第6話 アニメ化するなら私はピンク髪がいい⑥~神様とピンク髪~

「もしもアニメ化するんなら、私はピンク髪がいい」



 スマホの奥から、レゴの大きな欠伸あくびえたセリフが聞こえてきたので、ホリーもつられて大きな欠伸を一つした。



「おまえ、黒髪じゃん」



 そろそろ言っておこうと、ホリーはベッドの上で寝がえりを打ちつつ、ぽつりと突っ込みを入れる。



「いや、真っ黒じゃないでしょ」


「少し明るい程度だろ。風紀検査で先生に止められないくらいの」


「ぶっぶー、一回だけ聞かれたことありますー」


「それをほこってる時点で、高が知れていると思うんだが」


「別にそれでいいの。アニメはデフォルメ。黒じゃないんだったら、もうそれは茶髪であり金髪でありピンク髪なのよ」


「極端なものの考えだが、まぁ、そこは置いておくとして、おまえの理論にのっとったとしても、茶髪でいいじゃん。何でわざわざピンク髪なんだよ」


「え、だって、いちばん女の子っぽいじゃん」


「そんな理由?」


「いやいや重要だよ。ピンク髪のキャラって、たいていいちばん女の子っぽいでしょ。モテモテで、つやっぽくて、グラマラスボディで」


「そうでないキャラが少なくとも両手で数える程度には思いつくんだが」


「そうでない場合は、主人公とかでしょ」


「うーん。まぁ、そういう場合もあるかもな」


「あれはね、美人な上に主人公では、完璧過ぎて、みんなの反感を買ってしまうから、わざわざスペックを落としているの。ポテンシャル的には、モテモテのグラマラスボディなのよ」


「ポテンシャル的に、って何だ?」


「私もそうなりたい」


「”ポテンシャル的に”の説明を」


「私もそうなりたい!」


「はぁ、百歩譲って、そうだとしてもさ、無理じゃね」


「何で?」


「おまえ、ぺたんこのちんちくりんじゃん」


「何おぉ!」


「顔については友達だから何も言わないでおくとして、天パだし、背は低いし、胸ないし、足短いし」


「足は短くないから! 普通だから!」


「あと足臭いし」


「臭くないし! ていうか、足はみんな臭いでしょ! バッシュ脱いだ後はみんな臭いじゃん! 私の足はフローラルの香りするけど!」


「フローラルの香りって何だよ。もしも、そんな香りするんだったら病気だよ。病院行け」


「いいんですぅ。アニメでは香りはわからないから、そういう設定にしておけば、みんな信じるんですぅ。レゴちゃんの足を嗅ぎたいって思うんですぅ」


「それ、うれしいのか?」


「いや、普通にきもいな」


「じゃ、言うなよ」


「いいの。ピンク髪にさえなれば、ポテンシャル的に解決するんだから。背がすらーっと高くて、胸がでかくて、足が長くて、顔面偏差値がんめんへんさち満点の超絶美人になってんの。ポテンシャル的には!」


「だから、”ポテンシャル的には”って何なのかを教えてくれよ。それと、偏差値に満点はぇ」


妖艶ようえんな大人女子に私はなる」


「答えてくんねぇんだよな。まぁ、それはいいとして、ピンク髪に大人要素はないんじゃねぇの? どっちかっていうと童顔の方が似合いそうだけど」


「……やだ」


「いや、やだって」


「私、大人っぽい女を目指しているから」


「いや、どっちかっていうと童顔だし、そういう意味ではピンク髪似合いそうだとあたしは思うけど」


「いやなの。私は大人っぽいピンク髪になりたいの」


「うーん、なんていうか、ピンク髪で大人っぽい見た目って、ただただエロくね?」


「ん?」


「淫乱ピンク」


「やめろ」


「くそビッチピンク」


「やーめーろーよ。私のピンクちゃんをおとしめるなよー」


「ということで、大人っぽいという要素を取り除いたうえでレゴのピンク髪を認めます」


「意義あり!」


「却下します」


「裁判長~」


「いや、あたし、裁判長じゃなくて神様だから」


「神様~」


「ピンク髪は認めたんだからいいだろ」


「というか何で許可制なの?」


「そこに疑問を持つのならば、あたしは、この心底くだらない話を、どうして何度も何度もあたしにしてきたのかを問いたいね」


「え? おもしろいこと考えたから、ホリーに聞いてほしかっただけだけど?」


「そっかぁ」


「そうなんだよぉ」


「レゴは知らなかったかもしれないけど、あたしに話しかけるのも許可制なんだ。今度からエマに話を通してからにしてください」


「え!? ホリーと話すのにライセンスいるの!?」


「国家資格が要ります」


「国なの!? 国が管理しているの!?」


「まぁ、神様だからね」


「さすが神の国、ジャパーン!」


「それは意味が違うけど、もういいよ」


「あ、めんどくさくなったな!」


「めんどくさいという意味でいえば、おまえに関わることは、めんどくさいと思っているんだけど、口には出さずにこうやってオブラートに包んでいるんだ。感謝してほしい」


「ぜんぜん包めてないけど!? ていうか、”すべからく”の使い方が違いますぅ。典型的な誤用おつー。ぷふー。国語教えてあげよっか?」


「そういうとこだよ。はー。めんどくさい」


「めんどくさい言うな! 友達とのふれあいをめんどくさいというなんて、まさにゲスのきわ――



 そこで、ぷつりと通話が切れた。ホリーが身体を起こして確認すると、どうやら電池が切れたらしい。そういえば充電するのを忘れていた。


 

「タイミング完璧だったな」



 どうやら本当に神様はいるらしいなと、ホリーは小さく笑った。


 それから、スマホを充電器にさして、明かりを消し、ホリーは床につく。さっきまでやけにうるさかっただけに、急な静けさは、心地のいい眠りを誘った。


 んー、と寝返りを打って、そのまま寝息を立てようというところで、むにゃとホリーはつぶやいた。



「あいつ、黒髪の方が似合うと思うけどな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る