chrono-06:分析力は、エレキ……カタカタカタ……ロボ分析完了(古)の巻

「【統率】は……【ファラオ】……ッ!!」


 だんだんと陶酔によって思考のタガみたいなのがゆるゆるになってきていて、その弛緩したような状態から、普段は抑圧されていた意味不明かつ摩訶不思議な発想が沸いてきていて、そしてそれが実際に「かたち」を為し、目の前の打破すべき|(たぶん)対象を屠っていく……にしてもファラオて。


 素に還って鑑みると多分に異常ではあるけれど、そんな些末な思考さえ膨大量で押し流していくほどの圧倒的パゥワーが……


「……」


 今の「僕」からは迸っている。最後とどめ、とばかりにマリーゴールド色の全身タイツを身にまといし身体から漲るエネルギー球を直上に現出させると、それを最早満身創痍と見えて身動きもままならない【14】へ向けて投げ放つ。その淡いオレンジの光を放つ「光球」は、僕らの周囲の空間に揺蕩っていた先の「攻撃」の残滓をもまるで「統率」するかのようにその傍らに吸いつけるように従えると、無情にも目標向けて精密に撃ち込まれていきさらには断末魔も巻き込みつつ多段にヒットしていくのであった……


 いや、これ。すごいんだけど何これ。


「……いや、すごいのはそんなにも能力を連発できるキミの底知れぬ精力キャパシティの方なんだけど」


 僕の思考を読み取ってきたように、ファイブがそのような平坦な口調で漏らしてくるのだけれど。あっるぇ~、また僕なんかやっちゃいました~?


 ともあれ。


 第一の刺客(と言っていいのかは分からないけど)を物理じゃないけど物理で殴るようなスタンスにて退けた僕とその中にいる以下七名(というくくりでいいのかは分からないけど)に向けて、【14】の消滅際に放出されてきた白い光の球のようなものが吸い込まれていく……


<YOU GOT 気力>


 淡白な表示が中空に浮き出てきたのは何でだろう感しかないけれど、身体の内底から何と言うかの「力」が沸いてきた感覚……


「倒した『敵』の能力を自分のものにすることが出来るのが、この我らが『世界』のことわり……」


 僕の内部で重々しくファイブがそうのたまってくるけど、何かに似ているなとか考えた瞬間にその思考はいくつもの光球に分かれ飛び散っていく中、ふーんふーんとしか言えない僕がいる。いや待てよ、【14】を倒したら、明日……14日の「支配権」みたいなのも僕に移るのでは?


「……その通り。つまりキミは『連続した日々の記憶』というものを手に入れることが出来たというわけだ」


 なんかもう僕こと【13】を主軸に置いちゃってるけど、いいのかな。でも「連続した記憶」……それは何かあったら嬉しい気もする。もう少し日々がはっきりするんじゃ……そんな期待感もある。今までぼんやりとしていた何かの記憶とかも。もしかしたら形を成していくのかも知れない。そう考えた瞬間、頭の後ろの方にぴり、とした痛みが走ったような気がしたけど。うんまあ明日。僕(サーティーン)にとっての、新しい明日が……始まる……んだ。


「……」


 高揚感が意識全土を満たしていくような……そんな心地よさ、気持ちよさというものに包まれながら僕は今度こそ眠りに落ちていく……かに思われた。けど、


 次の瞬間、ぴぽぴぽぴぽぽん、という間抜けた携帯のアラームで、一気に意識は娑婆へと引きずり出されてしまう。ええええ……もう朝だったんだね……意識が休まるヒマ無かったから、うぅん意識ははっきりだけど疲労感もハンパないよせっかくの【13ぼく】のターンが続く日だというのに……


 とか、それでも今までに無い高揚感と共に、目ヤニでぴっちり貼り付いていた両目を爽やかに勢いよく目力を込めてぺりと開けてみたりしてみた。が、


「!!」


 仰向けになったままの寝相はどうでもいいとして、毛布も足元に剥いで丸められていたのもいいとして、そういや昨晩布団に潜り込んで来ていたヒトの事を忘れていたよ……なまじの天使よりも浮世ばなれした尊い寝顔をこちらに向け、くぅくぅまだ寝息を立てながら僕の左脇に寄り添うように横寝してるのはいいのだけれど、そのつややかな左手が僕の、言いにくいけれど思春期真っ盛りの起き抜けからフルパワーな、薄手のスエットの布地を内から貫かんばかりに一点でそそり立った、一人用の、正にのソロキャンプ用のテントが如く下腹部らへんに設置された箇所へと、そのしなやかな指先が優しく円を描くようにして添えられているというまさかの事態に陥っていたのであった……


