第18話 真面目系(?)少女あらわる。
アカネと家で過ごした週末も終わり、月曜日となった。
相変わらず学校ではボッチを極めているメイは教室で暇そうにスマホをいじっている。彼が昔からハマっているソシャゲーの新しいキャラガチャが登場したせいで、昨晩は徹夜で育成していたので寝不足なのだ。
そんな時、誰かが教室に入ってきたのが視界の
誰が入ってきたのかは知らないが、クラスメイトがざわざわし始める。だが、メイの興味はそちらへは向かない。
ちなみに彼がやっているのはブタ息子という育成ゲームだ。
ブタの特徴をもっている男キャラクターを様々な方法で調教し、仕上がったキャラを出荷するという……いったい誰がこんなゲームを開発したのだろうという疑問しかないアプリゲームだ。それでも不思議と5年以上も続いている、人気ゲームなのである。
今回登場した、ドM属性でひたすらハードな育成をすると何故か体力が回復するという仕様なのかバグなのか分からないようなキャラを苛め抜いていると、メイの背後から誰かが話し掛けてきた。
「――キミはそういったゲームが好きなのか?」
「ああ。楽しいな! たまに反抗して来るブタもいるけど、今回のキャラは調教が捗るから何時間でもやってられるよ。いやぁ、こういうのを待ってたんだよ俺は。やっぱさすがだわ、豚ムス運営」
この手のニッチなツボをついてゲームに落とし込んでくるのは、もはや天才であるとばかりに褒めちぎるメイ。
今もブタ息子のケツを連打でタップして叩きまくっている。画面からは『プギィ、プギィ』と喜んでるのか、それとも苦しんでいるのか分からない間の抜けた音声が流れている。
「くっ、やはりこの男は異常な性癖を……」
「『育成成功! 亀甲縛りチャーシューを覚えた!』よっしゃ、新技ゲット……え? 誰??」
リザルト画面で暗転した時に、スマホに誰かの顔が映っていた。そこでやっとメイは後ろに人が居ると気付いたようだ。
おそるおそる振り返ってみると、メイの知らない女子生徒が立っていた。
とは言っても、メイは同じクラスメイトでさえロクに顔を覚えていないので、教室の外からやってきた彼女のことを彼が知っているはずもないのだが。
「え、えっと……? どちら様で??」
「……私のことを知らないのか。まあいい。私は
やや青みがかった珍しい長髪を後ろに流し、腕組みをしながら仁王立ちをする不動という少女。
スカートもキッチリ学校の指定通りの長さだし、メイクも最低限。ちょっと目が鋭くってキツイ顔立ちだが、かなりの美人だ。
……腕を組んでいるせいで、キチンと着ているブレザーの制服の上からでも彼女の豊かな膨らみが更に強調されていて、真面目そうなイメージとのギャップがヤバい。
まぁお姉ちゃん一筋のメイには彼女の容姿になど興味は無いようだが。
「で? その不動さんが俺になにか……?」
「うむ。私はふだん生徒会に所属しているのだが、最近妙な噂を聞いてな」
「うわさ……?」
彼女が言うには、『陰キャで有名なメイが、メイクラブという部活で女子生徒と怪しげな活動をしている』という噂が生徒の間で流れているらしい。
そういわれると、まったく無関係で怪しくないとは言えず、思わず口をつぐんでしまったメイ。部室でAVを大音量で流したり、変な人体実験をしていたりしていたのは事実だからだ。
しかし目の前の少女にそんなことは言えない。目が泳ぎまくって動揺している彼を見て、ますます怪しむアオイ。
だが、メイも怪しまれるのは不本意である。なぜなら彼は自分から女子生徒に何かをしたつもりはないし、怪しげな活動はあの顧問のキワミがやっていることだ。
むしろ自分は被害者だと言ってもいいだろう。
だから彼はキワミが言っていたことをそのまま彼女にも伝えることにした。
「俺たちはただ、政府公認のクラブ活動をしているだけだよ」
「……それは本当か?」
