chrono-22:聴力は、ニードル……オーター鋭くキロ針音つかめPPストレッロ!の巻


 いや、想定外のことが想定外の方向から無音で回転しながら飛んできていて、気づいたとこにはごっすりこちらの頭蓋にぶっ刺さっていたかのような状況……閑散とした日曜昼のファミレスにそぐわないことこのうえ無しな、そして僕のみに与えられた衝撃……


 明日奈の表面上の諸々は変わってない……と思う。今がまさに「勝負」の最中だから、平常との違いという点では掴みにくいけれど。でも何でだ? 僕をキルする意図は? 


 対局が淡々と続いていく中、ちらちらと明日奈の方を窺い目と目で通じ合おうとする僕だけれど、何事も無かったような体ですかされた。やっぱりおかしい。


 そんな中、勝負はあっけなく明日奈の三キルにて終局。それはまあ良しなんだけど、この頭の中の解せない感の方が今は重要だ。でも場はみんなとりあえず凪いだままで、次局に移行していく。


 二局目、も僕は「市民」。明日奈は……ッ?


 対局開始と共に、左斜め前の妹の方へと、性急に過ぎるかもしれないけれど目線を飛ばす。さっきのは何かの間違い、あるいは何らかの策であったという一縷の望みを託して。しかし……


「……」


 首をこれでもかと思い切り右に傾け、非常に自然な、ゆえに何か根源的に恐ろしい微笑みのままこちらをガン見してきているよ何が何だかさっぱりだけど怖ろし過ぎるよ……


 いったいッ!? まさかこの五人はグルで、明日奈は僕の懐に忍ばされた間諜とでも……いうのかッ? それだとしたらおかしいよ、明日奈にメリットが無いはず。僕からジショキンのカードを取り上げたとしても、いやまずそんなこと考える奴じゃないってことは何より僕が分かってる。


 ……分かってる? 本当にそうか?


 現に今、明日奈の考えが分かってない僕がいる。そして急にこの周りの風景までもが歪んできているような気までしてきている。まさか……まさか僕はどこかの段階でまた気でも失って……いまこの瞬間は、僕の、意識のインナースペースとか、そういうことなんじゃあないのか……ッ?


「……」


 意識が定まらない。勝手にテンパってる僕の定まらない思考は置き去りにされながら、対局は続いていく……そして今回も明日奈がキラーなのか? 本当に? ……まさかとしか思えないんだけど、「プレート」に細工かなんかしてキラーの在り処が分かっているんじゃないか? うぅんもうそうとしか思えねへぇ……だとしてもなぜ? なぜ明日奈が、僕をたばかり出し抜いてまでそんなことを仕掛けなきゃいけないんだ? まあ確かに「何でこんな対決をこの面子に仕掛けるか」については僕は言葉を濁していたけれど。でもあっさり承諾して召集してくれたのは無条件で僕の言うことは聞いてくれるから、みたいなそれは、


 ……僕の驕りだったのではないか?


 でも、だとしても明日香に益が少ないのは先ほどからずっと思考を回している通りのはずだ。フル回転で脳を回している僕の周りを、この場にそぐわないぴりぴりとした空気感が覆い始めている……


 わからない……でもどうにもならない……いや待て。とりあえず明日奈の暴走を止めるべきだ。「告訴」……するか? 今? いやまだ誰もキルされていない。僕の他の面子はまったく分かってないはずだ。手が出せない。と、


 そうこうするうちに朋有先生と灰炉のふたりがほぼ同時にキルされ宣言をし、プレートを裏返していく。早い……ッ!! でもその分、隙も晒しているはず。ここが「告訴」を放り込むタイミングだ……ッ!!


 が、


 僕が挙手したと同時に告げた「告訴」の声に食い気味に被るようにして続けられてきたのは、ほかならぬ明日奈の「同意」の声だったわけで。その相変わらず少し微笑みを浮かべた顔に相対して、僕は背筋に冷たい滴を垂らされたかのような悪寒を覚える。なんなんだよ本当に明日奈……ッ!!


