chrono-19:筋力は、ボンバー!魂もまたボマー!の巻
「今日集まってもらったのは他でもな」
「本題に入れ」
場が落ち着いたのを待って、腕組みをしつつ僕はそうニヒルに切り出したものの。こめかみを拳でえぐり殴りつっこむというリアクションの取りづらい衝撃に遮られる。灰炉はさ、自分の拳撃の威力をもっと正しく把握するべきだよ……
ユエちゃんちょっとでいいから聞いたげて、との明日奈の切実なお願いに不服そうな顔つきながら、グラスに残った氷をあおってるその御仁から一センチでもいいから距離を取ろうと何とか激痛から立ち直った僕は尻をにじりつつ気を取り直す。そして、
「僕は、これから、変わろうと思っている。でも、そのためには『儀式』みたいなのが必要と感じたんだ。だから、今まで、さんざん虐げられてきた、キミらを乗り越えることによって僕はそれを為そうと考えた」
はぁ? という見事な三重奏が、パステルグリーンを基調とした明るい内装が逆に物寂しさを助長しているように見えるこの休日閑古ファミレスのがらんとした空間に響き渡るけど。僕は構わず厳然と言葉を紡ぎ出していく。
「まぁ、その虐げにしても、思うに、それは僕への好意への裏返しだと、思っているのだけれどね」
アァンッ!? と、ここまで不快感を煮詰めて発することが出来るのかと思うほどのそれは濁った嫌悪感の塊のような声を三方からぶつけられるのだけれど。この煽りも計算内。
「……やっぱりトチ狂った陰キャの御乱心案件とゆーことで、もう下の駐車場で畳んじゃおうか」
ツインテールを人差し指に巻き付けながら溜息混じりの杜条の声。が、そう来るだろうことも全然想定範囲内だよ。テーブルの下で脛を三方向くらいからガンガン蹴り上げられているのは範囲外だけど。
「逃げるのか? 正々堂々の勝負を、僕は申し込もうとしているのに」
三種類の蹴りの中で的確に痛点を突いてくるのは灰炉かな……真隣なので踵を使ってきてるよもう泣きそうだよ……でも、ここいちばん、僕は【
「ふぅん? へぇぇ、なぁにそれぇ。んメリットなーいかなー、私ら、に、は」
眼鏡の奥の切れ長目をわざとらしく見開いたり閉じたりしながら、でも殊更小馬鹿にしてくるような気の抜けたような物言いは、杜条が何かしらは興味持ったサインだ。【観察力】……の能力を使わずとも分かる。うん、僕の「素の力」も成長しているんじゃないか? あるいは先ほどの胸部への「密接」トレースがあったから杜条の感情の諸々が分かるようになっているのかもだけど。
いや待て。調子にほいと乗ってしまうのは「僕共通」としての悪い癖だ。一息肺に空気を流し込むと、僕は先ほど公園内をぶらついていた時に為された【
――勘違いしているようだから説明しておく。トレースはただ身体に触れただけで、はい終了とはならない。『ダウンロード』の容量分、対象と接する必要がある。すなわち、密閉・密集・密接をそれなりの時間および回数こなす必要があるわけだ。『100%』に至るまで。
うぅん、初耳だったけどさらにハードルが上がったことだけは分かった。が、それでも何とか導き出したのがこの策なわけで。
<杜条 朱杏:055%
灰炉 熊燕:031%
鍾 銀鈴:019%
朋有 望月:008% >
脳内にアクセスしたところ、「ダウンロード進捗」の数値が浮かび上がった。僕はそのあたりをウインドウのように「切り取る」と、自分の視界正面少し先あたりの中空へと、ステータスオープン的に浮かび上がらせる。
杜条が半分越えしているのは、やっぱり先ほどの
いや無理から悦に入っている場合じゃない。現状把握だ。うん、「密集」はとりあえず今の状況下、為ってはいる。薄く【
<呼気を肺いっぱいにしたところでせいぜい『0.5%』行くか行かないかだ。効率が悪すぎる>
そんな不審な挙動を見かねてか、脳内でエレキのありがたくない助言が響くけれども。やはり……「直」でないとダメかぁ……
そして杜条並びに他の面子をも、この「戦い」に引き込むには、やはり言う通り「メリット」が必要なのは明らかだ。うん、多分に不可能すぎるお題かと思われたけど、そこは流石「僕」。限られた選択肢の中で、これ以上は無いと思えるほどの「策」を練り出してくれたぞ……ッ!!
「……僕に勝てたのなら、副賞としてこの『図書カード』を進呈しよう」
勿体ぶった感じで、自分の財布をジーンズのポケットから取り出し、べりりと開いて中に大事にしまっていた一枚のカードを掲げ持つ。
「はぁぁあっ?」
「なんだそれ」
「そんな千円程度で乗る思たか。アシタカはほんとにアホあるな」
三者三様に侮蔑されながらも、僕は不敵な笑みを崩さない。右隣の明日奈だけは心配そうにこちらをずっとその黒目がちな瞳で見つめていてくれるけど。心配すんな。
「こいつは一般には出回ってない特注の品……テレビ局で仕事してる親父の伝手で回って来たんだ。ま、もらったのはお年玉替わりっていう、いつもの嫌がらせ的なものであったものの」
回りくどく説明しているのも策のうちだ。「半径一メートル」以内に接近すれば、DLは始まるから。まあ「二分で1%」という低レートだけど、それでも無いよりは全然ましだ。そして注目が集まったと感じた瞬間、僕はそのカードを突きつけるように掲げ回す。
「写ってるの誰だかわかるか? そう、今をときめく当代随一の若手芸人、『
いまの中学女子でジショキン嫌いなのって多分いないはず。いたとしてホライズ先輩くらいのもんだろう。一瞬の沈黙のあと、案の定、杜条・銀鈴、そして意外に灰炉も、さらには先生まで食いついてきた手ごたえ……やはり、「僕」は冴えている……ッ!!
「ふーん、ま、そこそこの対価じゃん? いいよ、やってあげるってのその『勝負』とやらを。で? 何をするっていうの? 格闘とか? あるいは頭脳使う系? どちらにしろキミに勝ち目があるとは思えないけど」
言うてる割りには目線がちらちらカードに飛んでるな杜条……ククク、計算通り……僕は姿勢を正すと、タメを作ったのち重々しく告げていく……
「勝負する競技は……『ウインクキラー』」
そう、この発想も「僕」由来のものだ。まさに最適の、「勝負形式」を選び出したものだと自画自賛しそうになるけどそこは抑える。怪訝そうな顔をした僕以外の五人に向け、軽く説明をしとこうか。
「……この六人の中で、誰かは分からないように一人、『ウインクキラー』となる者を決める。『キラー』となった者は、『互いに目が合った時にウインクをすることが出来た相手を殺すことができる』とする。制限時間内に『キラー』が『三人』殺すことが出来たら1p、その前に『キラー』を告発し、それを当てることが出来た者には2pが与えられる、大枠だけ言うとそれだけのゲームだ。簡単だろ? 最初に5pに到達した者の勝利となる」
相手がまだ完全に把握できていないうちに勝負の場に引っ張り込む……陽動の常套手段だ。今ので【
この僕のッ、ギャンブラー魂を見せてやるぜぁッ!!
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