第28話 死の吹雪

 凍てつく寒さに体を震わせながら、俺たちは一歩一歩前へ進んでいく。

行手を阻むかの様に、冷たく鋭い吹雪が吹き荒れる。吐く息はパラパラと凍り、細かい結晶となって砕けちる。

シルエの魔法で身を守られていなければ、一瞬のうちに凍死しているだろう。段々と吹雪は激しさを増し、もはや別世界にいる感覚だ。

右側の足元には、底が見えない深い谷が広がっている。


「ディアス君大丈夫ー?」


ルミエが振り返り、俺に声を投げる。


「はい! なんとか」


俺も声を返すも、吹雪の音にかき消される。

ルミエは俺の様子を見て、大丈夫と判断したのか、小さく頷くと再び前を向いて進んでいく。


「ディアス様無理はしないでくださいね」


俺のすぐ前を歩くシルエも俺に声をかける。


「ええ。シルエもですよ」


シルエもルミエも、キリザント山脈は未体験のはずだが、経験値というやつだろうか。

気負いせずに、力強く歩いていく。

歩くたびに、足元に雪が纏わりつく。

一歩足を出すのが重い。

俺は正直着いていくのがやっとの状態だ。


キリザント山脈の環境は思ったより過酷だった。草一本も生えることのない雪の世界。

あるのは積もり積もった白い雪と、この環境に適した魔獣くらいだろう。


しばらく進むとルミエが足を止める。


「ストップ! 何か来る」


ルミエとシルエは少し腰を屈めて身構える。

2人は聞き耳を立てて、お互い顔を見合わせる。

「お姉ちゃん、この音って……」


「ええ、まさか……」


俺も聞き耳を立てるが、ただひたすら吹雪の音が響いてらだけに思う。

2人は僅かだが、向こうからきている何かの存在を認識している様だ。


「アイスブレードです! ディアス様、ルミエ避けてっ!」


次の瞬間、強烈な吹雪と共に鋭い氷柱の様なものが何本も飛んできた。


「うわっ!」


「くっ!」


俺たちは重たい体をなんとか動かして交わす。

何本か飛んでくる氷柱を避けた後、ズボッと雪に足を取られて体制を崩す。

そして、俺目掛けて次なる氷柱が迫る。


「しまっ……」


「ディアス君っ!」


ガッと横からルミエに押され、なんとか氷柱を回避する。


「ディアス様! ルミエ!」


シルエが重なって倒れている俺たちの元へと駆け寄ってくる。


「っ……。大丈夫? ディアスくん」


「ええ、ありがとございます。ルミエこそっ?」


ルミエの肩は赤く染まっていた。


「ルミエ……」


「アハハッ、大丈夫大丈夫」


「ルミエ、今ヒールを」


「うん、ありがとお姉ちゃん」


シルエはルミエの傷口に手を当てて、詠唱する。


「シルエ今のは?」


「アイスブレードです。吹雪と共に氷柱が飛んでくる現象です。数多くの冒険者が命を落としています」


恐ろしい現象だ。

確か生前の世界でもそんな現象があったと思うが、その名前を思い出せない。


魔法がある世界だろうが、ない世界だろうが、過酷な自然現象には苦しめられる様だ。


思えば呼吸も思うようにできない。

俺たちが今いる場所は、いわゆる【デスゾーン】に位置しているのだろう。

生前ならば既に死んでいるだろう。酸素濃度が最も薄く、過酷な環境である。


「よし、先に進もう。ありがとお姉ちゃん」


「ルミエすみません。俺のせいで……」


「気にしないで。私がしたくてしたことだから」


ルミエは俺に笑みを返すと、再び歩き出す。

俺とシルエは顔を見合わせルミエの後に続いた。








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