第10話 潜んでいる者
-----今から5分程遡る。
俺はシルエと一通り話し終えたあと、こちらに躊躇なく向けてくる殺意に恐怖した。
そう。シルエがするどい視線を向けた彼女に。
シルエから話を聞いていくうちに、なぜ俺をこんなところまで連れてきたのか、だんだんと理解した。
話を聞く限り、俺が魔力回路を開かない内に狂魔族に殺されることは確実だった。
ならば、早く魔力回路を開いてしまえばいい。
シルエは口では言わなかったものの、そう言いたげな様子だった。
そして、それをサロスやヘラに話す時間がなかったということだろう。だから彼女は独断で俺をここまで連れ出した。
いつ魔力回路を開こうが、どちらにせよ何かしら体に影響がでるのだ。
どうせ殺されるのなら、抵抗できる手段の一つとして、早いとこ魔力を得てしまうのが得策だ。
そしてこの際だ。
シルエはちょっとした「餌」を撒いて狂魔族の正体を突き止めようとした。
自身の一本の髪の毛と、俺の足跡を残してここまでやってきた。
もちろん、俺はシルエがそんなことを考えているとは知らず、何も意識することなくここに連れられてきたのだが。
俺の自然な行動もトラップとして利用するとはやはりシルエは策士である。
そして、俺がまだまだ未熟だということでもある。
ここら辺は複雑だ。
魔導書を俺が持ちだしたタイミングに合わせて、シルエも六巻目の魔導書を持ち出すことで、俺とシルエが新樹へ向かっているということを潜んでいる狂魔族に伝える。
これらの情報だけで、潜んでいる狂魔族は俺たちが何をしようとしているのかに気づく。
もし、狂魔族ではない家族の内の誰かがここに来れば事実を話せば良いだけだ。
俺は最初こそシルエが狂魔族なのではないかという考えが頭を過ったが、すぐにシルエではないことは確信した。その理由は至ってシンプルで、そもそもこの事実をわざわざ俺に話す必要がないということだった。
もし仮にシルエが狂魔族で、六巻目の魔導書の内容を知ったのなら、俺をここに誘いだしたと同時に殺してしまえばよい。
俺とシルエがいない時間が長ければ長いほど、ヘラとサロスとフィアは違和感を感じて、すぐにこの場所へ辿り着くだろう。そうなれば、シルエ1人でヘラやサロスに勝てるとも思えないし、自分の立場が危うくなるだけだ。
ベラベラと俺に話すのではなく、早めに殺してしまうのが賢い判断だ。
そして俺を殺した後は姿を眩まし、全狂魔族で龍族を攻める機会を待てば良い。
それをしない時点で、シルエは白の可能性が高かった。
俺に身の危険を知らせ、ついでに狂魔族本人も誘いだす。それがシルエの目的だったということだ。
そしてシルエの狙い通りに狂魔族である
だから、シルエは言った。
「思ったより気づかれるのが早かった」と。
長年俺たちの側に潜んでいたんだ。相当の手だれと分かっていたし、そいつの
よりにもよって、索敵能力に優れているフィアが狂魔族だったからだ。
おそらく神樹に着いたあと、術を使って俺たちの位置を正確に割り出し、迷うことなくここまで来たのだろう。
シルエは俺の魔力回路をさっさと開いてしまいたかったはずだ。
そして
少し油断をしていたシルエは、その僅かな隙を突かれて片腕を失ってしまい、俺に正体がまだバレていないと思った
そう、
秘密を知られたからには排除する。
そしてその後俺を殺して姿を眩まし、龍族を殲滅するその時まで待つ。
それが、
だから俺の言葉に全く耳を傾けなかったし、躊躇なく攻撃した。
俺は正直ビビった。
もう、ビビりまくってしょんべん漏らすかと思った。
だが、ここでシルエが殺させれたらその矛先は俺に向かう。それに、こんな危険な賭けを自分の命も顧みずにシルエはしてくれた。そんな彼女を絶対に死なせたくなかった。
なんとかしてフィアの意識をこちらに向けさせたい。
そして、俺がだした結論はこれしかなかった。
魔力回路を開く。
ここは千樹石洞窟。
俺が魔力を発動できる条件は年齢以外は全て揃っている。
禁忌なんて知ったことか!
そう決心し、俺は魔導書の一巻があるポーチのもとまで走ると、それを手にして詠唱を始めた。
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