第10話 アニメ化するならキャラを立てなきゃね④~和製英語とパンケーキ~

「アニメ化するなら、キャラを立てなきゃいけないわけよ」



 鼻歌じりにパンケーキに蜂蜜はちみつをかけるレゴから、蜂蜜の入った小さなポットを受け取って、エマは、テキトーに応じた。



「アニメ化するのもたいへんだねー」


「ほんとにねー」


「どうでもいいんだけどさ、ホットケーキとパンケーキって何が違うんだろうね。エマ、違いわかんない」


「んー、クジラとイルカみたいな違いじゃないの」


「大きさだけの違い?」


「いや、ズボンとパンツみたいなかんじかな」


「それって何が違うの?」


「ダサいかダサくないか」


「あー」


「正直、どっちも和製英語だし、ネイティブにはどっちも通じねぇよ、何かっこつけてんの? 逆にダサいわ、っていう人もいるけど、ぜんぜんわかってないわよね。こういうのは、空気なのよ。現代では、パンツって言った方がかっこいい、っていう空気」


「確かに、trousersの訳がズボンとかパンツだったとき、え? これ、英語じゃないの? って思ったもん」


「そうなの。けっこうあるよね。何語でもないカタカタを覚えさせられて、その英訳がぜんぜん違うってパターン」


「トランプとかね」


「あれはとあるゲームでの切り札って意味で、実際には普通にカードと言うそうよ。ちなみにウィキ情報」


「あーいうのって、統一しといてくれって思うの。だって、カタカナだったら、普通に英語だと思うじゃない」


「そう思うじゃない?」


「思う思う」


「その考え方がいちばん嫌いなのよ!」


「急におこ!?」


「英語に寄せようとして、修正かけるのほんとにやめてほしいのよね。もうね、定着しているのよ。ズボンで、パンツで、トランプで! 今さらトラウザーズとかカードとか言われたってわかんないって。だいたいカードって何よ。カードって言ったら、クレジットカードもポイントカードもみんなカードだっつーの!」


「わ、わかるけど、そんなに怒ることかな?」


「だいたいね、カタカナ英語は、どんなに発音近づけてもネイティブには通じねぇから!」


「元も子もないよ!」


「カタカナ英語は日本語です!」


「ねぇ? レゴちゃんは何に歯向はむかおうとしているの!?」

 

「どうでもいいけど、ホットケーキはパンケーキの一種らしいわ。パンケーキの方が一般的なのね」


「急に話が戻るんだね」


「でも、何でだろう。ホットケーキよりもパンケーキの方がおしゃなかんじがする」


「わかるー。ホットケーキって、家でホットプレートでつくるイメージあるけど、パンケーキはおしゃれなカフェに出てくるイメージ」


「もう、完全にイメージだけどね」


「イメージって大事だね。けどさ、同じものって言われると考えちゃうよね、原価をさ」


「原価?」


「そ。だって、パンケーキってホットケーキと同じ原料で出来ているんでしょ。エマがさ、うちでホットケーキ焼いたら、100円くらいじゃん。でも、このパンケーキは700円するんだよ。そう思うと、うっ、ってなっちゃう」


「はい、出ました! 私のいちばん嫌いなやつ!」


「また、急におこなの!?」


「いるんだよな。原価でいえばもっと安いとか、ぼったくりだとか言い出すやつ。私、小麦粉の原価知ってます、騙されませんとかドヤ顔で言う奴」


「いや、ドヤ顔はしてないけど」


「そういう奴は、うちでホットケーキ食ってろ!」


「お、おいしいよ、ホットケーキ」


「店としては、こだわりの小麦粉とか、卵とか、砂糖とか選んでるかもしれないし、工夫した作り方をしているかもしれない。さらにいえば、盛り付けをかわいくしたり、内装をおしゃれにしたり、という数えきれない努力をしてんのよ。それらをひっくりめての値段なの。そんなこともわかんない奴は、帰って、こげたホットケーキでも食ってろって話よ!」


「ちょっと焦げたのも、エマは好きだよ」


「店の努力も考えないで、安さばかりを求める客が、私はいちばん許せないのよ!」


「そ、そっか。お店もいろいろ工夫しているんだね。確かに、りすぐりのパティシエが作っていると思うと、700円も安く感じてくる。ここだけの味なんだね」


「まぁ、この店は、フランチャイズだから、どこでも同じ味だし、作っているのもバイトだけどね。ここのバイト、私の友達だし」


「台無しだよ!」


「あ、今日、入っているかは知らないから、これを作ったかはわからないけど」


「些細なことだよ! せっかくスペシャルな感じにひたっていたのに、急に友達の家でホットケーキ食べてる気分になっちゃったよ! さっき自分で言ってたじゃん! イメージが大事だって!」


「ま、まぁまぁ、落ち着いてよ、エマちゃん。たかがパンケーキだよ? ちょっと飾り付けているけど、実際のところは小麦粉と卵と砂糖を混ぜて焼いただけなんだから、そんなムキにならなくても」


「さっきと言っていることが真逆だよ! 語るに落ちるとはこのことだよ! レゴちゃんこそ家でホットケーキ食ってろだよ!」


「エマちゃん、ホットケーキはおいしいよ?」


「知っているよ!」



 ぷりぷりと怒るエマに、レゴがおろおろとしていると、ホリーがフォークを皿の上に、カタンと音を立てて置いた。



「まぁまぁ、落ち着け、エマ」


「だって、ホリーちゃん、レゴちゃんがぁ」


「大事なのは、パンケーキがおしいかどうかだ。このパンケーキはおいしい。それでいいだろ」


「……確かに!」



 ホリーの言葉に、エマは機嫌を直した。山の天気のようにころころと気分が変わるのは、彼女のめんどくさいところであり、いいところでもあった。



「さすがホリー!」



 レゴは、ホッとしたように頬を緩ました。そこで、ホリーはカプチーノを一口飲み、それから思い出したように口を開いた。



「ちなみに、私は、専門家でもないのに、知ったかぶって、若干斜じゃっかんしゃかまえたかんじにマウントをとりにいく奴が嫌いだ」

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