chrono-25:発現力は、ドリル…天元誰何★ホリィ=マクレー見参!(誰)の巻
「統括する存在」……「
こいつが……いま僕の背後にいる、余裕オーラを存分に浴びせ放ってくるこの存在こそが……
「……」
……「黒幕」、とでも言うんだろうか。僕ら……他の「三十人格」に各々争わせ、最後の最後、漁夫の利的にかっさらう……それはでも、それ相応の「力」が無きゃあ出来ないはず……だよね……でも鑑みてのこの圧倒的彼我状況……「三十一分の三十」が戻ったはずのこの僕でも、身動きすらままならない。
真っ白い大空間は、風どころか、空気の流れすら皆無に感じられていて。
広い世界に「二人だけ」、みたいな、かと言って心躍るところなど欠片も無く、ただただ居心地の悪さと、首元に突きつけられた鋭い何かにおののくような恐怖を感じている「僕」がいる。
それは必ずしも、「
……僕が認識していることが、全然「真実」とは異なっていそうな、そんな骨の髄から沸き立ってくるかのような悪寒を伴った予感に、脳みそを串刺しにされているかのような。
……僕は、誰だ。
「……『統括』したらどうなるの? ……とかって聞いても多分まともには答えてくれないだろうけど。でも聞きたい。消される前に、せめて納得してから消え去りたいよ」
自然と口をつくようにして出た言葉は、自分でも意識していなかった割には、途轍もない諦観がまぶされているかのような、そんな弱々しいものだったのだけれど。
「『来野アシタカ』になる……完全に、揺るぎのない」
背後で含み笑いをしながら答えるゼロの、その言葉を信じていいかは分からない。でも「完全な来野アシタカ」とやらが甦るのならば。分割されて事実上「喪われて」いた記憶とか、能力とかの全部が全部元通りに戻るというのなら。
これまでダメダメだった僕が、少しはまともな奴になるのであれば。そう、明日奈のように万事そつなく以上に軽々とこなせるようになったのならば。それは万々歳ってことにならないかな?
無機質に白く広がる地面に視線を落としながら、僕はでも、先ほどからずっと、いや、この人格にまつわる悶着が始まった時くらいから、妙な違和感をずっと、意識の小指みたいなところに引っかけているような、そんな座りの悪さをいつも、
いつだって感じてきていた。
「納得してくれたか? であれば『統括』に入ろう。何の不安もいらない。『僕ら』が『僕』に還るだけの……それだけのことだ。『三十一』の意識体はひとつに融合し、喪われていた能力も取り戻すことができる。今までの半分眠ったような生活から、人生から、遥か高みに飛び立つ、これは崇高なる儀式なんだよ……」
だいぶ陶酔が入ってきたけれど、ゼロの言うことは能力使ってない割には僕の心の奥を響かせてくるわけで。でも、それでも。
「……!!」
自分でも、それが「可能」と確信したわけじゃない。でも、頼れそうなのはもう、
「……トレース、終わっていたのか」
「自分以外」しか考えられなかった。両脇を左右から抱えられる感覚。左には在坂……の「トレース体」、って言ったらいいかよく分からないけど、昨日も何でか装備していた全身土感のある鎧に身を包んだ姿があり、右には、
「……アシタカには本当に世話を焼かせられるあるね」
薄い金属で出来たような、ぬめる光沢のあるミニチャイナ服を着込んだ
うん……性癖が漏れ出てるとか以前の面子構成だぁ……図らずも、その突き抜けた外観が、僕の意識に差し水を一杯投入してくれる。まあ落ち着いた。そして、
「……ゼロ、君が言ってることは全部、嘘なんだろ?」
両側から肩を貸してもらっているというしまらない体勢だけれど、それはしょうがない。僕は多分、他の誰かの力を借りなくちゃ、ダメな奴なんだろうから。そんな僕の口から放たれた言葉は何の「能力」も内包していない、ただのシンプルな言の葉だったけれど、少しは動揺させることが出来たみたいだ。
「……」
振り返った目の前に力みなく自然に立っていた、フード付きの黒マントをすっぽりと被った、僕と同じくらいの背格好の、ゼロを。心なしか、その輪郭をつかませない人影が怒りか動揺かでわずかに震えているのすら確認できた。図星……だろ?
