第2話 アニメ化するなら私はピンク髪がいい②~女子高生とSF~

「もしもアニメ化するんなら、私はピンク髪がいい」



 放課後の教室で、レゴは机を叩き、まるで妙案みょうあんを思いついたかのように目をきらめかせた。



「またかよ」



 つまらなそうにホリーは答えてから、ペンを置き、苺牛乳の紙パックを手に取ってストローをくわえた。



「何を話そうと思ったのか思い出したのよ。だいたいさっきは、私が宣言しただけで終わっちゃったじゃない。もしもこれがウェブノベルだったら、記念すべき第一話が、本編に入らず脱線で終っちゃったみたいなかんじだよ。どうすんのよ、これ」


「知らねぇよ。だいたいウェブノベルみたいに、過激さが求められる媒体ばいたいに、日常モノなんて書かれないだろ」


「いやいや、それはどうですかね。確かにウェブノベルって、大スペクタクルファンタジーみたいなのが多いけれど、日常モノも合うと思うんだよね」


「そうか? ウェブノベルのいいところって、文字数制限なしに、いくらでもかけるところじゃねぇの?」


「まぁ、ウェブノベルの利点にそういうところはあるよね。でも、読者の視点から考えると、かるくさっと読めるという利点もあるわけよ」


「スマホで読めるからな」


「そう。4コマ漫画なんかがそれでけっこう人気でしょ。最近だともっと短くて1コマ2コマが多いし」


「ツ〇ッターのフォーマットに合わせてだろうな。4コマだと下の方きれちゃうし」


「ウェブノベルも同じだと思うのよね。やっぱりスマホで読めるような掌編に需要があると思うの。だとすると日常モノは相性抜群あいしょうばつぐんのはず!」


「ふむ、レゴにしては、なかなか説得力があるな」


「でしょ!」


「ただ、日常もののウェブノベルってどうなの? それってもはや日記じゃん」


「ぜんぜん違うよ! 女子高生の日記なんて読んでも一ミリもおもしろくないでしょ!」


「それは偏見だろ。女子高生の人気ブログとか百万フォローのツ〇ッターアカウントとかあるしさ。あれって、いわば日記がおもしろいってことじゃん」


「はぁ? あれは、徹底てっていした市場調査と、プライベートをさらす覚悟と、フォロワーにひたすらびるプロ魂の結果だろうが。その辺のお気楽ダイアリーと一緒にするなんて失礼だろ。なめんなよ」


「どんだけリスペクトしてんだよ。怖いよ」


「まぁ、女子高生のフォロワーの半分は、エロ目的だと思うけど」


けなすのかめるのかどっちかにしろよ。それと、どっちにしろ偏見が強い」


「とにかく、日常モノのノベルと日記は別モノなの」


「はいはい、それはわかったんだけどさ、日常モノについて、そもそも言いたいことがあるんだけど、女子高生の日常モノってさ、何であんなに勉強シーンが少ないの? 普通に考えたら、授業受けている時間がいちばん割合長いんじゃねぇ?」


「そんなのつまんないからに決まっているでしょ」


「まぁ、そうなんだが」


「日頃、を発散するために、アニメ見たりウェブノベル読んだりしているのに、その中でも女子高生が延々と勉強していたら、発狂するわ。あれ? 社会のやみとらわれてない? どうやって抜け出すのこのラビリンス? ってなるわ」


「何か、SFとかにありそうだよな。アニメの中の女子高生も、延々と勉強する女子高生のアニメ見ててさ。あれ? もしかしてこの世界もアニメで、誰かが見てんじゃないの? って不安に思い出したところで、ふと画面の中の女子高生が、こっちを向くみたいな」


「え? 何それ? 怖い!」


「想像しちゃうと怖くなるよな。誰もいないところで、視線を気にするようになってさ」


「どうしよう、お風呂入れなくなっちゃう」


「何だよ、おまえ、そんな怖がりだったか?」


「そりゃ、怖いでしょ。誰かに見られながらお風呂入るとか」


「いや、そういう意味じゃないんだけど」


「というか、私のお風呂シーンがあるってことは、18禁ってことだよね。だとするとこの世界を見ているのは間違いなく男子だから、女子高生が見ているというループが途切れちゃわない? どうしよう、作品を破綻はたんさせちゃうな」


「もはやどういう心配なのかわからないが、やはりおまえが一般的な恐怖心を持っていないことはわかった」


「常識にとらわれない女なのさ」


「非常識な女なんだな」


「おい、言い方」



 そこで、ん? とレゴは首をかしげる。



「あれ? 結局何の話だっけ?」


「レゴは、18禁って話だろ」


「ちょっと私を卑猥ひわいな女みたいに言わないでよ」


「あ、話しかけないでくれる? あたし、まだ18歳未満なんで」


「え! そのルールだと、高校で話せる人いなくない?」


「……」


「ねぇねぇ! 話そうよ。ごめんってば! ちゃんとテス勉するから!」



 その発言が既に矛盾しているんだけど、とホリーは内心あきれていた。だけど、わりと本気で焦っているレゴがおかしかったので、もう少し放っておこうと、ホリーは視線をらして、しれっとストローをくわえた。

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