第27話 アニメ化するなら天才キャラにしてほしい⑥~憲法とスクールカースト~

「アニメ化するなら、天才キャラにしてほしいって話を、昨日、エマとしていたわけですよ」



 中間考査二日目の朝、駅から学校までの微妙に長い道のりで、欠伸あくびをするホリーに、レゴは陽気ようきに話をしていた。



「毎度のことだけど、おまえの話、脱線だっせんし過ぎじゃね?」


「エマと話していると余計に脱線するんだよね。さすがの私も途中から苛々いらいらとしてたよ」


「言わんとすることはわかるが、少なくともおまえに苛々する権利はないと思うぞ」


「何でよ。権利はあるでしょ。憲法に書いてあるでしょ、憲法に」


「また、大げさなものを持ち出しやがって」


「何よ。歯向かうの? こっちには憲法があんのよ、憲法が」


「憲法が認めても、あたしは認めない」


「横暴じゃない!?」


「いや、アンケート取ったら、あたしが勝つと思うな。あれだよ、民意って奴だよ。こっちには民衆がついてんだ」


「く、愚民ぐみんどもめ」


「もう完全に悪役の台詞だな。そっちに憲法がついているって話も撤回てっかいしてほしいくらいだ」


「絶対撤回しませーん。憲法は私の味方なんですー。残念でしたー」


「くっそ、憲法に何書いてあるかなんて、どうせ知らないくせに」


「知ってますー。なんか、こう、漠然ばくぜんと? おおまかに? くらいは知ってます」


「ほう。じゃ、何か言ってみろよ」


「和をもったっとしとなす」


「それ、十七条の憲法な。って、憲法つながり十七条の憲法って、そのボケはちょっと安直あんちょくじゃねぇか?」


「……いや、その、別にボケたわけじゃなくて、本当に入っているかな、って思って」


「うわっ、言い訳している。ず! いつもあたしのボケにケチつけてくるくせに、自分がベタなボケをしたら、そんなふうにとぼけるんだ。へー」


「いや、違うから! ホント! ホントに、その入ってると思ったんだよ! だって、あれじゃん。十七条の憲法って、いわゆる、今の憲法のご先祖様みたいなもんでしょ。だったら、DNAを受けいでると思うじゃん!」


「あー、つらいつらい。その言い訳はつらいぞ」


「ちょっとやめてよ! その、私がやっちゃっている感じ出すの! もしかしたら入っているかもしれないよ? だっていい言葉だもん」


「そりゃな」


「でしょ? ざっくりとラブ&ピースってことだよね。いや、ほんといい言葉だよ。聖徳太子はわかっている奴だよ」


「何様だよ」


「今の憲法にもこの精神が受け継がれていると見たね。むしろ、受け継いでいなかったら、聖徳太子に謝れと言いたいところだよ」


「いや、おまえが謝れ。日本の全ご先祖様せんぞさまに謝れ」


「そこまで悪いことはしてないよ!」


「じゃ、とりあえず、ベタなボケをしてすいません、とあたしに謝れ」


「ベタなボケをしてすいません」


「ベタなボケをしたことを隠そうとけむにまいてすいません、と謝れ」


「ほんと、すいませんでした。勘弁かんべんしてください」


「よく言ってちゅうなのに、エマの友達ってことで、自分もエマクラスの美人みたいな雰囲気出してすいません、って謝れ」


「調子こいてました、すいません。って、それは関係なくない? いや、そもそもそんな雰囲気出してないし! ”スクールカースト上位のグループに所属しているだけで自分もスクールカースト上位だと勘違いしている系女子”にカテゴライズしないでくれる!?」


「そんなニッチなカテゴリーがあるのか疑問だが、そのカテゴリーに足をみ入れているとは思う」


「そんなことない! と思う、けど! もしも、そうだったら今後改めようと思います!」


「よろしい。ちゃんと憲法も読むように」


「いやー、中学でさらっと習った気はするけどね。もう完全に忘れたわ」


「おまえ、無駄に博識なんだから、そのくらい知ってろよ。日本人としていちばん大事なことだぞ。まぁ、あたしも忘れたけど」


「だってさ、テストに出ないでしょ、そして、アニメにもマンガにもドラマにも出てこないでしょ。じゃ、覚えられるわけないよね」


「おまえのリソースがかたよっていることがわかるな」


「とりあえずアニメ化してから出直してきてください」


「憲法までメディアミックスする時代か。作った時代の人は想像もしてなかっただろうな」


「時代の最先端だね!」


「かもな。向いている方が正しいのかはわからんけど」


「それは、私達次第わたしたちしだい、なんだぜ」


「……。とりあえず、もう一度、あたしに謝ろうか」

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