第9話 アニメ化するならキャラを立てなきゃね③~大貧民と黒歴史~

「アニメ化するなら、キャラを立てるべ!」



 ぐっと腕を伸ばして背をらしつつ、レゴが叫ぶのを聞いて、同じようにエマも猫のように背中をばし、にゃーと答えた。



「立てるベー」


「べー」


「べー」


「勉強飽きたんだべー」


「エマもなんだべー」


「ちょっとバスケしに行こうぜ」


「だめだよ。テスト期間は部活禁止なんだから」


「ちょっとくらいいいじゃんよ」


「バレたら、めっちゃ怒られるよ。エマ、怒られたくない」


「怒られてこその人生だぞい」


められたい人生だったぞい」


「そしたら、河川敷の公園行こうよ、あそこリングあるし」


「やだ。エマの家、反対方向だもん」


「チャリンコだろ。少しは動けよ。おまえ、そんなんだとまた太るぞ」


「また、って何? エマは太っていたことなんて一度もないよ。今までもこれからもエマはパーフェクトボディだよ」


「ほーう。では、昨年の正月の写真をおぬしに転送しようではないか。待ち受けにするがよい、この豊満ボディ」


「やーめーて。もう、その写真、消してって言ったのに」


「ぬふふ。何を言うか。わしとおぬしのよき思い出をなかったことにするわけないではないか」


「黒歴史なんだよ。あのときは、開放感と空腹とおいしいお餅とおせちが重なっちゃったんだよ。ポーカーでいえばフルハウスだったんだよ」


「大富豪でいえば、革命だったわけだ」


「大貧民ね」


「大富豪」


「大貧民」


「大富豪!」


「大貧民!」


「もう! いいじゃん、大富豪で!」


「やだよ、大貧民だもん! てか、大貧民って決まったじゃん。バスケ部で多数決とってさ。レゴとホリーだけでしょ、大富豪っていうの」


「ここには私とホリーとエマしかいないから、こっちが優勢ですー。だから、多数決の結果、大富豪ですー」


「あ、ずるーい。じゃ、こっちは、サクちゃん呼ぶもんね」


「ぬ、じゃ、こっちもあたま数を」


「そっちは、レゴとホリーしかいないんだから、それ以上増えないでしょ。あ、だめだ。サクちゃん、今、オンちゃんと河川敷でバスケやってるって」


「え? そうなの? あ、ほんとだ。私んとこにもメッセージきてた。何だよー。気づいていたら、一緒に行ったのに」


「レゴちゃん、いい加減にスマホ買い換えたら? 電池たないからって、ぜんぜんスマホ見ないのってぜんぜんスマートしてないよ」


「愛着があるのですよ、エマちゃん。シールを張ってがした後とか、角の傷とかさ」


「画面ばっきばきじゃん。よくそれで見えるよね」


「歴史を感じるよね。いつ、こうなったのか覚えてないけど」


「歴史ないじゃん。覚えてないんだから」


「そう、あれは、まだ私がプ〇キュアだった頃」


捏造ねつぞうしてるじゃん」


「思い出はいつもきれいなのよん」


「それだけじゃおなかいちゃうんだよ」


「なんか、お腹空いてきたな。駅裏のカフェ行こうよ。パンケーキ食べたい」


「河川敷行くんじゃなかったの?」


「河川敷行って、バスケして、駅裏行って、パンケーキ食べる。蜂蜜はちみつめっちゃかける」


「じゃ、エマは駅裏から合流するね」


「いや、河川敷も来いよ。そんなんだから、デブるんだよ。こーなっちゃうんだよ」


「やーめーて。デブエマを見せないで」


「おやおや、スマホが割れてて見えないんじゃなかったのかい?」


「ごめんってば。見えるから。なんか画面割れているせいで、デブな上にブスに見えるから」


「え? そう? あんまり変わんないよ」


「それは笑えない」


「あ、いや、その、う、嘘に決まってんじゃん! エマは、世界一かわいいよ!」


「えへへ、そう? もう、世界一は言い過ぎだよ」


「そんなことないよ」


「んふ。レゴちゃんだってかわいいんだぞ」


「あはは、何でだろう、慣れてないからかな? このやりとり鳥肌立つー」


「そうなの? じゃ、もっとレゴちゃんかわいいを言ってあげるね」


「やーめーろー。レゴちゃんはかわいいけど、面と向かって言われると照れちゃうんだよー」


「かーわーいーいー」


「もう、やめてってば」


「ねぇ、次はエマがかわいいって言われる番なんだけど」


「あ、そういうシステムなのね」


「まぁ、エマがかわいいのは当然だから、別にいいんだけど、カフェは行くの? エマの口はもうパンケーキのお口なんだけど」


「じゃ、じゃんけんで決めよ。私が勝ったら、河川敷に行く。エマが勝ったらカフェに行く。じゃーんけーん」


「ぽい。やった! エマの勝ち! いえーい!」


「だぁー! くっそ! デブっても知らないからな」


「テスト期間明けたら、また動けばいいんだよ。未来でマイナスなんだから、今プラスでも、実質カロリーゼロ!」


「うわー、出たよ、デブ理論」


「うっさい。ほら、早くかたして。すぐ行くよ」


「ういー。ホリーはどうする?」


「レゴちゃんのおごりだよ」


「奢りはしない」


「えー」



 レゴの問いかけに対して、しばらくして、ホリーは顔をあげた。それから、うーん、と悩んだ後に、ノートを閉じた。



「奢りなら行く」

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