第17話 幼馴染をマッサージで開発?
「いいから! 私に触れるぐらいなんてことも無いでしょう!? 幼馴染なんだから!」
無理矢理メイの手を掴むと、アカネは自分の頬に当てさせた。
もちろん彼女に胸や下半身を触らせるほどの勇気はない。
だが顔に触れられているだけで、アカネの心臓は破裂しそうなほどドキドキしていた。
顔も既にリンゴのように真っ赤で、風邪をひいた時の様に熱くなっていく。
さらには初夏の暖かさとベッドの上でメイと密着していることも相まって、アカネの身体はどんどん熱くなっていく。
そう、つまり彼女の身体は徐々に発汗していた。
アカネを中心にして、部屋に甘い香りが
部室でキワミを含めたみんなを震え上がらせた、あの誘惑の花が咲いたのだ。
――だが、相変わらずメイの身体は何も反応しない。
「な、なんで?」
「いや、俺が知るかよ」
当然である。
メイの能力はいわばこの世界の神である女神とウイルス神が与えた
その力を感染させるようにして覚醒させたのが、アカネの発情能力なのだ。
つまりはメイとアカネは親と子の関係、圧倒的上位者というわけである。
よってメイの能力がアカネに通用することはあっても、下位の者の能力は上位者には効かない。
「な、なんでよぉ~。せっかくこれをキッカケにしてメイと……」
「はぁ……もう気が済んだか? ほら、いつまでも俺に乗ってないでどいてくれよ」
「ひんっ!? うっ、んんんっ……」
自分の上からどかそうと腕を触れられ、変な声を出しそうになってしまうアカネ。
どうにか口を押えて耐え抜いた。
まだ何もしていないのに、メイに負けるわけにはいかない。
「ま、まだよ。まだメイの能力のチェックが終わってないでしょう!? さぁ、今度は私に試すのよ」
「えぇえ~? まだやるのかよっ」
だが何をどうやっても、
こうなると梃子でも動かないのは幼馴染の経験上、良く知っている。
そしてその結果がロクなことにならないことも。
なんだか面倒事の予感がして仕方がないメイは更に強い力で彼女を引き剥がそうとする。
しかしアカネだって譲れないものがある。
この時の為に彼女はカワイイ下着を選び、身体の隅々まで綺麗にしてメイの部屋にやって来たのだ。
もしかしたら、自分の能力にハマったメイが興奮して襲ってくれるかもしれない……そんな淡い期待があったのは間違いない。
そんな野望の為にも、このまま大人しく引き下がるわけにはいかない彼女は苦し紛れの奥の手を使うことにした。
「ほ、他の人に試して事故が起きたらどうするのよ!? それでまたあの人に嫌われたらどうするのよ」
「あの人ってサツキお姉ちゃんか? まさか……いや、たしかにアカネのいう事にも一理ある……のか?」
本当はあの人の名前なんて出したくは無かったが、メイに一番有効なのが彼女をダシに使う事。
予想通りにメイは引っかかった。
そもそも彼には、あるトラウマがある。
それは部室で
せっかく挽回をしようと努力をしているのに、この能力が不意に発動なんかして余計に嫌われてしまったら元も子もないだろう。
既に彼の頭の中では、アカネの言う通りだと信じ切ってしまっていた。
「丁度いいわ。メイが前に得意だって言ってたマッサージを私にしてよ! それならいいでしょう?」
「マッサージ? 俺が、アカネに?」
「そうよ。私、最近肩が
「いや、全然。それは無いと思う」
「なんでよ!! いいから! 早くやるの!! ……ぐすっ」
中学時代から全く育つ気配のない胸のことをハッキリと言われ、泣きべそをかきながらベッドに寝そべるアカネ。
「はぁ~ぁ。わかったよ、もう……仕方がない」
これ以上、彼女に何を言っても聞かないのは分かっている。
仕方なく付き合ってやることにしたメイ。
美少女がこんな体勢や状況になっていたら、普通の男子高校生なら喜んで手を出しそうなものだが……生憎とサツキお姉ちゃん一筋のメイにそんな感情は無い。
ただマッサージをすること自体は好きなのだ。
最近ではめっきり帰ってこないが、父が家に居た頃は頻繁にしていた。
上手いと褒められるのが嬉しくて、独学で勉強していたほどだった。
