第10話 清楚系ギャルとの初デート。
ゴールデンウイーク明け最初の週末になり、レモンとの約束の日となった。
メイの男磨き、その最初のステージは市内にある巨大ショッピングモール。
ここは有名ブランドのセレクトショップやゲームセンター、映画館などといったアミューズメント施設まで内設されており、一日では回り切れないほどの大きさを誇っている。
現在の時刻は午前11時ちょっと手前。
モールの真ん中にある広場には家族連れや仲の良いカップルで溢れていて、それぞれが思い思いの時間を過ごしている。
噴水の傍では小さな子どもたちがこのショッピングモールの名物である卑猥な象を擬人化したマスコットと
あまりこういった場所には訪れないメイ。
一見すると彼もデートの為に彼女を待っているような姿だが――実際には前のめりの猫背でスマホゲームに夢中になっているだけである。
女の子と待ち合わせしているにもかかわらず、緊張している様子もまるでない。相変わらずのマイペースだ。
というより、彼はこれがデートなどとは微塵にも思っていないからかもしれないが。
そこへアイドル並みのルックスを持った少女がメイの目の前に現れた。
少女の小さな顔は大きなマスクと伊達メガネに覆われているにもかかわらず、その溢れ出る美人オーラは隠せてはいない。
彼女が歩いていく先がモーゼのように人ゴミが割れて道が出来ていく。さらには広場に居る男性のほぼ全員が、メイの元へ歩いていく彼女へ視線を集めていた。
一緒にいる女性たちはそんな男性陣の様子にビキリ、と青筋を立てる。
見惚れている父親の腹部にボディブローを叩きこんだり、彼氏の股間に痛恨の一撃をしたり。着ぐるみのマスコットでさえ、その場に呆然と立ち尽くしている。
もちろん、この間もメイはスマホゲームに夢中だ。そこはまったくブレていない。
「やほやほー、おまたせ~!! 時間よりだいぶ早かったけど、メイっちは流石だね!」
「――うっす。まぁ世話になるのは俺の方だし、遅刻するわけにもいかないしな。それより凄いなレモンは。マスクでほとんど顔を隠してんのに、オーラで人を引き寄せるっつーか、なんていうか芸能人みたいだな」
「にひひひ! まぁね〜♪ これでもアイドルのタマゴみたいなことやってるから。――でも今日はうちの事、メイっちの彼女として扱ってよね?」
「はいはい。未熟なりに頑張らせてもらいますよ」
「うんうん! ウチもコーディネート頑張るから!」
こうして和やかなムードで始まった初デート。まずは手始めにメイでも知っているブランドのセレクトショップに向かう。
明らかに今の彼には不釣り合いなハイレベルなお店だが、そのグレードさえ分からないメイは適当にキョロキョロと物色をしていた。
そんな客は正直に言ってしまえば、ただの都合の良いカモである。ノコノコとやってきた金づるを見つけた店員は意気揚々として彼の元へ向かってこようとした――が、それをレモンが視線で『邪魔をするな』と制した。
まだ
というより雑誌掲載されるレベル、つまり流行を発信する側なので、アドバイスも不要だと判断した店員は大人しく引き下がっていった。
そう、彼女はことファッションに関してはプロなのだ。
普段ニコニコと優しいレモンだが、適当に選ぼうとしていたメイを見た途端――修羅と化した。
「はい。それは駄目だよ~。マネキンの丸パクリはしてもいいけど、最低限自分の体格に合った服にしようね? あと変に
服選びに初っ端から難儀したメイの妙案は即、却下されてしまう。
マネキンが着ている服ならば自分のセンスではない。ここのスタッフのセイだ、などとセコい考えはレモンには通用しなかった。
「えぇ~、俺には似合わないってこと?」
「はいはい、文句は後でまとめて聞くから。一個一個に口出ししていたら終わらないし、取り敢えずコレに着替えてきて? 今日は私が選んであげるから」
元々ファッションにそこまで興味があった訳でもないメイは、少なくともレモンから言われていることに間違いはなさそうだし、ここは大人しく従っておくことにした。
試着室でレモンに渡された一式に着替えてみる。一式とは言っても、これからやってくる夏に向けた涼し気なシャツやサマーニット、テーパードのパンツなどである。
それらをパパッと着替えてから再び外にいるレモンに披露した。
