないの。他の高校の奴に何か言われても気にしなくていい。今は、テルは、私の後輩なんだから。私がいいって言ったらいいんだよ。もしも、中学の先輩に何か言われたら、私に言いな。二度と口出しできないようにしつけてやるから」


「レゴ先輩……!」


「先輩はいらないんだぜ」


「レゴ、ちゃん」


「お、できるじゃん」


「私、レゴ、ちゃんのこと、バスケはうまいけど、意味わかんないことばっかり言う、危ない人だと思ってたんですけど、本当は、とっても優しい先輩だったんですね!」


「おう、何か途中の言葉がぐさぐさくるけど、そういうこったい」


「パンチラがどうとかっていう、バカみたいな話題も、私達、後輩の緊張を解くためにわざとやっていたってことか。失笑しっしょうせざるを得ないピエロを演じていたんですね! やっとわかりました!」


「テル、ちょっと話そうか。いろいろと誤解がある気がする」


「あ、もう休憩終わりますよ、レゴ先輩、じゃなかった、レゴちゃん! パス錬もがんばっていきましょうね!」


「う、うん。まぁ、テルが一歩進めたんなら、それでいいか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る