第2話 主人公がしゅきしゅき過ぎる幼馴染。

 朝支度を終えたメイは、学校に向かうためにカバンと鍵を持って玄関に向かう。


 ちなみに彼がこうして日中に外へ出るのは、なんと1週間以上振りである。


 ずっと楽しみにしていた新作ゲームに夢中になり過ぎて、11連休もあったゴールデンウィークを彼はなんと全てゲームへと費やしてしまったのだ。精々外出していたのが夜中にコンビニへ食材を買いに行く程度で、ほぼ外界に出ることもしなかった。



「あぁ~、学校に行く前からもう帰りたい。ゲームだけして生活してぇ~」


 ドアを開ければ五月の太陽が燦々さんさんと輝き、メイの真っ白な肌を焼いていく。


 また暑い夏がやってくるのか……と、そんな憂鬱な気分でドアを開けた瞬間。メイの耳に、幼少の頃から聴き慣れた声が入ってきた。


「おっはよー、メイ! ねぇアンタ、またスマホの電源切ってたでしょ!? ずっと私が連絡していたのに、それも返さないで……ってなによ、もう。こうして私が迎えに来ているのに、朝からそんなひっどい顔をして!」



 まるで太陽のように、眩しいオーラを放つツインテールの少女。


 彼女はもう逃さないとばかりに足早に駆け寄る。そして嫌そうな表情を浮かべているメイの頬っぺたをムニムニと引っ張って無理やり笑顔にさせようとしていた。


 メイはそんな彼女の手を鬱陶しそうに払うと、面倒臭そうに口を開いた。



「朝から五月蠅うるさいな、朱音アカネ。いいだろ別に、俺がどんな顔してたって……それに迎えに来てなんて、俺は頼んでなんかいないし」


 しかし実際はこのアカネと呼ばれた少女の言う通り、メイの見た目は中々に酷いものであった。


 髪は寝癖でボサボサ、制服のブレザーはヨレヨレ。


 乱視を矯正した分厚いメガネは、手入れもされず指紋の汚れでベッタリだ。



 一方のアカネはと言えば、手入れの行き届いた艶やかな長髪を彼女のトレードマークである赤いリボンでツインテールに束ねている。


 ピシっとアイロンかけのされた白のセーラー服には、明るい桜色のカーディガンをコーディネート。


 そして学則ギリギリまで短くしたスカートからは、やや細めだがムチムチとした白い脚が惜しげもなくさらされている。


 さらに彼女の可愛さを際立たせるナチュラルメイクもバッチリとキマって、これぞ今時の女子高校生というカンジである。



 メイと同じ高校二年生ぐらいであれば、普通は恋や友情にと青春真っ只中だろう。

 であるならば、彼女のように身だしなみはそれなりに気を付けるべきだ。


 なぜかって? その答えは至極単純。

 ――単純にだ。



「まったく~。そんな調子だからメイは彼女ができないんだよっ」

「いいんだよ、別に。そんなの興味ないし」


 目の前にアイドル並みの美少女が居るというのに、メイはつれない態度をとる。

 それを聞いたアカネも頬っぺたをぷくーっと膨らませて不満顔だ。


 これが普通の男子高校生であったなら、可愛い幼馴染に対してこんな冷たい言い草はしない。

 しかしこれは本心からの言葉であり、メイは本当に興味が無いのである。


 いや、同性に興味があるとかではない。

 ただ、メイは小学校の頃から憧れている女の子が居るのだ。


 彼はその子を想い続け……拗らせた結果、他の女の子に興味を示さなくなってしまったのである。

 決して二次元に恋をしているわけでもない。



「……なんでよ。私の方が――」

「ねぇ。それより、ニュース観た? 今日からあの法律が施行されるってやつ」


 アカネの言葉を遮るようにして、メイは朝からテレビで流れていた話題を振る。

 彼女は幼馴染のそんな態度にはもう慣れっこなのか、軽い溜息を吐いてからメイの話に乗ってきた。


「はぁ……この鈍感。もちろん、観たわよ。でも本当にウチの学校にもできるのかしら? 『MAYクラブ』なんてふざけた名前の部活なんて……」



 アカネが言う『MAYクラブ』とは、Management and Aid Youth若者の補助と管理を目的としたクラブである。

 新たな政策を実行するにあたって、若者が混乱したり精神に悪影響が及んでしまってはマズい。それを予防するために、新政府は手始めに課外活動としてを指定した各学校に設立させたのだ。



「ニュースでは選ばれる学校はランダムだって言っていたけど、ネット上の噂では全国の公立校に作るらしいぜ?」

「ふぅん。それでも選ばれた生徒がそのクラブに入るんでしょ。どうせ私たちにはカンケーないんじゃない?」


「まぁなー。どうせチャラい連中やモテるリア充どもが選ばれるんだろうな。そう、例えば――お前みたいな」

「そ、そんなこと絶対ないってば!! それに私はモテるより、好きな人に好かれたいよぅ……」



 謙遜しながらもメイに褒められたのが嬉しいのか、頬を赤く染めて恥ずかしがるアカネ。

 彼女をそうさせた本人は自分の言葉の意味を自覚することも無く、頭はもうクラス替えや授業のことに切り替わってしまっていた。



 ――しかして、呑気そうなこの二人。

 メイとアカネはこの日、揃ってMAYクラブのメンバーに選出されることになる。


 更にはその活動の中で、自分たちが他の人間には無いであることが判明するなどとは、この時の彼らは露程も思っていなかった……。





 そして仲良く登校していたメイとアカネの後ろを、数メートル離れた物陰からじぃ~っと覗いている小さな人影があった。



「ふふっ。お兄ちゃんったら童貞臭くて可愛いんだから……相変わらず女に関して鈍すぎるし、ボクが同じ学校になったことにもまだ気付いてもいないし」



幼馴染の尻に敷かれている愛しい人を熱のこもった視線で見つめる、アカネと同じ制服を着た少女。



「あはっ、またボクのオモチャになってくれる日が楽しみだよ。……だから大人しく童貞のままで待っててね、お兄ちゃん♪」






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