「……どうかな?」
「……メイっちってさ、結構スタイルいいんだね」
「ん? あ、あぁ。ゲームばっかやってると身体が鈍るから朝晩にランニングしたりして鍛えてるんだ」
「そっか……うん、カッコ良いと思う! さっすが私。メイっち的にはどうだった?」
「んー、自分では余り選ばない服だけど着心地いいし、結構好きかもしれない。……うん、折角だしこの服、買うわ。値段もそんなに高くなかったしな」
「そうそう! オシャレは無理して高いのを買う必要はないからね♪ じゃあ今日はソレを着てデートしよっか!」
「えぇ~、これからコレを着るのか? 洗濯物が増えるじゃんか……」
「いいから、いいから! これも練習だと思って! ねっ!?」
お会計を済ませたメイは押し切られるようにして、そのまま新しい服で店の外へと出ていく。
服装の見栄えが良くなった後はレモンのご希望通り、彼女のリードでウインドーショッピングを楽しんだ。
今回はメイのデート練習も兼ねているので、彼の服だけではなくレモンの買い物にも当然付き合うことに。
初めて入った女性服の店はさすがに恥ずかしかったのか、レモンが試着室に入っている間のメイは再びスマホを相棒にして壁際でずっと俯いていた。見た目は多少良くなっても、中身は相変わらずの陰キャである。
そんな彼に興味を持ったのか、試着のフォローをしていた女性店員が「可愛い彼女さんですね」と話しかけてきた。
「いや、彼女では……」
「またまた〜。ほら、彼女さんが戻ってきましたよ。とてもお似合いでしたので、彼氏さんならちゃんと褒めてあげてくださいね?」
キチンと否定する間もなく、レモンが夏らしい爽やかな色合いのスカートを穿いて試着室から戻ってきた。
「どう、かな?」
「う、うん。とても可愛いと思う」
あっちゃー、とメイの後ろで先程の店員さんが笑う。今どきの小学生でももっと上手に褒めるだろうに、気の利いたセリフも掛けてやれない。
しかしレモンは無駄な装飾の無い、メイの素直な感想が嬉しかったようだ。
「にひひ。ありがとー! じゃあコレ、買っちゃおうっと。ウチねー、黄色が好きなんだぁ!」
たしかに言われてみると、彼女のスマホやカバンも黄色がベースになっている。
レモンという名前からして、この色が彼女のイメージカラーなのかもしれない。
そのスカートを購入すると、レモンは化粧品を扱っているショップへと入っていった。
店内には工芸品の様な美しいガラス製のボトルに入った、色とりどりの商品が棚に所狭しと並べられている。服と違ってその瓶には興味が湧いたのか、メイは物珍しそうにキョロキョロと店の中を見回していた。
「いろいろあって面白いでしょ? ウチも偶にこういうお店に来て、撮影とかに使うメイクの勉強をしたりしてるんだ♪」
「あぁ、雑誌のモデルをやってるんだもんな。なんかスゲェ大変そうだけど」
ファッション雑誌なんて購入したことも読んだこともないが、きっと並大抵のことでは無いのだろうということぐらいはメイにも予想がつく。
「勉強は大変だけど、これは自分の美容の為にもなるしね〜。あっ、そうそう! 買うだけじゃなくって、自分で化粧水を作ったりもしてるんだよ!?」
「へぇ、それはすごいな! レモンって案外、努力家で真面目だったんだな」
「あー、人を見た目で判断するのは良くないんだぞ~? メイっち、減点~!」
「あはは、ごめんって。でも……うん、それはレモンを見てたら良く分かったよ」
メイの本心からの言葉に、レモンは怒ることなく「分かればよろしい!」と快く頷いた。
こうして話すようになってからまだ数日しか経っていないが、二人は友人レベルまで打ち解けられた様子だ。どこかの幼馴染がコレを見たら、きっと泣いて悔しがるだろう。
「ん、そろそろお昼だな。この後にご飯食ったらどうする?」
「そうだね……あっ! ウチ、久々に映画観たい!!」
「おぉ、いいな。たしかど派手なアクション系の新作がやってたはず」
「あ~!! 知ってる、それってシリーズ物のやつだ! 観たかったんだぁ~♪」
こうしてメイのプロデュースという名目のデートは、メイが想像していたよりも順調に進んでいくのであった。
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