「……却下」


 力無く手を降ろした瞬間の僕に撃ち込まれる静かなるウインク。やられた。まったく、何も出来ないまま。


 結局、二局目も明日奈の勝利で計2p。いやそれより何よりこの不可解な状況がヤバ過ぎる。


「た、たたたタイムぅッ!!」


 よってひとまずの水入りを。五分間の休憩を認めてもらった。めいめい席を立って飲み物取りに行ったりとか携帯を片手に何事か始めたりとかし始める他の四人にはこの事態の異常性ってのは伝わってはいなさそうでそれは作戦通りっちゃあ作戦通りなんだけど、このまま平常心を保ったまま対局を回すなんてことは僕には出来そうもないから。


「……」


 あやしまれるの覚悟で、僕は明日奈に目配せをして店外に出ることにする。後ろから素直に付いてくる気配。でもなんか、油断したら鋭い得物モノで心の臓あたりを深々と貫き通されそうなのっぴきならなさを感じ、僕は次第に右手と右足、左手と左足が同時にぎくしゃくと出てしまう歩様にて、何とか外への扉を押し開け、清浄……でもなく真逆の排ガスまみれの、でも圧迫されつつあった全身が少しの開放感を覚えるほどの開けた、やや蒸してきた外気の中へとまろびでるのだけれど。


 それにしてもおかしい……おかしいぞ明日奈っ。ひょっとして僕の「変化」の真相真意に気づき始めているとか? いやでも他ならぬ僕自身がまだどんよる黒霧の中なのだけれど……


「……!!」


 双子、だからか? トレース、したからか?


 僕よりも、逆に僕自身のことが「分かられた」? そんな可能性……そんなことが……いや、あったり……するの? それとも明日奈は元から全部知っている? 分かっていた?


 外階段の横に設えられた空席待つ人用の椅子の背もたれ辺りに自然と目をやり俯きながら、明日奈は何か僕の出方を待っているような雰囲気だ……こんな「間」、今まであったか? おにいちゃんおにいちゃんって僕が返答を挟む間も無く矢継ぎ早にいろいろどうでもいいことを話し連ねてくるのがいつもじゃなかったっけ? おかしいよ完璧に。


<どうしたんだい、脈拍が尋常じゃないくらい高まっているよサーティーン? アスナの今の行動原理、みたいなのを【分析】でもしてみようかい……?>


 顔引きつりまくりで言葉も出ない僕を見かねてか、脳の内側でいつも落ち着いているファイブがこれまたいつも通り落ち着いた助言と策を授けてくれるけど。どうなんだ……?


 明日奈が、僕の「すべて」を、既に知り得ているのなら。


 その上で、何かを試そうとか、考えていたとしたのなら。


 そうだよ落ち着け僕……逆に考えるんだ。明日奈はじゃあそれを全部飲み込めてるってことになるよね? それでこの態度だとしたら……その「すべて」ってやつは、意外も意外、


 ……実は大したことは無いものなんじゃないか?


「……」


 急速に落ち着いてきた。そしてこの僕、僕らが四苦八苦しているサマ、ザマが急に些末なことに思えてきた。そうだよね、そんな途轍もないことが一介の中学生の身に起こるはずなんかなかったわけだよ、よーしよーし。


「僕の記憶について知」

「これ」


 僕が意気込んで訊ねようとしたその矢先、温度の無い言葉と共に突き出されたかわいらしい花の装飾が施されたスマホの画面に映し出されていたものは、


 ああーこれ昨日、在坂にあげたレジンのチャームじゃあないかスプリットチェンジの図案の、ねえ? ううん……そんな呑気なことを考えていた表層の「僕」の内側では凄まじい速度の計算が始まってそして終わっていたようで。


<アスナハ自分ノタメダケニ作ラレタト思ッテイタ『チャーム』ガ、実ハ『ニコイチ』ダッタコトヲ先ホド知リ、サラニ当ノ在坂カラチョットマイッチマッタヨ的ナ体デコレ見ヨガシニ写真付キデ自慢サレテキタコトニ対シ、今マデノ彼女ノ人生ニ無カッタホドノ、カツテナイ憤リヲ覚エテイル確率……97.5%>


 なんでそんなに片言なのかは分からないけど、示されてきた情報の端々から漂ってくるのっぴきのならなさ加減だけは脊髄で理解を終えていた。そして恐る恐る目線を上げた僕の網膜に刺し入ってくるのは、見たこともなかったような満面の笑顔の明日奈であったわけで。


 あ、あらぁ~ん? そ、そこぉ? そこは御免、ちょっと分からなかったよ僕がいけないの?


 ち、ちがうんだよ、と、何がどう違うのかも分からないままにそう口走ろうとした僕だったけど刹那、


「……いッ……!?」


 前も感じた、脳みそを包丁でざくりいかれるような感覚が、右、遅れて左、と連発で襲ってきたのであった……


 突然すぎて、まともな反応・対応なんて出来なかった。さらにまずかったことには、僕は外階段への降り口に背中を向けて立っていたわけで。


 おにいちゃんッ!! と真顔に戻った明日奈の声が響く中、後ろにくずおれるようにして倒れ込んだ僕は、そのまま後頭部にゴッというような衝撃を感じたと思った瞬間にはさくりと意識を失

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