「……目的は何かはまだ分からない。けど、僕らが統合して成ろうとしている『完全な来野アシタカ』とかいうのは……本当の僕じゃない、はずだっ」
「能力」に惑わされるな。それは便宜上、「記憶」と一緒くたにされてるに過ぎない、たぶん。自分の「内の世界」では荒唐無稽な必殺技みたいな能力だったけれど、よくよく思い出してみれば、それは現実の世界ではごくごく普通にあってもおかしくないくらいの「能力」だったはずだろ? 初っ端の、車突っ込みを躱せたのは、本当の火事場の馬鹿力、たぶん。
僕が無意識に「能力」があたかも存在して自分の意思で出している、そう振る舞っているだけだったってわけだ。何でそんなことを?
……たぶん、「記憶」を封じるために。
「『精通』で記憶が戻るとか……そこがいちばん荒唐無稽な感じがしないでもないけど、実際そうだったんだろ? ……戻したくない、頭の奥底に沈めておきたかった記憶が、三か月くらい前から、三十一の断片になって浮かび上がってきた……!! まだ完全につなぎ合わさったわけじゃないから、断片だけでは全容はつかめない。けど、いつそれらが繋がるか、繋がってしまうか……? だから君は……その『断片』を統合するとか言っておいて……別の何かに組み替えるつもりだったんだろ? 不都合な記憶を切れ切れにさせたままの、『能力』だけは戻ったかのようなニセモノの『来野アシタカ』にッ!!」
その「不都合な記憶」が何かまでは、今の僕には分からない。でも、絶対「記憶」にまつわる何かが、隠されているはず。はたして、
ハァッハッハッハ、という多分にわざとらしい高笑いがフードの陰から響き渡ってきた。それは真実を言い当てられた開き直り?
……では、無さそうだったわけで。
「騙されてる自覚はあるのに、その的外れ感は流石だよ。なるほど、だからこそ此処に至るまで担ぎ上げられていたってわけかい。呑気でいいねえ……おいファイブ、じゃあこいつメインで統合しちまってもまるで問題は無かったってわけか? そこまでとは推測至らなくてさ、もしかして余計なことをしちゃったのかい? 僕は」
ゼロの感情はまったくのフラットだ……それに今出てきた固有名詞はなんだ? 「ファイブ」? ……いったい、どういうことだよ……ッ!!
<……最適解と思われた。だからキミを欺いた。でも信じて欲しい。これがみんなのためだということを……その上で頼む。騙されたままでいてくれないかい、サーティーン……>
僕の内からは、そんな達観したかのような凪いだ言葉が。ファイブ……君も、君も、だったのか?
全身から力が抜けていくような感覚……意識が、「自分」がうまく保てなくなってる……!! 僕以外、全員が全員、僕を騙していたとか……そういうことなの? そういうことなのかよッ……!! なんでだ……ッ!!
やっぱりもう、ここまで来たらこの切り札を使うしかないような気がしていた。それで僕が、僕らが……
「不都合」な事態へ陥ってしまうとしても。
だって、僕は。その記憶のピースをたまたまかもだけれど、握りしめていたのだから。それをこれ以上無視していくことなんて、出来ないよ……僕にはもう無理だよ……ッ!!
その記憶の破片に確かに刻み込まれていた「名前」。真実の……僕の……
「……『
口に出した瞬間、僕以外の「世界」が全部、時を止めたかのように感じられた。
そして、僕以外の全部が全部、宙に舞うほどの細かな粉塵のようなものへと、
……等しく崩壊していくような感覚が僕を覆っていったわけで。
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