 動いてはダメだ。


 もしもこの局面で暴発してしまったのならば。僕はヤンガーシスターフィニッシャーとして、消せない烙印を胸に刻まれてしまうことになる……ッ!! さっきまでの戦いがまるで児戯に思えるようなほどの現在の鉄火のっぴきならない事態に、それでも僕は寝不足のままならない思考を奮い立たせ、爆弾処理班のように慎重に、この事態への対策をフルスロットルで練り始める。


 自分から抜け出すのは無理だ。腰を動かした瞬間、慣性の法則によりその場にとどまりし妹の手指と、移動する僕のテント支柱が摩擦によりスパーキングし、マグマ溜まりから突沸した溶岩状の液体は布地を軽く突き破り染み出してくるは必至……ッ!!


 ならば、優しくまとわりついている左手を外しどけるか……しかし。この上なくぴったりと、それはぴったりと添うておるよこれは外した時の衝撃でどうにかなってしまう危険性を既に内包している……


 このまま直立不動(ダブルの)で波をやり過ごし、しかるのちに何事も無く爽やかに起きる……無理だ。僕の無駄に無尽蔵な威力棒は収まる気配がないし、妹は妹で先ほどまでの規則正しい寝息がいまや途切れていて何か今にも起きてきそうだ……起き抜けの寝ぼけ行動の逐一、それらは全て必死級の刺激となり僕を襲うだろう。十中八九、終わる。もはや抱えた爆弾は時限式の待ったなし感をも内包し、平和な未来が無い方へと舵を切りつつある……ッ!!


 打つ手が無くなった。そう思った瞬間、僕は「能力」のことを思い出す。


「【集中】は【ダイブ】……集中して脳内に思い浮かべろ……昂奮とは真逆な感情を生み出し、この高波を相殺しろ……ッ!! おおおおおお……ッ!!」


 妹を起こさないように小声でぶつぶつと、呟くと同時に僕の頭の中に悲しかった過去が甦っていく……ッ!!


「小一の時、かわいがっていた雑種犬のポーちゃんが、ちょっと表門が開いた瞬間に車道へと吹っ飛び出して運悪くそこに突っ込んで来たおばちゃんの原付に撥ねられて死んでしまったことを……思い出せ……思い出すんだあの時の、感情を……ポーちゃん……ッ!!」


 毛並みはぐちゃぐちゃだったけど、あいくるしい顔つきで、明日奈よりも家族の誰よりも僕になついてくれていたポーちゃん……いつも散歩に行っては最初っから最後まで全力疾走するから散歩じゃなくて散走だったよね……うん、今でも君のことを考えると、楽しかったことが思い出せるんだ……せつなさと共に……ポーちゃん……


 乾坤一擲の策は、僕の海綿体への血流を治め、無事平常なる状態へと戻していってくれるのであった……困難からの脱出、見事成功……!! いやそれにしてもこの「能力」。もしかすると万能なのでは……ッ?


 これは今日の学校でもうまく使い立ち回ることが出来たのならば。ひょっとするとカーストの下からの脱却、それが為しうるのかも知れない……ッ!!


 これからのめくるめくバラ色のスクールライフを思い浮べ、悦に入って薄笑いを浮かべながら、そのままの姿勢で仰臥していた。


 それがいけなかった。


「え? ポーちゃんなの? んふふー、どーこいってたの、このこのぉ……」


 むにゃむにゃ音と共に寝言を述べた妹の、その犬の首元を撫でる時のような、四指を軽く曲げ込んで指の背でこすこすと擦るという動作が誘発されたかと思うやいなや瞬時に、


「……ッ!!」


 抵抗することも我慢することすら敵わず正に一瞬のうちに、


「!!」


 僕のポーちゃんが、火を噴いた。


――ヤンガーシスターモーニングエレクトリッガー、来野アシタカ、爆誕……ッ――

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