第3話 アニメ化するなら私はピンク髪がいい③~てんどんとタイムリープ~

「もしもアニメ化するんなら、私はピンク髪がいい」



 放課後の教室で、レゴはレモンソーダをストローで音を立てて飲み干してから、まるで小悪党のように笑みを浮かべた。



「もういいよ」



 ホリーは英単語帳をめくりながら、一つ欠伸あくびをしつつ応えた。英単語なんて、どう考えても眠りの呪文にしか思えないと、ホリーは目をぱちぱちとしばたかせる。



「何回同じこと言うんだよ。一言一句同じじゃん。コピペじゃん。底辺ノベル作家でも、もう少し文面考えるよ」


「だって、同じこと言いたいんだもん」


「かんべんしてくれよ。ただでさえ英単語覚えようと何回も同じとこぐるぐるしてんのに、おまえが同じこと何度も言うから、時間ループしてんじゃねぇかって頭おかしくなりそうなんだよ」


「うわっ、タイムリープものじゃん。好きなんだよね。誰かを助けるために何度もトライするヒーローってかっこいいもん」


「昔からよくあるテーマだな。あたしは、ループから抜け出せないっていうSF設定の方が好きだけど。って、このパターン、もういいよ! 何回やるんだよ、この脱線して話題を忘れちゃうパターン!」


「えー、じゃん」


「だから、ループしてんだって。微妙に違うことやってんのにループから抜け出せないかんじが、余計にそれっぽいんだって」


「てんどんは3回繰り返せって笑いの神様も言っていたよ」


「それはお笑いの世界での話であって、日常では、ただ単純に鬱陶うっとうしいだけなんだよ!」


「ひどーい。友達に鬱陶しいとか言っちゃいけないんだ」


「友達には言わねぇよ」


「え?」


「あ?」



「「……」」



「あー、そっかそっか。そういうこと言うんだ。へー、まー、そうだよね。私って鬱陶しいもんね。そんな子と友達にはなれないもんね」


「いや、今のは売り言葉に買い言葉っていうか」


「いいよ、いいよ。よく言われるから。鬱陶しいとか、うざいとか、つまんないとか」


「全部その通りだけど、友達かどうか別問題でだな」


「全部その通りなんだ……」


「あれだよ。ほら、友達じゃなかったら、こうやって一緒にテス勉とかしないじゃん」


「じゃ、私達、友達?」


「まぁ、そうなんじゃねぇの?」


「えへへへへへへへへへへへへへへ」


「……うっぜ」


「もう、照れなくていいのに」


「照れてねぇし」


「うふふ」


「あー、うぜぇ。やっぱりもう話さねぇ。おまえとは金輪際こんりんざい話さない」


「えー、お話しようよ。私の発言起点にタイムリープしていることについて語り合おうよ」


「また脱線しているから! 主題とは正反対の方に向いているから! インド行こうとしてアメリカ大陸に上陸しちゃっているから!」


「ほら、私って、海賊王目指しているから。うずいちゃったかな、冒険魂が」


「だから、恐れ多いんだよ!」


「もう、わかったってば。脱線せずに、一つのテーマについて語ればいいんでしょ」


「今さら言われても、フリにしか聞こえないけどな」


「いやいや、私だってまじめに話そうと思えば話せるよ。でも知らなかったんだもの。ホリーが、そんなに”アニメ化したときの私の髪色”について語り合いたかっただなんて」


「なっ!」


「脱線せずに、じっくりと語り合いたかったのね。でも、ホリーちゃんが私の髪色に興味津々だなんて、ちょっと照れちゃう」


「違ぇよ! そんな話題に一ミリの興味もねぇよ! 一ミリも興味ねぇけど、せめて脱線せずに話せよっていう常識をいているいるんだろうが!」


「ツンデレちゃんめ!」


「うっさいよ!」



 はぁ、とため息をついてから、ホリーは、単語帳を机の上に放り投げて、手をひらひらと振った。



「もういいから、さっさと話せよ。アニメ化するとか、さっぱり意味わからない上に、そのときの髪色なんて、死ぬほどどうでもいいけれど、話さないと終わらないんだから」


「オッケー。でも、もうバイトの時間だから、また今度ね」


「ふっざけんな!」

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