アニメ化するのなら私はピンク髪がいい

最終章

アニメ化するなら私はピンク髪がいい

第1話 アニメ化するなら私はピンク髪がいい①

「もしもアニメ化するんなら、私はピンク髪がいい」



 放課後の教室で、レゴは、パンッと机を叩き、妙案みょうあんを思いついたとでもいうかのように言い切った。



「何言ってんだ? おまえ?」



 面倒そうに答えたのは、ホリーである。彼女は、ノートに数式を書き終えてから、やっとと言ったふうにレゴを見上げる。それを待っていたかのように、レゴは話し始める。



「いやさ。昨今さっこん、日常アニメってあるじゃない? 女子高生の何気ない日常をえがく、ほんわかアニメ。私、けっこう好きでさ、よく見るんだよね」


「あー、あたしも見るぞ。ひらがな4文字系のやつな。勉強で疲れているときなんか、BGM代わりになる」


「そこは、ちゃんと見なさいよ。まぁ、それはいいとして、ライトヲタクなホリーでも見ているんだから、一ジャンルとして確立しているといって過言でないわ」


「むしろ今更いまさら感があると思うけどな」


「つまり、私達のこうした何気ない日常が、アニメ化されることだって十分あり得るってことよ」


飛躍ひやくし過ぎだろ。何が、つまり、なんだ?」


「え? だって私達、女子高生なんだよ?」


「そんな、何でわかんないの? みたいな言い方されてもわかんねぇよ。女子高生だからって何だよ。日本に女子高生が何千万人いると思ってんだよ」


「人口一億人なんだから、何千万人もはいないんじゃない?」


「うっせぇよ。急にマジレスしてくんなよ。そのくらいたくさんいるんだから、私達がピックアップされてアニメ化なんてされるわけないだろってことを言ってんの」


「あまい! あまいよ、ホリー! 駅前のあの店のシュークリーム並みにあまい!」


「あー、昨日、食べたな、シュークリーム」


「選ばれてからでは遅いんだよ! 今の内から、しっかり考えておかないと、いざというとき、しどろもどろだよ!」


「いや、知らんけど。というか、今さら突っ込むのもアレなんだが、その選ばれるシステム何だよ。おまえ、昨今の日常アニメは、実在の女子高生をモデルにして作られていると思っているのか?」


「は? そんなわけないでしょ」


「そうだよな。そこまでバカじゃないよな」


「半分は創作に決まっているじゃない」


「半分はドキュメンタリーだと思ってんのかよ」


「ふふ、そうでないと、言い切れるかしら?」


「言い切れるよ。何だ、その雑なミステリアスキャラ」


「あー、溢れ出ちゃったかな。ほら、私、ふ〇こちゃんにあこがれているから」


「口をつつしめ。恐れ多い」


「もう、夢がないな。私が誰に憧れていてもいいでしょ」


「誰に憧れていてもいいが、とりあえず、私達の日常生活がアニメ化することだけはないから、この話終わりでいいな」


「するかもしんないじゃん!」


「しねぇよ。いったいどういう経緯いきさつでそうなる想定なんだよ」


「ほら、現存する日常系マンガの作者が全員死んだとか」


「おまえの妄想のために、無垢なマンガ家を勝手に殺すな」


「いや、女子高生のことなんて一ミリも知らないのに、売れるからっていう理由で日常系マンガを書いてるおっさんマンガ家はだいぶんごうが深いと思うけど」


「やめてやれよ」


「日常マンガとかアニメの女子高生ってありえないくらいピュアなのに、体つきが無駄にエロいじゃん。そういうところに生涯しょうがい女に縁のないようなモテない男の妄想を感じる」


「おまえ、マンガ家に何かうらみでもあんのか?」


「可能性の話をしてんのよ。もう少しあり得そうな話をするなら、そうね、例えば、実在の女子高生をアニメ化するっていう企画が流行はやるとか」


「あり得ないと言いたいところだが、何が流行るかわからない世の中だからな。実際、高校生VTuberとかは、それに近いわけだし」


「でしょ! あり得るわけよ。だから、そのときのために、私達は、今から、イメトレをしておくべきなのよ!」



 もはや言い返すのがバカらしくなったと言わんばかりに、ホリーはため息をついた。



「はいはい、わかったから。それで、もしもアニメ化したらどうしてほしいんだっけ?」


「えっとね、あれ? 何だっけ?」


「おい」



 本気で首をかしげるレゴを一瞥いちべつしてから、ホリーは再びノートに視線を落とした。



「ちゃんと勉強しようぜ。テスト近いんだし」


「はーい」





ーーーーー


〇コンセプト


この物語は、自分達の日常がアニメ化したら、という妄想をひたすら並び立てる女子高生たちの山も谷もない会話劇です。

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