第12話 童貞と理性を失くしたギャル。
「今日は楽しかったね、メイっち!」
「おう、付き合ってくれてありがとうな~。お陰でデートの楽しみっていうのがちょっと分かった気がするよ」
夕焼け空の中、メイとレモンの二人は両手に沢山の荷物と思い出を持って帰宅の途についていた。
気持ちの良い疲労感が駅へと向かう足を遅くする。もう少しだけこのまま二人でゆっくりしたい気分だ。
「こちらこそ、色々と買い物に付き合わせちゃってゴメンね?」
「んんー? いや、気にすんなよ。俺ひとりじゃ何を見たらイイのかも分からなかったんだし?」
「にひひひ。重い方の荷物もさり気なく持ってくれちゃったりして、そういう男らしさアピールも良かったよ。……ねぇメイっち。今日一日じゃココを回り切れなかったし、また来ない?」
「うん? 俺は願っても無いけれど、いいのか? 俺で」
「もちろん!!」
八重歯の見える愛嬌バッチリの笑顔がメイには
だからこそまた誘っていいのか、これは社交辞令なんじゃないかと
そこがまたメイを陰キャたらしめているのだが……本人は気付きもしないだろう。
「じゃあ……今度はアカネたちと一緒に遊び「もう! そういうことじゃないんだけど? この鈍感!」……えぇええ?」
そんなことを言われても、今回は憧れのお姉ちゃんとのデートするための練習だったはず。それなのにまたレモンを誘ってデートするのは変だと思うのは普通だ。
しかしレモンの方は既に当初の目的の事なんてどうでも良くなっていたのだから仕方ない。
ただ、もっとメイの事を知りたい、一緒に居たい、あの感覚はなんだったのかをもう一度試したい……そんな自分本位な理由だったのだ。
「ねぇ、メイっち……」
「なんだよ、まだ何か文句でもあるのか?」
「このままキス……してみる?」
「はっ!? 誰が!?」
ここに居るのはメイとレモンの二人しかいない。
夕陽のように
――これは、あれだ。昔ドラマで観た女の子がキスしてシーンのやつだ。
ニブイと言われたメイでも、ここまで好意を寄せられれば察することができた。しかしだからといって、どうすることもできないのが童貞根暗男の悲しい
「なんで? だって恋人になったらキスぐらいするでしょ? だったらキスの練習もしなくちゃなんだよ?」
なぜそうなる、という
「――いや、それは止めておくよ。今回のことは友人としての善意で協力して貰ったんだ。だからキスはちょっと違うと思う」
「……そっか。そうだよね……」
「それに俺はレモンのこと、少し勘違いをしていたかも。確かに見た目は美人で可愛いけど、本当の魅力っていうか、お前の良さはその面倒見の良さと相手を思いやる気持ち、それに努力家で真面目なところだ。だからそんなお前を裏切るようなことをしたくない。だからこのまま友達として、仲良くして欲しい」
「……うん」
メイのしたことは
能力に
レモンも少し目が覚めたのか、情欲に濡れていた瞳に光が戻った。
メイが自分の内面を見てくれた上で、キチンと関係を考えてくれたことがとても嬉しかったことも要因だろう。
「そう言ってくれてとても嬉しい……。それに好きな人が居るのに、すぐ流される人よりよっぽどいいよ! メイっちこそ、その相手を思いやる心とその優しさがステキだと思う。顔とかファッションセンスよりも、よっぽど大事なことだと思うよ!!」
とはいえ、さっきの提案はレモンの初めてのキスを捧げるものだった。それを断られてしまったことは少しだけレモンの心にチクりと痛みを走らせていた。
――だからちょっとだけイジワルしても許してもらえるだろう。
「じゃあ、手を繋いで帰ろうよ」
「は? いや、だからそういうことはしないって……」
「ぶぅう~!! 違うよ、友達としてだよ!」
「友達同士で手は繋がないだろ……」
「良いから!! それぐらいは今日のお礼に良いでしょ?」
「お、おう……まあ、手ぐらいなら……」
有無を言わさぬプレッシャーに負けたメイ。荷物と一緒に差し出されたレモンの小さな手を取って優しく包み込む。
「――んあっ」
「どうした? 握るの強かったか?」
「うぅん、ちょっとだけビックリしただけだよ」
「やっぱり変なヤツ。ほら、行くぞ」
やはりメイの能力は女性に触れるだけでも発動するようだ。
再び駅へと歩き出す二人だが、レモンの方だけは様子が明らかにおかしい。
『――んあっ。手を繋ぐだけでこんなに……やばっ、ハマっちゃいそう』
キスは逃したが――尚更メイの事が気になり始めていたレモンなのであった。
◇
恋人のように仲良く手を繋いで歩いて行くメイとレモン。
そんな彼らをいつかと同じように物陰から覗いている小さな人物が居た。
「ふふふ、さっすがお兄ちゃん。固そうなオンナをあんな簡単にメスにしちゃって……」
腕を抱えながらフルフルと震える少女。
眼が完全に虚空を眺めながらイッてしまっている。
年齢以上に幼い見た目なのに、オトナ顔負けの上気した表情を見せるそのアンバランスさは――色々ともう犯罪に近い。
しかし当の本人はメイの事で頭がいっぱいでそんなことを気にしていないようだ。
「あぁ、早く……ボクのオモチャを返してもらわなきゃ。だってお兄ちゃんの持ち主はボクなんだから……ね?」
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