第15話 サロスの力
サロスは何やら印を手で結ぶと、そのまま片手を額に当てて目を閉じる。
すると次の瞬間、サロスの体から魔力が溢れ出し、すぐさまそれは可視化できるオーラーとなってサロスを包んだ。
「くっ、あなた、まさかっ!」
俺は恐怖にも近い、膨大な魔力量のプレッシャーに気負わされながらもサロスの方をみる。
洞窟の魔石も、サロスの力に反応するかの様に輝き始める。
やがて洞窟全体が震え出し、大きな地響きが起こりはじめた。
これもサロスの影響だろうか。
リリアよりこっちの方が化け物だろ。
そう思いながらも、俺は隣にいるシルエをしっかりと抱き寄せて、崩れてくる大小の岩や砂利から彼女を守る。
「ッ……ディアス様ッ」
「すみませんシルエ。しばらくの間、我慢してください」
「はい……!」
何故かシルエは顔を赤らめている。
別に何一つ照れることではないだろうに。
もちろんやましいこともありません。
サロスの方に再び目をやった俺は、サロスの変化に驚愕した。
サロスの周りには、赤いオーラーの様なものがはっきりと浮かび上がり、サロスの体を包んでいる。額には赤く光る文様のようなものが浮かび上がり、目つきも若干鋭くなっただろうか。
「父さん……?」
「あれは龍神の力です」
ふとシルエが口にする。
「龍神……?」
なんだ?聞いたことないぞ。
魔導書にも載ってなかったワードに俺は耳を傾ける。
「はい。龍族の中でも優れた血を受け継ぐ者だけが可能な、強化形態といったところです。
身体能力の向上はもちろん、祖である竜王の力を一部発揮できるようになります。
そのためか、少し好戦的にもなるんですけど。サロス様のを見るのはこれで2回目ですが、相変わらずの魔力です……」
「え、見たことあるんですか?」
「あ、はい。ダンジョンで助けてもらった時に」
マジかよ。
ダンジョンってあんなモードになんねえとダメなくらい危険なところなのか。
てゆうか、なんだその強化形態は。
ドラ◯◯◯ールかよ!
軽く突っ込みながらも、今目の当たりにしている光景にゴクリと唾を飲み込む。
「ちょっと……それは反則じゃない? サロス……」
さすがのリリアも少しビビっている様子だ。
サロスは表情ひとつ変えず、リリアに静かに言う。
「いったろ? フィアは返してもらうと。
君には悪いが消えてもらうよ」
おいおい、なんかどっちが悪役か分からねえ物騒な発言してるけど、いいのかおとん!?
サロスの威圧的で物騒な言動に少し引きながらも俺は本能的に理解する。
リリアは負けると。
サロスはフッと笑みを浮かべ、一歩足を前に踏み出した。ゾワッと大気全体がサロスの動きに萎縮しているかのように震え出す。次の瞬間、サロスはリリアの正面に瞬間移動した。
「ッ!?」
リリアもこれには先程の様に反応できなかった様だ。
一呼吸遅れて、サロスから距離を取ろうと後ろに跳躍しようとする。
だが、サロスはその隙を逃すことなく
「龍波」と一言発した。
ドンッ!!!
激しい衝撃音で耳がキーンとなる。
先ほどよりも大きな衝撃波がリリアを襲い、リリアは、そのまま勢いよく洞窟の壁をぶち抜いて、別の空間へと弾き出された。
「ぐっ! がっ……」
「ここまでするのは気が引けるけどね。
ところで、さっき引き剥がしたフィアの皮は、表面的な部分にすぎないんだろう?」
サロスは何なら意味深なことを口にする。
「フィア本来の体は君の体と融合しているんだろう?
さっき少し手合わせして分かったよ。
君の体の中にもう一つの別の存在を感じた。
君は、本来なら殺して奪うべきのフィアの体を、半殺しの状態にして乗っ取っている状態なんじゃないかい?」
「!?」
その言葉にリリアはピクっと反応したが、それは俺とシルエも同じことだった。
「チッ、ペラペラとおしゃべりな男ね……」
「なぁに君ほどじゃないさ。
まぁどちらにせよ、君自身は僕が消滅させるよ」
そして、サロスは詠唱を唱え出す。
「我が内に潜む龍の意思よ。我と共鳴し、己なる真の姿を具現化させよ」
ここまで唱えた瞬間、サロスのオーラーが変化し、一つの巨大な龍の姿となった。
「ひっ!」
リリアは恐怖に顔を引きつらせたが、次の瞬間地面からこれまでにない大量の屍をサロスの周りに出現させ、それらの屍は赤く膨らみはじめた。
自爆だ。
そして有無も言わず間も無く、何十体もの屍が一斉に爆発し、サロスを爆炎と爆風で包みこんだ。
『父さん!
サロスさま!』
俺は竜の羽衣を再び展開して身を守りながらも、サロスの名を叫ぶ。
煙が晴れ、ようやく視界がはっきりすると、燃え盛る炎のなか1人サロスが立っていた。
だが、リリアの姿はそこにはなく、どうやら屍を盾にして逃げたらしい。
「あー、上手く逃げられたね。
それにしても屍を自爆させるなんて、便利な魔法だ」
実に呑気な事をいいがら、サロスは龍神と呼ばれる形態を解いた。その瞬間洞窟に満ち満ちていたプレッシャーの様なものは消え、シルエも俺も肩の力を抜いた。
それにしても、あの爆発に耐えるとは……。サロスも大概の化け物だと確信した瞬間でもあった。
サロスはこちらに歩いてくると、俺の手を引っ張って引き起こした。
「シルエ、ディアスを守ってくれてありがとう。ただ少し危なかったね」
「申し訳ありません……」
「まぁ良い。とりあえず帰ろう。色々と君達には話したいこともあるしね」
サロスは少し冷たいトーンで俺たちに言葉を投げ、洞窟の外へと歩いていく。
「シルエ、立てますか?」
「ええ、なんとか」
「よかった。あ、俺の背中に乗ってください」
「え……いえっそんなことは!
大丈夫ですっ! 1人で歩けますっっ!」
偉く動揺しながらも、シルエは慌てて立ち上がりそそくさと歩き始めた。
もう、体はだいぶマシになったのだろう。
断られたのは少し残念な気はしたが。
それでも、シルエは少しふらついていたので、俺は彼女の肩を支えながら家へと向かった。
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