第14話 衝突
--千樹石洞窟
「あら、サロス。やっぱり来たのね」
リリアはサロスがここに来るのをあらかじめ予想していたかの様に、サロスに向かって話す。
「まぁ何かが起こるとは思っていたからね」
「それにしてもひどいんじゃない?いきなり突き飛ばすなんて。レディの対応がなってないわ」
「こっそりと潜んで、暗殺しようとしていた君に言われたくないなぁ」
「まぁいいわ。どうせあなたも死ぬんだしね」
その言葉を聞いたサロスはピクリと眉を動かした。
「だれが死ぬって?」
俺は目を疑った。リリアから10メートルほどは距離があったサロスだが、俺が瞬きする瞬間にリリアの後ろに周り、彼女の首に人差し指を突き立てていた。
「あら怖い。相変わらず化け物じみた速さね」
「君こそ相変わらず油断も隙もないね」
みるとサロスの後ろには、おそらくリリアが展開した魔法であろう。無数の尖った木の枝が、しっかりとサロスの首元に突き立てられている。
もはや次元が違いすぎる戦いに、俺は武者振るいの様な震えを感じる。
「ディアス動けるかい?彼女のことは僕に任せて、シルエを頼む」
「あ、はい!父さん」
サロスから声をかけられ、俺は痛みで足を引きずりながらも、シルエの元へと向かう。
屍はシルエの周りからすでに散っており、サロスがリリアの元へ移動した時にやられたのだろうか?
すでに全滅させられていた。
恐ろしい早技だ。
俺はシルエを守っていた羽衣の魔法を解除し羽衣を身に纏う。
「ディアス様! 今ヒールを」
「いや、俺は大丈夫です。それよりシルエ、腕はまだ痛みますか?」
「え、ええ。まだ少し。
ですが、もう山場は越しました。
激しく動くと傷口が開きそうですが」
とりあえず死ぬ心配はなさそうだった。
サロスも来てくれたことだし、なんとかなりそうだ。
ひとまず俺は胸を撫で下ろす。
「すみませんシルエ。俺のためにこんな……」
「いえ、私が勝手な行動をしたばかりに、ディアス様を危険な目に合わせてしまったわけですから……」
シルエは耳を垂れ、今までにないくらいか弱い声で申し訳なさそうに俺に言う。
「シルエ。それは本当に気にしないでください。どちらにせよ、俺は殺されていたかもしれないんですし。シルエには感謝しかないです! それに今は自分の状態を心配してください!」
「ディアス様……。ところで、さっきリリアとは何を話されていたんですか? 全く聞いたことのない言葉でしたが……。いつの間にあんな言葉をディアス様は覚えたんでしょうか?」
俺は胸を突き刺されたような感覚を覚えた。
まさか、今頃生前生きていた世界を思い出すことになろうとは。俺は少しはにかみながらも、
「あ、あー、えーっと、あれは狂魔族本来が使っている言語らしくて? そう、前にサロスから教えてもらったんですよ!」
俺はサロスを利用して、根も葉もない嘘を並べて誤魔化す。
いずれ話すことになるかもしれないが、今ここで話すことではない気がした。
シルエに嘘をつくのは気が引けたが。
シルエは「へぇそうなんですか」と素直に納得してくれた様子だ。
俺はホッとため息を漏らすと、再びサロスとリリアの方に視線を向ける。
2人はお互い距離を取り膠着状態だったが、やがで激しい戦闘が展開された。
サロスもリリアも速かった。
目で追いかけるのがやっとだ。あの場にいたら1分も持ちそうにない。
サロスは地面から湧いて出てくる屍を、目にも止まらぬ速さで次々と粉砕していく。
「龍波!」と叫んだサロスの手から衝撃波の様なものが繰り出され、サロスの目の前にいた屍は壁に叩き付けられて粉々になった。
リリアはその衝撃を避けると、洞窟の天井を足場に、そのままサロスへ迫っていく。
「
彼女がそう唱えると同時に、幾つものカマイタチが空を裂きサロスを襲う。
サロスはそれら全てを手にしている剣で弾き返し、そのまま剣を振りかざす。
空振りで生じた衝撃がそのまま大気を切り裂き、なんと飛ぶ斬撃となってリリアの元へ放たれた。
「チッ!」
リリアは洞窟の壁を蹴って素早く地面に着地すると、その斬撃を華麗にかわす。
その斬撃はリリアが放った風魔法と同様の威力を誇っており、洞窟の天井を凄まじい勢いで削り取りながら、後方の壁に衝突すると深い溝を作った。
物理的にカマイタチを作るなんて反則だろ。
俺はその光景を前にしてそう思ったが、相手も相手で反則級の強さだ。
どっちもどっちか。
「さすがね。飛ぶ斬撃なんて扱えるのは龍族でもあなたぐらいでしょうね」
「そいつはどうも」
サロスは剣をリリアに構える。
「はぁ。やっぱりあなたとは分が悪いわ。
今回はあなたの顔に免じて引き下がってあげる。でも良い? 諦めたわけじゃないし、必ずあなたをこの手でぐちゃぐちゃに引き裂いてあげるわ……。もちろん、あなたの息子もそこの猫娘もね」
「随分と素直だね。まぁ、僕もただやられるわけにはいかないからね。その時は返り討ちにしてあげるよ」
サロスとリリアはお互い笑みを浮かべながらも、割と物騒な会話をしている。
強者故の余裕というやつだろうか。
「ところで、
「まぁ返してもいいけど、返したところでこの子の意識はもう戻らないわ。私といた方が有益じゃないかしら? フフ」
「そうか……。もし返してくれるなら見逃してやっても良かったんだけどね……前言撤回だリリア」
「はっ?」
次の瞬間、サロスの体からマナが溢れ出し、赤色のオーラが彼を包んだ。
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