第7話 金銀豪華なお嬢様とメイド襲来。
「それじゃあ改めてよろしく頼むわね? メイ君、アカネちゃん」
「キワミ先生、よろしくお願いします」
「……よろしくお願いします」
少し時間がたったおかげで冷静になったのか、若干不安そうにしているアカネ。
このクラブに所属している限り、メイの恋愛を応援しなくてはいけないことに気付いたからだ。
表向きは協力しながらも、上手くいかないように邪魔をしなくてはならない。ただ嫌がらせをして嫌われてしまっては元も子もないので、かなりのハードミッションだ。
「それで、俺とアカネの二人だけでクラブって成り立つんですか?」
「そういえば他にも生徒に声掛けをしていたの? あの女にしたみたいに」
もはや完全に敵扱いである。
メイがサツキを長年想い続けていたのと同じように、アカネはメイのことをずっと追い続けていたのだから――さすがにこれは仕方がない。
「そうよ。貴方たちの先輩にあたる子たちなんだけど、このクラブにピッタリの人材を見つけたのよ!!」
「へぇ~、先輩にそんな人が居たんだ。ってことは何人か声を掛けていたんですね」
「なんだか私、さっきのこともあるから若干不安なんだけど……」
そんな会話をしているうちに、その人物がやってきたようだ。
「――失礼しますわ。ここに
「お嬢様、危険です。ここは私が先陣を切りますので、私の後ろにお下がりください」
先ほどとは違い、音も無く開いた部室のドア。
声がした方をメイたちが振り返ると、そこにはキンキラに光る濃ゆい女二人組が立っていた。
「金髪に銀髪……?? 今度はいったい何なのよ……」
「なんで制服じゃなくてドレスとメイド服なんだ? アレは俺の目の錯覚か?」
「私のお嬢様に向かって、なんたる無礼。
「駄目よ、
「はっ? 処す!? な、なんで!?」
流星の様な美しい銀糸の髪を揺らめかせながら、リコ様と呼ばれたドレス姿のお嬢様を庇うようにしてメイの前に立ちはだかる。
表情の見えない能面のような顔に、感情の無い坦々とした声は非常に威圧感がある。
「あら、ようこそ
「ごきげんよう、将門先生。本日はどのような御用件で私を御呼びになさったの? もしかして、またお父様への援助のお願いかしら?」
「ちょ、ちょっと黒鉄さん!? その話は学園ではシークレットにしてって言ったわよね!?」
見た目に反しない物腰の柔らかい気品ある物言いをするリコ。
そして二人の間にはどうやら、教師と生徒以外にも何かしらの関係性があるようだ。
「どういうこと? っていうか……この学園に居る黒鉄さんって、あの世界でも有数の工業メーカーの御令嬢じゃなかった!?」
「マジかよ!? それってホンモノのお嬢様じゃないか! それにお父様って会長とかだろ? 援助ってもしかして……援助交際……!?」
恋愛に興味は無いとはいえ、そういう大人の付き合い方が世の中にあるのは事実。
メイとアカネは全く同じ動作でキワミの方を見やる。
「ち、ちちがうわよ!! そんなことしてないわよ先生は! そ、そうだわ。それよりメイ君、この二人は貴方たちの先輩なのよ。もしかしたら同じ三年生である
「お姉ちゃんのことを!? 本当ですか、先輩ッ!?」
かなりあからさまな話題逸らしだったが、メイはあっさりと引っ掛かる。
再会したばかりの憧れの彼女について情報があれば、是非とも知りたい様子だ。
なにしろずっと想い続けていたとはいえ、名前を知ったのもついさっき。
彼女に関して分かることだったら何でも良いから知りたいという思いが勝っていた。
メイはもう
「――それ以上リコお嬢様に近付くな、このサカった雄ガキめ」
「なぜ止めるんですか白銀先輩!?」
「そうですよ、彼はただの男子学生ですよ? リカさんは何をそんなに警戒しているのです?」
「失礼しました、お嬢様。しかし、私の直感がこの男は危ないと警鐘を鳴らしているのです。おい、貴様。それ以上我らに近付いたら貴様は大事なモノを失うことになるぞ」
リカはキリっとした瞳をさらに鋭くさせると、メイド服のスカートから銀色の丸皿を取り出した。
なぜそんなところから、という疑問はともかく。あまりにも綺麗に磨かれたシルバートレイだったので、一瞬彼女の下着がガッツリ
「水色……じゃなかった、それでいったい何を……うわっ!?」
何をするつもり、と問いかけている途中で後ろから誰かにトンっと背中を押されてしまう。身体のバランスを崩してよろけたメイは、警戒を最大にまで上げていたメイドの方へと一歩踏み出してしまった。
「――残念ですが、刑を執行します」
「ちょっ、今のは俺のせいじゃ……うわあっ!?」