「本当だよ」
「にわかには信じがたいが……」
だがそう言うしかないのだ。
アレがなんの役に立つのか、本当に政府が認めているのかなんてメイには分からない。分かりたくも……ない。
実際には少子化対策の一環になるということらしいが、不真面目な現役高校生であるメイにそんなことが分かるわけもない。
たとえ目の前の少女にじいっと目を見つめられたって、それ以上の説明のしようがない。
……と、そこでメイは妙案を思いついた。
口で言っても分かってもらえないのなら、実際に見てもらえばよいのだ。自分に非が無いは明らかだし、何かあってもあの変態教師のセイにしよう。
そう思ったメイは、さっそく有言実行することにした。
「だったら今度、不動さんもメイクラブに見学しに来ればいいよ」
「え?」
「実際に見れば、どんな活動をしているか一目瞭然じゃん。俺が言うより確実だし、自分の目で見れば納得するだろ?」
「あ、あぁ。たしかに……??」
逆にメイに瞳を真っ直ぐに見られた不動はたじろいでしまう。
彼女は生徒会として多くの生徒を断罪してきたが、異性との交遊の経験はほとんどない。こんな至近距離で顔を近づけるだけで本当は心の中でドキドキしてしまっていた。
ともあれ、メイのいう事にも一理あると納得してしまった彼女は彼の提案に乗ることにしたようだ。
「分かった。では今度視察という形で見学させてもらおう」
「それじゃあ都合に良い日があったら教えてくれ」
そういって
メイとのやり取りと結果に満足したのか、不動は来た時と同じように堂々とした態度で教室を後にした。
「ふぅ、なんとか誤魔化せたかな……これでまぁ、なんとかなるだろう。……たぶん」
良く分からないが、変な噂が立っていることは理解した。
だからと言って誤解だと弁明するするつもりもなければ、自分がどうにかするつもりもない。
他の生徒たちからどう思われようだなんて、彼には興味などひとつもないのだから。
だが、メイの周りの女子たちはそうもいかなかったようだ。
彼が珍しい女と話していることを離れた所で見守っていたものたちがメイの所へ駆けつけてきた。
「なに、どうしたのメイ」
「なんだか親しげだったねー、メイっち」
「……ずるい」
普段は明るく優しく声を掛けてくるアカネ、レモン、ミカの三人。
だが今はまるで尋問でも始めるかのようにメイを囲み、事情を聞いてくる。
その理由が分からない朴念仁なメイは、臆することも無く普通に答えた。
「あぁなんだか生徒会の人らしいんだけど、俺の噂を聞いてやって来たんだって」
「「「ふうぅん?」」」
メイに興味があってやってきたと解釈したのか、ますます怪しむ三人。
彼女たちの様子に気付きもせず、メイは『なんだか最近、面倒事ばっかりだなぁ』とウンザリした表情を浮かべた。
「なぁ、なんで俺って初対面なのにあんなに敵視されるんだ?」
「見た目じゃない?」
「「そうね」」
美少女三人の答えは、実にあんまりな理由だった。
たしかに以前より身嗜みに気を付けるようになったメイだったが、相変わらずオシャレとは言えないダサい格好をしている。
「うん。もうちょっと見た目をどうにかしようか」
アカネはこの際に幼馴染の大幅なイメチェンを決意した。
そしてそのアイデアに一番に賛成した女子が元気よく手を挙げた。
「はいはい、はーい!! それならウチの出番だね!」
前回、ショッピングモールでメイの服をコーディネートしてくれた人気読者モデルのレモン。たしかに彼女ならメイの見た目を改善させることが出来るかもしれない。
「えっと……俺の意見は?」
「「「問答無用!!」」」
「えぇ……?」
こうして本人の意思とは関係なく、レモンとのデート第二弾が決定したのであった。
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