第15話 幼馴染の匂いに媚薬の効果!?

 キワミによって催眠状態にあったメイ。

 彼はその能力を利用され、くすぐりによる接触で発情させられていた。



「うひひひっ!! メイっ、やめてよぉ! んにゃはははっ!! も、もう……んああっ、許してえぇ……」



 それでもマッドサイテンティスト状態のキワミが止めなければ、メイの手が止めることは無い。

 そして彼の能力に連鎖するかのごとく、遂にアカネにも能力が目覚めようとしていた。



「ふひひひ、彼のこの能力の研究を進めれば、やっとこの国のアホ連中も私のことを……ん? なんだ、この匂いは?」


「やあっ、せんせぇ……この香り、なんだか……私たちまで変な気分に……」


「ねぇ、白銀しろがね……なんだか私、脱ぎたくなってきましたわ……」


「お嬢様、ダメですっ!! ここでその脱衣癖を出されたら……んっ、私まで……」




 アカネを中心として周囲を立ちこめる甘い匂い。


 どうもあの匂いは擽りから逃れようと暴れ狂っているアカネの汗から香っているようだ。

 キワミも不測の事態に慌てていることから、彼女が催眠に使ったモノとは完全に別物であることが分かる。



「くっ、なんなんだこの脳を直接酔わせるような感覚は……マズい、今すぐ対処法を考えねば……私まで、ああっ……」



 初めて経験する感覚に戸惑い、どうにか匂いに対する対策を考えようとするも彼女の思考能力はどんどん鈍くなり、反比例するかのようにカラダの方は発情していった。


 他の女子メンバーも同様のようで、顔は上気し、荒い息を吐いたり足をモジモジとさせたりしている。



「しまった……この実験は危険すぎた。んんっ。やるにしても、しっかり対策をすべきだったのに功を焦ったか……ふううぅ、私としたことが。……しかしコレはどうしたらいいのだっ」



 彼女の端正な顔が苦悶に歪み、脂汗が滴り落ちる。

 ドクンドクンといつもの何倍もの強さで脈打つ胸をいだきながら、何か打開策が無いか必死に部室内を見渡すが……。



「くそぉ……このままじゃ、わたしは……私はぁっ……」



 この部屋にはキワミが持ち込んだ様々な実験器具や薬品があるが、生憎と媚薬効果を打ち消すようなモノはない。


 そうしている内にもアカネの能力がキワミの脳を侵食していく。

 理性が欲望に負け、無意識にキワミの短いスカートの中に手が伸びそうになったその寸前。彼女はあることに気が付いた。



「なぜ、メイ君はアカネちゃんの能力が効いていないんだ……?」



 そう、メイは相変わらず狂ったようにアカネを攻め立てている。


 最も至近距離に居るはずの彼が一番アカネの匂いを嗅いでいるはずなのだから、何かしらの反応が出ていてしかるべきなのに、どう見てもそんな様子は見られない。




「んんんっ……そう、か。キーは彼だ。この状況を打破するためには、メイ君の催眠を解かねばならない……!!」



 もう生殖行為で頭がいっぱいになってしまった頭でどうにかアンサーを導き出すことができた。

 僅かな理性で煩悩ぼんのうまみれの脳味噌を説得し、自身で掛けたメイの催眠を解くためにフラフラと近付いていく。



 彼を止められるのは、彼女しか居ない。

 自分が誘惑に負けてしまったら生徒たちがトンデモないことになる。

 それはもちろん、自分も含めてだが。



 だが近付くに連れて、どんどんと強まっていく催淫さいいんこう

 身体は自分の意思からどんどん離れ、立っていることも出来なくなってきた。


 倒れるぐらいならいっそのこと……と意を決し、キワミは最後の力を振り絞って彼に抱き着いた。



「これ、で、チェックメイトよ……え?」



 最後の最後。これで助かったと思った彼女だったが――キワミは最も大事なことを忘れていた。


 直接メイに触れてしまったことで、今度は彼の能力がキワミに発動してしまったのである。



「あっ、これ……私、終わっちゃったカモ……」


 