結果、メイは高校生にしてはかなりのテクニックを習得するに至っていた。
もしかしたらそれが彼の能力に影響していたのかもしれない。
そんな事情はまったく知らないアカネ。
急に張り切りだしたメイがやる気満々で手に気を集中してコリを探しながら、アカネに本気のマッサージをすればどうなるか……。
「~~っ!?!? なっ、ななな!?」
「んん~、ここかな?」
「ひゃあぁあっ!! そ、こぉ……だめぇ~っ」
最初のひと揉みはどうにか気力で耐えたようだったが、メイのツボを押さえたグリグリ攻撃に耐えきれず、とうとう苦悶の声を漏らしてしまう。
父にした時とは違ったアカネの敏感過ぎる反応に、メイもびっくりして手を止めてしまった。
「ちょっと、何でそんな変な声を出すんだよ」
「ご、ごめん。あまりにも上手くてびっくりしちゃって……」
「ん、そうだったのか? ならいいけど……じゃあ続けるぞ?」
「あっ、待って~っ! あ~っ!!」
上手いと言われて調子に乗ったメイはさらにアカネの肩や背中、腰へとマッサージを続けていく。
次から次へとくる刺激に、アカネは枕に頭をうずめて、必死に喘ぎ声が出ないように耐えようとする――が、その枕からは大好きなメイの匂いがしてきて、余計に変な気分になってしまう。
「うううっ。なんで私のは通じないのにメイは私に通用するのよ!? これ以上は……まずいっ!」
「えっ!?」
アカネは更に下半身へと伸びようとしていたメイの手をむんずと掴むと、格闘技好きな父親に直伝された技でメイをベッドの上に投げた。
そしてそのまま背中側に移ると、関節技の要領でギュウギュウとメイの首を締め付け始めた。
「ぐうっ!? あ、アカネ……いったいなにを……」
「許せ、メイ。これ以上は……私がもたぬ」
「はあっ!? 何を馬鹿な……あっ……」
アカネのあまりに完璧すぎる絞め技に、メイは文字通り手足が出すことができない。
次第にそのままゆっくりと意識を失っていき……パタリと腕を脱力させた。
「はぁーはぁーっ、危なかったぁ」
無事にオトせたことにホッとしながら、荒くなった呼吸を整える。
大好きな彼に抱き着けている現状よりも、無事だったことに安堵している。
もはや最初の目的などとうに忘れ去ってしまったようだ。
「上手く意識をオトせて良かった……でも、この後どうしよう……」
ベッドの上で仰向けになってグースカと寝ているメイ。
呼吸はしているのでちゃんと生きてはいるようだが、すぐに起きるような気配はない。
「あはは。……ちょっとぐらい、いいかな?」
そうしてメイが目覚めた時には、時刻はすでに夕方を過ぎていた。
ベッドから少し痛む身体を起こすと、部屋にはもうアカネは居なかった。
「あれ……? 今日は一緒に遊ぶ約束していたよな? それとももう帰ったのか?」
なんだか記憶が曖昧だ。
昨日の疲れがまだ残っているのかもしれない……そう思いながら、メイは夕飯の準備の為にキッチンへと向かう。
一階のキッチンに向かうと、何故かアカネが何事も無かったかのようにご飯を作っていた。
いや、アカネの顔は若干赤くなっている。
何があったのか、なぜお前が俺の家のキッチンで夕飯を作っているのかなどと尋ねるのだが、何があったかは頑なに言わないアカネ。
「……まぁいいか。久々にアカネの作ったご飯が食べられるならそれでいいしな」
呑気に仲良くアカネの作ったオムライスを食べるメイ。
破天荒なアカネだが、家庭料理は上手だったりもする。
アカネは「いつでもお嫁さんになれるからね!」などと言っていたが、アレはいったいなんのアピールだったのだろう……と鈍感すぎるリアクションをしていたあたり、メイらしいと言えばらしいのだろう。
結局、この日はゲームをすることなく終わってしまった。
それなのに何故か満足そうな表情を浮かべながら、ぎこちない動きで帰っていくアカネ。
そんな挙動不審な幼馴染を不思議な顔で見送りながら「寝ている間に絶対何か変なことをされたけど、絶対に聞かない方が良いパターンのやつだな」と自分を納得させるメイなのだった。
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