弁解をする余地もなく、一瞬の間に目の前からメイドが消えた。
そして身体に風を感じた瞬間、自身の異変に気が付いた。
「きゃああああぁぁっ!?」
なんと、メイの穿いていたパンツが消失していたのである。
そしてそれが何処に行ってしまったのか――その答えは、メイドの左手でもつ
まさに神業。誰の目にも彼女がパンツを奪い取る様を確認することは
その一部始終を呆気にとられた表情で見つめるアカネとキワミ。
ちなみに彼女の主であるリコは見慣れているご様子だ。
「う、うそでしょう……?」
「あらあら、リカさんったら相変わらずね」
「ほぉ、これは中々……」
女の子みたいな悲鳴を上げたメイとは対照的に、割と冷静なリアクションをとる三人。銀髪メイドの惚れ惚れとするような美技に主であるリコは称賛の言葉を送る。
「さすが、我が
「お褒めに
マジックショーで大成功をおさめたかのように、自然とパチパチパチと部室に拍手が舞い起こる。そして流麗なカテーシーで返礼をするリカ。その表情は相変わらず冷めたままだが、若干口元が緩んでいる。
クールなメイドでも、やはり褒められるのはどうしても嬉しいようだ。
しかし拍手もせず、彼女らに抗議をする無粋な男がひとり。
「ちょっと、お前ら! 感動している場合じゃないだろうがよ!? っていうか俺のパンツを返せよ!!」
「……ッチ。まったく、ゴミの癖に
「知るかよ! だいたい今回のことだって、俺から近寄ったわけじゃないぞ!」
「――ふん。それでも言い訳をするというのなら貴様の最後の
ふたたびリカはシルバートレイを構え、メイを睨みつける。
一方のメイは襲い来るリカから身を護る為、両手を前に突き出した。
武術の嗜みなど無い彼が出来た精一杯の抵抗であったが、それが功を奏したのか、奇跡的に彼の両手が彼女の身体に触れることが出来た。
「アッッ……!?」
先ほどと同じように一瞬で消えたかと思ったが、彼女らしくない下品な声と共に視界に現れた。その場に居た全員が『リカの
手からこぼれ落ち、重力に従ってカラン、と銀皿が床に転がっていく。
その音と共に、白目を剥いて膝から崩れ落ちるメイド。
「な、なんで……?」
「ちょっとメイ。アンタ、いったいなにをしたのよ!?」
「こ、これは……!? やはりメイ君は私の見込んだとおりの……」
理由も分からず、両手を突き出したまま固まっているメイ。
別段、何をしたという事もない。
ただ、偶然自分の手が超高速で突進してきたリカの胸部に少しだけ触れただけである。むしろメイには彼女のどこに触れたのかさえ見えていなかった。
床で泡を吹きながらピクピクとケイレンしているメイド。
舌なんてだらしなく口から漏れ、下半身からも何かがチョロチョロと漏れていた。
そんな悲惨な様子を主であるリコは、我を忘れて激怒――していなかった。
「素晴らしいわ!! ねぇ貴方、名前はなんていうのかしら?」
「はっ……ええっ? 俺!? 2年生の
「メイ、ね。うふふふ、きぃーめた。ねぇメイ。今から貴方は、
「――は? ちょっと待って!? ペットって、つまりそれはどういうこと!?」
「お嬢様……それだけは……この男は危険すぎます……!!」
御淑やかなお嬢様の口から突如、メイをペットとしてお迎えするというトンデモな言葉が出てきた。
呆気にとられるメイと、意識を取り戻したらしいお漏らしメイドが主へ必死に忠言をする。
「なにがどうなったらそうなるのよ!? オカシイわよこんなの〜!?」
「あっはっはっは!! いいね、これで益々面白くなってきたじゃないか!! あっはっは!」
そしてアウトサイドから見ていたアカネとキワミは対照的な反応を示している。
完全にこの部室はカオスに陥っていた。
誰もこの状況を打破しようなんてものも現れない。
……と、ここで極めつけに余裕たっぷりのリコから、未だに困惑しているメイへと
「もし
「なります!! 犬でも猫でも!! 今すぐにでもペットになりますわん!!」
ブンブンと振られる尻尾が幻視できるほど飛び付いたメイを、慈愛たっぷりの笑顔を振り撒きながら彼の頭を優しく撫でるリコ。
またこのメイの暴走に近い言動に、幼馴染のアカネは――
「ちょっと、またこの流れ!? なんでこんな事になるのよぉ!? 無理っ! もうこれ以上オカシイ奴の制御なんて、私には無理よおぉっ!」
さらなる変態の登場に、コントロール不能のこの状況。
果たしてアカネのメイ奪還作戦の行方や、いかに――?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます