第5話 変態女教師のハジメテを貰いました。

「あぁ、これは総理の権限を委譲された私からキミたち一般市民へのだ」



 女教師キワミの、ババーンという効果音付きの堂々とした物言い。

もう成人済みのいい大人であるはずの彼女は自身が担当しているクラスの生徒に向かって、これ以上ないほどのドヤ顔をかましている。



 今も拘束されているメイはともかく……来たばかりで事情も分からないアカネは、突然そんなことを言われても困惑するしかない。


 そんな政府権限下の命令だとしても、メイとアカネは高校生であり、法的にもれっきとした未成年なのだ。


それに今日国民に発表されたばっかりの怪しげなクラブに「入れ」と言われて「はい、やります!」とはならないだろう。



「そんな! 私たちがなんで!?」

「あぁ、念のために言っておくが“桜庭さくらばちゃんが”というよりも、このメイ君が欲しいんだ。私はね」

「もごっ!? もごもごもご!!」



 自分の名前が出たことで驚くメイ。

 相変わらず口の中に布が押し込まれているので、何を言っているのか分からない。



「なっ……!? なんでメイを狙うんですか! 第一、貴女は私たちの教師でしょう!」

「あぁ、理由かい? 実はついさっき、私が2年B組の前を通り過ぎようとしたら君たちのことを見掛けてだな……」



 それは先ほど昼休み中の教室でのこと。


 とある男子が彼女とのエッチをクラスメイトに大声で自慢し、その彼女が友人に彼氏の性行為のつたなさの愚痴をこぼしていた頃。


 この世界に存在していた神が少数の人類に対し、新たな能力をもたらしていた。

 それは偶然にもメイにも与えられており、すでにその異能の一端いったんが垣間見えていたのだ。


 そしてその能力とは――



「本当に驚いたよ。研究一筋でそれ以外には全く興味も湧かなかった私が、まさか生徒に興味を……それも、こんなにも胸が高まるような感情が生まれるとは思わなかったんだ」

「え? そ、それってもしかして……恋!?」



 こそこそとメガネを直しながら、やや赤くなった頬を隠そうとするキワミ。



 この将門まさかどきわみという教師は面倒見も良く親しみやすい印象ではあったものの、それはあくまでも教師と生徒の間柄としてである。


 誰から見ても美女である彼女は、男女年齢関係なく頻繁に告白をされていた。

 しかし今まで男女の交際なんてしたこともないし、この歳になっても勿論のこと処女である。



 ――それはなぜか?

 理由は彼女は誰かを恋愛として好きになったことが一度も無いからだ。

 だがこれは根っからの研究者気質である彼女にとって、逆に興味を引く理由にもなっていた。



「いったいどうやったら人を好きになる? 愛とはいったいどんな生体反応なのだ?」


 そういった理由もあり、性についての研究を始めたのがキッカケであった。

 結局自身が恋愛をすることは無かったが、その成果がニュッポン新政府に認められてこの学園にMAYメイクラブ創設のために派遣されたのである。



「そんな私が、あんなにも胸が締め付けられる思いをするなんて。カラダの芯がしびれ、下半身がとろけるほど熱を持つなんて……!!」

「ちょっと、それ以上はダメ!! メイに悪影響だからやめてください!!」



 興奮し始めたのか、どんどん熱くなっていくキワミ。

 自分が普段メイにやっている言動は棚に上げ、キワミに抗議するアカネ。


 このキワミという教師もこうと決めたら頑固なところがあるようで、意思を曲げる様子はない。


「頼むよ、メイ君。お願いだ……君を研究することで、私の長年の謎が解決しそうなんだよ。だからメイ君……是非ともこのMAYクラブに入部してくれないか」



 まるでプロポーズをするかのように拘束されたままのメイの前に跪き、自分のメガネを彼の顔に掛けさせた。

 指輪交換ならぬ、メガネ交換である。



「そ、そんなことで!? 私のメイを渡すなんてできな「――失礼します」……え、 誰!? いったい今度はなんなのよぉ!?」



 ――ガチャリ。



 アカネが甘い雰囲気を振り撒いているキワミを止めようと近付こうとした瞬間、この教室に新たな闖入者ちんにゅうしゃがやってきた。


 その者とはキリっとした釣り目の、真面目そうな女子生徒だった。

 教室に居た全員の視線がその者に集まる。

 しかしその女子はそれに気付かず、自身をここへと呼び出した人間を捜していた。



「ここに将門先生は居ますか? 先生に呼ばれた3年の……え?」

「あっ」

「マズっ……!」

「え……?」



 この瞬間、部屋に居た全員の完全に時が止まる。

 別にこれは神が与えた能力などではない。

 ただただ、気まずさで空気が凍ってしまっただけである。



「……先生? これはいったい、どういうことなんですか? ことによってはしかるべきところに……校長? いや、PTA?? それとも警察……」

「や、やあ。よく来てくれたね!! いや~、この学園にはきたばっかりで、私にもこの状況はまったく分からないなぁ!!」


「いや、先生がここに呼び出したんじゃ……」

「そっ、それよりもちょっと色々と聞きたいことが「もごごっ! ぷはあっ、やっと口の中の布を出せたぁ! こんなものを入れられてずっと苦しかった……ってナニコレ?」……メイくぅん!?!?」



 ――ふぁさっ。



 大声を出せないようにメイの口に詰め込まれていた、手のひら大の布切れが床に落ちた。


 当然、この場に居た全員の視線が布に集中する。


 そしてその布きれの正体とは――



「な、なんで女性モノの紐パンが? しかもエロエロな赤紫ワインレッド……」

「うへぇぇえっ! げふぉっ!! 汚なっ! おえぇええっ!」

「……将門先生? ハジメテって? この脱がされた男と下着はいったい……?」



 ――完全に詰んだ。

 さっきよりも凍てついた冷気が教室を襲う。


 この時の状況を、アカネは自分が女性でまだ良かったと後に語った。

 最悪、気配を消して自分だけでも助かりたいとも思っていたそうだ。



 しかしキワミは逃げることが出来ない。


 ジト目で自分を責めてくる目の前の少女をどうにか丸め込まないと、社会的に死ぬ。


 キワミは最後の希望を逆転ハッピーエンドを賭けて、状況改善の為の言葉を放った。



「ち、違うんだよ!! こ、これは……私のハジメテを奪った少年を使って性技術の研究を「失礼しました!!」……あぁぁぁああ言葉のチョイス完全にミスったぁあぁあぁああ!!!」



「「なにをしているんですかぁあああぁぁあ!!」」





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