chrono-23:統率力は、ファラオ!いざ集え三十一字の旗の元!(川柳?)の巻
――おにいちゃんっ……!!
こえが、きこえる――
――たかくんっ……
僕はまた……後頭部を強打して……っ……
不思議と痛みは無かった。それどころか、ぞわぞわとした快感みたいな奇妙な感覚が、頭の後ろから前方へ向かって、這い進むかのように染みて、広がってくるかのような……
この「脳の痛み」。もう前触れも何も無く襲ってくるようになったな……そして今回はさらに頭打って気絶と。もうなんか「僕」の他の誰かがこの身体を裏から操ってやってんじゃないのほどに非常に流れ作業的にさらには小気味よく。
「……!!」
引きずり込まれてんだろうことはもう予期していた。インナースペース「ロビー」。僕の人格が集まる場所。意識の表層、みたいなところ。でも今回はいつもの宇宙空間的なノリの無重力の大空間とは少し趣きが異なっていた。
「目覚めた」僕の身体は仰向けに「青空」を仰いでいる格好。黄白く輝く南中しかけの太陽光線の直射に、瞼を開いた僕は反射的にまた閉じて首を左横によじる。その視界に入ったのは、右半分が「気体の青」、左半分が「液体の青」、みたいなツートンカラー。
海上……? 海面はほど近くに迫っていて、そのうねる流れとか、潮の香りまでご丁寧に僕の身体全体を包むように漂ってきている。でも浮いてるよね僕の身体。特に能力を使った実感は無いのに、さも当然のように浮いている。身に着けているのはいつもの紫ラメタイツだけど。ま、そのこともこれが意識内、ってことを確実にさせてくれるのでいいのだけれど。と、
「……随分、こざかしい立ち回りをしてくれてたじゃあないか……まあまあ、であればこその隙も出来るというわけで、あっさり『ここ』へと誘えたとも言える」
水面ちょっと上、飛沫がかかりそうなくらいの中空に何故か浮いて仰臥している僕の足方向から、そのような「僕」然とした声が、周りの波音には決してかき消されないという非現実的な響きをもってして、僕の耳……というか「意識そのもの」に語りかけてきやがった。やっぱりか。
「『誰』……だ?」
その声の主を探ろうと声を発しながらも、宙に浮いたまま腹筋をするようにとりあえず上体を起こしにかかる僕だけれど、まるで夢の中でままならない動作にやきもきする時みたいに身体の節々がうまく動いてくれない。ブレる視界の中で何とか捉えたのは、僕と同じように海面すれすれに何事もなく「浮き」ながら、腕組みをしてこちらを睥睨してくる「僕」の姿。
「……もう『誰』ってこともないな。しいて言うなら『お前以外のお前』全部だ。『根幹七割』は除いての、な」
その「僕」は無地の、乳白色に見える大仰なマントらしき物を全身に纏わせていた。コスプレ感ハンパないけど、他ならぬ自分がやっているのを目の当たりにさせられると、すごいこちらを冷静にさせられてくるねぇ。いやいや、気を抜かしている場合じゃない。でもさぁ……何で僕の他の「僕」はこうまで喋り口が全然違うの。いやいやそれより「全部」? あと「二陣営」いたんじゃあなかったっけ。
「……ほぼ半数の人格を統合しているキサマに対抗するために不本意ながら同盟を結んだ……元々、求めるところはそれほど異なっていたというわけでもないしな。『いま表層』のオレは【
まるで僕の思考を読んでいるかのような……それが「洞察」の力とでもいうのだろうか……分からないけど、でも言う通り「人格数」は互角なんだろう。そして真っ向から戦おうってことなんだろうね、先ほどまでのトレース求めて四苦八苦していたことは残念ながら無に帰しそうだけれど、そこはもう諦めるしかない。そして能力残弾数は確かあと「10発」といささか心もとないけれど、それもしょうがない。それにしても足元でせわしなく渦巻く海面とは対照的に「シャドー」のメンタルはすごい凪いでいるね。十メートルくらい先に佇んでいるその姿と、ようやく体勢を整えて「立ち」の姿勢に移行できた僕は向かい合うけれど。その、僕と瓜二つの(当たり前か)顔には、何というか諦観、みたいな色が現れているような気もした。
「……結局、『ひとつ』になるなら、ひとりの『来野アシタカ』に統合されるんだったら、こうまで争う必要は無いんじゃないかって、思い始めてもきたんだけど」
シャドーにそう言い放ちつつ、僕の内面に存在するファイブたちにも問いかけているような感じで僕は言葉を紡ぎ出す。なんか、ずっと引っかかってるんだよねその辺……穏便に済ませられるのならそうした方が全然いいんじゃないの? 争いからは何も生まれないってよく言われていることでもあるし……
「……」
ダメだ。なんか最近意識が定まらないようなことが多くなってる。意識の中でのことだけれど、僕は殊更に深く、呼吸をしてみる。落ち着け。
「『来野アシタカ』……ね。なるほど、よくそこへ誘導したもんだ、首謀は誰だよ? なんならこっちと話し合いで決着できるんじゃね?」
僕の持ち掛けを、まるで無かったかのようにスルーされた。そして顔を嫌な感じで歪ませたシャドーが、おそらく「僕」ではない誰かにそう持ち掛けているけれど、言ってる意味はよく分からない。
分かるのは、
「……!!」
次の瞬間、僕は宙を蹴って間合いを詰めていた。分かっていることは……ッ!!
「とか言って話し合いで済ませる気はさらさらない……よね? 思惑とかとりあえず置いといて、とりあえず屠るッ!!」
ま、だいぶ僕もイキれた精神スタンスになっているわけだけれど。
「いいねえそういう前向き姿勢……ッ!! いやいやむしろ『そっち方面』に行ってもやりきれんじゃね? ま、ま、そうは簡単にはさせないけど、なッ!!」
何を言ってるか皆目分からなくなってきたシャドーの眼前に、初手安定の【
「【
身に着けた全身タイツの色が渋い灰色に変わるのを視界の隅で視認しながら、僕はここの場では初めての能力を発現させる。僕のかざした両手から迸ったまさにの稲光のような
「……【
さっ、と右手を軽く振ったかと見えた瞬間、その先に「棒」のようなものが突如現れ、そこに「電流」が吸い付くように引き寄せられてしまう。
なるほど、一筋縄ではやっぱり行かないね。でももうやるしかない。降ってわいたかのような突然の「最終決戦」。でもそれを予期していなかったと言ったら嘘になる。
自分の中で渦巻くどうしようもないほどの感情のうねりを何とか抑えながら、僕はひとまず目の前の局面に意識のピントを合わせていく。
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