 ◇


「んん……あれ? 俺はなんで倒れてるんだ? いててて、身体がズキズキする……」



 あれからどれくらいの時間が経ったのか、窓から差し込む夕焼けで目を覚ましたメイ。

 床に寝ころんだままの身体を起こしながら、何故こんなところで寝てしまったのか思い出そうとする。



「ミカにクラブの紹介をして欲しいって頼まれて、ここに連れてきたはずだよな……って、なんじゃこりゃ!?」



 照明もいていない薄暗い部室内を見渡すと、視界に入ったのは先ほどのメイと同じように床で横たわる女子生徒たち。


 衣服は乱れ、だらしのない格好でまさに死屍累々ししるいるいの状態。



「お、おい!? 大丈夫か、みんな!!」



 慌てて彼女らに駆け寄り、身体を揺らして無事を確かめようとするメイ。

 特に怪我をしているわけでもなく、すぐに彼女達も次々と意識を取り戻すが――



「ひいっ!? ケダモノっっ!!」

「な、なんでビビるんだよ!? ケダモノって……俺、なんかしたか!?」



 誰もかれもがメイを見た途端、恐怖の表情を見せるのだ。


 幼馴染で彼に好意を持っているはずのアカネですら、差し出された手をパシンと振り払いってガタガタとおびえている。



「な、なんでだよ……何でみんな俺を避けるんだよ……」

「ひゃああっ!? 来ないでっ、壊されるッ!!」

「なにをだよっ!?」



 どの女子も同じような反応なので、メイはショックを受けて教室の隅っこでドンヨリと落ち込んでしまった。



 たしかにメイは悪くない。

 悪くはないのだが……能力が凶悪過ぎたのだ。


 彼女らがようやく落ち着きを取り戻し、心からメイに陳謝ちんしゃをしたのはそれから30分後のことであった。





 ◇


「多少のハプニングがあったものの、実験は大成功だったな!!」



 少し体勢がおかしいキワミが、仕切り直しとばかりに今回の部活動のめに入る。

 割とまだ元気のある彼女と違って、あの事故で疲れ切った部員たちは実験用のテーブルに突っ伏していた。



「まさか、メイ君だけではなくアカネちゃんまで凄い異能を持っているとはね!! これは大発見だよ」


「私は人間がここまで痴態を出せるんだってことが大発見でしたよ……」

「アカネさんに同じく」

「私もですわ」

「同意」



 良かった方向に無理矢理シフトさせようとするキワミを全員がジト目で抗議する。


 メイは意識が無かったとはいえ、男性の目の前で完全に乙女の尊厳を失ったのだ。

 感謝なんて気持ちは起こるはずもない。



「まぁまぁ、諸君。お陰で新たな研究のタネが生まれたんだ。要するにだ、他にも異能者が居る可能性があるってことが判明したんだよ? ほら、喜びたまえよ!! キミたちぐらいの年齢なら憧れるだろう、チート異能ってやつに!!」



 たしかにちまたでは異世界にいって神様から能力を貰い、無双してやりたい放題するというフィクションが流行っている。

 しかし、それはあくまでもフィクションでのお話だ。


 第一、こんな性癖開発専用みたいな能力は要らない。こんな能力を下手に発動させて、この親切な女の子達を困らせたくはない。

 メイはそう思ったのか、ポツリと本音をこぼした。



「俺……やっぱりこのMAYクラブ辞めよっかな……」


「「「「それはダメだよ(ですわ)!!」」」」



 メイの予想に反して、キワミを含めたここにいる女性陣全員が断固反対の姿勢を見せる。さっきまでキワミのこの活動に批判的だったのに、彼が辞めてしまうのは絶対に嫌らしい。



「ええぇ……? いや、やっぱ危ないし迷惑かけるだろうしさ。それにあんな能力、女子達だって嫌だろ?」


「そ、そんなこと言ってないじゃないの」

「うん、言ってない」

「私のペットとしては合格点でしたわ」

「……お嬢様が仰るのであれば私は」



 アカネやミカ、黒鉄と白銀ペアですら言葉に歯切れの悪さはあるものの、メイの能力が迷惑だとは思っていないらしい。

 もっとも、その理由を話そうとはしないが。



「ほら、皆がそう言ってるじゃないかメイ君。……それに、私もそれは困るんだよ。いろいろと、ね」



 キワミは特になにか含みのある言い方をしている。

 誰の意見もイマイチ要領を得ないが……とにかく、誰もメイには抜けて欲しくは無いようだ。


 しかしメイも頑固な男である。

 紳士代表として己の信条を曲げるわけにはいかない。



「でも、やっぱり俺は「それにこの件でクラブが国のお墨付きを貰えれば、必ずこの活動にはくがつく。そうすれば憧れのサツキお姉ちゃんにも認められるはずだぞ?」やります!! なんでも協力します!!!!」



 前言撤回。

 男には信念を曲げてでも成し遂げなければならぬことがあるのだ。


 同志であるキワミとガシッと握手をするメイ。

 その横から他の女子達も右手を差し出している。



「うんうん、みんなで先生と一致団結して幸せな学園生活を送ろうじゃないか……ひひひひ」



 こうして、MAYクラブの一同の結束は高まった。

 ……のかもしれない。

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