第26話 アニメ化するなら天才キャラにしてほしい⑤~教養とお小遣い~

「アニメ化するなら、天才キャラにしてほしいって話をしたじゃんか」



 机の上にノートを広げて勉強するかのような姿勢を見せるエマは、ななめ前に置かれたスマホかられるレゴの声に反応した。



「それはどうでもいいんだけど、今日の話をさ、エマね、ママにしてみたの」


「どうでもよくはないんだけど、どの話? 天才キャラの話?」


「ううん、違う」


「エマのしているいかがわしいバイトの話?」


「違うし、別にいかがわしいバイトではないから。ただ、いかがわしい目的で来店する人が多いだけだから」


「まぁ、それは普通に事案じあんだけど」


「そうじゃなくて、テストの1点100円ルールだよ。あれ、レゴちゃんにしてはいいこと言うなって思って、まじめにママに話してみたの」


「ちょっと待って。今、レゴちゃんにしては、のくだりが消化できなくて止まっちゃっているから」


。でさ、ママに話したら、だめって言われた。ひどくない? お金もらえたら、絶対点数あがるのに。もうさ、なんか、それでやる気なくなっちゃった」


「まるでそれまではやる気あったみたいな言い方が気になるけど、そうなんだ」


「ママ、ケチなんだよ。お小遣こづかいも少ししかくれないし。自分の服はいっぱい買うくせにさ、エマの服は買ってくれないし。いや、買ってはくれるんだけど、もっと買ってほしいし。だから、エマ、仕方なくバイトしているのに、成績下がるから、バイトもやめなさいとか言うし。もう意味わかんない」


「うーん、話を聞く限り、真っ当なことしか言ってない気がするけど」


「お金のために勉強するのはダメとか言うんだよ。じゃ、何のために勉強するのって思わない? 自分だってさ、お金をかせぐために仕事しているのに、エマはダメなんだって。おかしくない?」


「あー、それな。難しいところだよね。正直、どっちの立場でも反論は思いつくけど、とりあえず、エマママは普通に良いママだってことがわかって安心した」


「どこが? エマね、もう、今日、ママのことすごい嫌いになった。明日から口きかない」


「小学生か」


「だってさ」


「お金のためでなく自分のために勉強しなさいって言いたいんでしょ。エマママは」


「自分のためって何? 勉強がエマのためになるなんてこと、絶対にないよ。数列とかベクトルとか、運動方程式とか、ありおりはべりとか、将来、絶対に使わない。エマ、断言するね」


「仕事にるんじゃない? まぁ、使う人は使うでしょ、数学とか物理はさ。それに、学校の勉強は使える使えないじゃなくて、だから」


「教養?」


「そ。わかりやすく言い換えるなら、趣味とかトリビア、豆知識。なんだよ」


「無駄なんじゃん」


「世の中にある知識なんて、99%が無駄なんだよ。その中からたまに使えるものが出てくるだけで。それがどれかわかんないから、とりあえず全部さらっと教えておいて、あとは皆さんお好きにお使いくださいってかんじになってんの。まぁ、パパの受け売りだけど」


「えー。要領ようりょうわるくない? 99%無駄なんだったら、残りの1%を教えてくれればいいじゃん。エマでもそう思うのに、どうして大人がわかんないの? 頭わるくない?」


「そう言っている人もいるけどね。例えば、役所での手続きの仕方とか、お金の稼ぎ方とか、料理の作り方とか、そういうを教えたらどうだ、って」


「そう! それだよ! そうすればいいじゃん。学校の勉強なんてわからなくたってみんな生活できているでしょ。それって、つまり、生きていく上で、学校の勉強って必要ないってことじゃん。教えること間違っているんだよ」


「学校の主張を代弁する必要はないけれど、それは学校で教えることじゃないってかんじかな。さっきも言ったけど、学校で教えるのはあくまで教養。そういった生活に必要な知識は各家庭で教えてくださいってスタンスかな」


「誰も頼んでないよ。エマ言った? 生きていくうえで何の役にも立たない無駄知識を教えてくださいって? そんなの希望する人だけでいいじゃん」


「そういう意見もあるとは思うけどね。とりあえず、今のところは、このくらいの教養は持っておけよ、ってお国が言っているから、私達はこうやって勉強しているわけで、ちゃんとわかっているか? という確認のためにテストがあるんだよ。さらにいえば、その教養の多さで、入れる大学のレベルが変わって、その先の就職先の幅が変わる。結果的に、勉強しておいた方が、お金は稼げるのです」


「じゃ、やっぱり、お金のために勉強するんじゃん」


「世の中、本音と建て前というものがあるのですよ。直接的にお金のために勉強するっていうと引いちゃうんだよね。エマママもそうだと思うよ。マイルドにいかないと」


「エマ、そういうの嫌い」


「だろうね。まぁ、私も似たようなことを思うけれど、だからって、反抗しても仕方ないから、私の場合はママを怒らせない程度に点数を取ってやり過ごしている感じかな」


「レゴちゃん、そういうところ要領いいもんね。あー、エマもそうなりたいなー」


「エマはエマで要領いいように思うけどね。何かできるわけじゃないけれど、何だかんだで、全部うまくいくでしょ。あれだよね、根っからの主人公体質なんだよ」


「ふふ、エマ、姫だから」


「それ、気に入ったの?」


「うん。エマにぴったりだよね」


「自分で言っても嫌味いやみにならないのがすごいよね。羨ましい」


「でも、そっか。本音と建前か。勉強するからお金ちょうだいってのはだめなんだね。じゃ、商品券だったらいけるかな? あ、なんかいけそうな気がしてきた。ちょっとママに聞いてくる! ママー! あのねー、エマ、天才的なこと思いついた! 聞いてー!」


「……平和だなー」

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