第8話 アニメ化するならキャラを立てなきゃね②~数学と昼ドラ~

「アニメ化するなら、キャラを立てなきゃね」


 

 レゴがボールペンをくるくるとまわしながら、つぶやくように言うと、エマは、そうだね、とペン先でノートを叩きながら答えた。



「立てなきゃね」


「立てなきゃなのよ」


「ねぇ、レゴちゃん、数学ってさ、問題集の56ページって範囲に入るんだっけ?」


「そこ、入らないよ。代わりに44ページが入るんでしょ」


「えー、じゃ、漸化式ぜんかしきが入るの? ベクトルだけでもわけわかんないのに」


「ね、中途半端なところで区切るのやめてほしいよね」


「絶対、先生がペース配分を間違えたんだよ。毎年おんなじことやっているんだからさ、ちゃんとしてほしいよね」


「ほら、あれだよ。なんだよ、きっと」


「引き?」


「そう。週刊誌とかに連載しているマンガで、話の終わりの部分をわざとぶっちぎって、次回に期待をもたせる手法」


「あー、あるよね。いいところで終わっちゃって、えー! ここで終るの! ってなるやつ」


「そう思わせたら作者の思惑おもわく通りね。テストもきっと同じなんだよ。キリのわるいところまでをテスト範囲にして、次のテストに期待をもたせるっていう」


「え? その引きには、エマ、まったくどきどきしないんだけど」


「だよねー。章末の一番難しいところだけ組み込まれても、生徒としては困るだけだもんね」


「嫌がらせだよね」


「私、思うんだけどさ、一つの単元をいきなり難しいところまでやらせるからだめなんだよね。週刊連載みたいにしてさ、少しずつ進めていけばいいと思うわけよ」


「それって教科ごとにはなっていると思うけど」


「何だろう。教科は、出版社が違うイメージかな。ジャ〇プとマガ〇ンみたいに」


「あー、わかりやすい」


「つまるところさ、数列とかベクトルの一単元を一気に勉強させるのって、こ〇亀とかジ〇ジョを一気読みさせるみたいなもんだと思うのよね。いや、こち〇とかジョ〇ョは、おもしろいから読めちゃうんだけど、長くてさほどおもしろくない作品だと、キリのいいところで別の作品をはさみたくなるじゃん」


「レゴちゃんは、いろいろ少しずつ読み進める派なんだね」


「週刊連載のマンガを読んでいるからかな。その読み方が身に染みついちゃってるんだよ」


「いいね。それいいよ、レゴちゃん! 大発明だよ、きっと!」


「まぁ、この方法だと、導入部分のいちばん頭がこんがらがる部分が全部同時期にかたまるんだけどね」


「え?」


「あと、章末の応用問題を解く時期も全部重なります」


「地獄だよ!」


「マンガだったら、クライマックスが全部重なるって話で、うれしいんだけどね」


「勉強だったら、エマ達の方が絶体絶命のクライマックスになっちゃうよ」


「いい方法だと思ったんだけどなー」


「あ、じゃーさ。物語にするってのはどう?」


「物語?」


「そう。エマが思うに、週刊連載はいい案だと思うの。じゃ、どうしてだめなのかっていうと、物語がないからだよ。数列とベクトルが物語だったら、エマ、最後まで楽しく読めそう」


「それ、いいね。でも、数式しか出てこないこの教科書をどうやって物語にするの?」


「ふふふ、エマ、ひらめいちゃった」


「お! 言ったれ、エマちゃん!」


擬人化ぎじんかだよ! レゴちゃん!」


「な、なんだって!?」


「擬人化だよ! レゴちゃん!」


「二回言った!」


「大事なことだからね!」


「擬人化か。確かに流行はやりだもんね。戦艦せんかんとか、馬とか、いろいろと擬人化されているし」


「そう。エマ、天才かも。これ絶対におもしろいよ。たとえばさ、数列だったら、anとかbnの文字を擬人化させればいいの」


「an-1は?」


「それはね、anのむすめ


「等式って出産って意味だったの?」


「そう。等式は出会い。出会いの形って一つじゃないでしょ。等式の形も一つじゃない。そういうところもぴったり」


「おぉ、確かにロマンチックな気がしてきた」


「あ、でも、文字って使いまわすよね。だいたい、anとかbnとかだし。そうすると、同じ女の子がたくさんの男の子と出会いまくる話になっちゃう」


「急にみだらな話になった!?」


「出会い系サイトを利用して、素敵な王子様を探すって話で手を打てないかな」


「あんまり変わってないけど、ちょっと読んでみたい!」


「いや、でも、等式ごとに娘を産んでいるから、どっちかっていうと離婚しまくる話だ、これ」


「一気に世知辛せちがらくなった!」


「anとbnが同じ等式に入っているとドキドキするね。三角関係だよ。産まれてきた子は誰の子なんだろうね」


「うー! ちょっとおもしろそうなのがむかつく!」


「何だろう。エマ、初めて数学を楽しめているかもしれない」


「まぁ、問題が解けるようになるわけじゃないけどな」


「だねー」



 エマが、はぁ、とため息をついたところで、スマホでイ〇スタをチェックしていたホリーは、ぽつりとこぼした。



「脱線し過ぎじゃね?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る