第13話 この世界の異端者

「リリア、あなたの目的は一体?」


俺は心を落ち着かせ、リリアに話しかける。


「もうとっくにご存知なのでしょう?

龍族の殲滅ですよ」


「何故わざわざ敵対しなければいけないんですか!」


「フフ、愚問ね。

今までの歴史上、これまで龍族とは敵対していたのよ。

お互いこの世の異端者を生む存在としてね」


「この世の異端者を生む存在?」


「ええ、正しくは


その言葉は、まさに俺のことを指しているかの様にみえた。


どうゆうことだ?


龍族、狂魔族ってのはみんな転生者ってことなのか?


『豪に入れば郷に従え』


リリアがそう言い放った。


その言葉を聞いた瞬間、俺はハッと顔を上げる。その言葉、何よりその言語は俺が生前聞いたことのあるものだった。


「まさかあなたは……」


リリアは薄ら笑いを浮かべる。


「ディアス様、今の言葉は一体?」


どうやらシルエには理解できていないらしい。


『あなたはこの世界の住人ではない。

別の魂を持ってこの世界に転生した。

そうなんでしょう?』


ッ!!


彼女が放ったその言葉は、俺が馴染みのある日本語そのものだった。


『なんであなたがその言葉を……』


『まぁ、お楽しみは取っておきましょう。

直にあなたにもわかるわ。

いいわ、あなたは生かしておいてあげる。このまま殺したところで、楽しみが減るのも惜しいしね。ただ、その後ろの猫娘は殺させてもらうわ』


『くっ、何がなんだかわけわからないけど……。けど、それで、はいそーですかってなるとでも思いますか?』


俺は血の気が引いていくのを感じながらも、リリアに言う。


『あなたにとってはどうでも良いことでしょう? 異世界の住人のことなど。それより、私と手を組まない? こちら側にきなさい。そうすれば、あなたが知りたいことはなんでも教えてあげるわよ』


『断ります! 俺はもうあの世界では死んでいるわけですし。それに、この世界でここまで成長してこれたのはシルエ達が支えてくれたからです。そんな見殺しになんて誰ができますか!』


『あら、そう? 残念ね。なら大人しく死んでしまいなさい。無限の屍アペイロン・プティマ!』


リリアが呪文を唱える。

すると、ムクッと地面が盛り上がり、地中から無数のゾンビの様な骸骨が現れてこちらに向かって攻撃してきた。


「これは、死者使役!? ディアス様ここは逃げてください……」


「シルエを置いて逃げれると思いますか?

任せてください。なんとかしてみせます」


とはいっても、この数を相手にするのはシルエを守りながらではキツい。おそらく一体一体は大したことはないだろう。

俺は咄嗟に自分の服を目にし、これだ! と思い詠唱を唱えた。


「龍神の羽衣よ、己を守る盾となれ。竜の盾ドラコーン・アスピダ!」

次の瞬間、俺の着ている衣が輝き、それが広がって光の壁となった。


「ディアス様……これは……」


「あ、ええ。サロス……じゃなくて、父さんが前に俺にくれたものです。僕たちの一族は皆んなもっているんだよってくれたんですけど、まさか龍族のものだったなんて。俺たちの魔力に反応して、盾を展開してくれる魔法具らしいです」


その光の壁は、俺とシルエを包み込み外敵を寄せ付けない。だが、いつまでもこうしている訳にはいかない。


「シルエ、ここで待っていてくれますか?

俺はリリア本人を叩きにいきます」


「ええ、でもどうか無理はしないでください」


「はい」


 俺は魔力を足に集めるイメージをし、一気に地面を蹴った。

そして目の前に立ち塞がる、無数の屍をサロスから教わった体術で、組み倒してリリアに近づいていく。

ちらっとシルエの方をみると、屍は俺の方へと意識が向いてこちらに向かってきている。


よし、いける!


そして、リリア目掛けて高く跳躍すると同時に詠唱を唱える。


「火のマナよ、己の内なる魔力を燃やし、あらゆる敵を焼き尽くせ! 豪火火炎弾フレイム・ボール


 火の上級魔法だ。

手のひらから放たれた炎の玉はリリア目掛けて命中し、勢いよく爆発する。

俺はそのままリリア目掛けて突っ込み、追い討ちをかけようと、次の詠唱を始めようとした。

だが次の瞬間、炎の中から体を燃やしながらも、数体の屍が俺目掛けて現れ、そのまま俺を捕まえて壁に叩きつける。


「っ!?」


「ディアス様っ!」


シルエが叫ぶ。


「フフ、魔力が使えるようになったとはいえ、所詮こんなもんね」


俺は体を押さえつけている屍をなんとか引き剥がし、リリアの方へと向き直る。

彼女は炎の海の中、屍を盾にして、なにくわぬ顔でこちらをみて笑みを浮かべた。


チッ、大して効いちゃいねえ。


どうやら、俺の魔法ではリリアにダメージは与えられないらしい。そうなれば、体術しかない!

俺は勢いよく地面を蹴り、リリアの前まで移動すると、そのまま魔力を足にこめて蹴りを放った。だが、いとも簡単に素手で受け流される。


「このっ!」


続けて拳を握りしめリリアに放つが、それも難なく受け流される。


「足元がおるすですよ」


リリアに足元を払われ、体制を崩す。

そしてリリアの手が俺の胸に触れ、「斬波」とリリアが唱えた。

俺は後ろへと再び飛ばされて、ドコンッと鈍い音を上げながら壁に叩きつけられる。


「ぐっ、痛っ……」


「空波」


ドォン!


俺目掛けて真空の衝撃が迫り、そのまま壁ごと粉砕される。勢いよく土埃が舞い、俺は壁にめり込んだ。


「ディアス様っっ!!」


シルエが顔を青ざめさせて、俺の名前を呼ぶ。


くそっ、マジかよ。勝てそうと思ったのに。


息が上がる。体が熱い。痛みで今にも意識は飛びそうだ。魔力を解放して成長していなかったら、今頃あの世行きだっただろう。

この強さは、たとえシルエが万全でも敵うか分からない。

最初は勝てる自信はあった。

だが、それはフィアの姿をしていた時だった。

本来の姿になった彼女は、魔力量も体術も以前とは比べ物にならない程、強力になっていた。


どうすれば良い?


絶望的な状況だが、なんとかしてシルエだけでも助けたい。すると、次の瞬間「ぐっ!」とリリアが壁に勢いよく飛ばされた。


??


俺はその衝撃波が放たれた方向に目を向ける。もちろんシルエもだ。


「やれやれ、やはりそうなったか。

2人ともまだ生きてるかい?」


その聞き覚えのある声は、とても力強く安心感にあふれていた。

俺は、赤いロングコートを羽織り、背中には一本の剣を持ち、腰まである結んだ髪の毛を靡かせてこちらに歩いてくる男の名を口にした。


「サロス!」


「やぁ、ディアス。あれ? 随分と姿が変わったね。しかも名前呼びかい」


サロスは全てを見通しているかの様な眼差しでこちらへと歩いてくると、睨みつけているリリアに向けて言葉を放った。


「やぁ、久しぶりだねリリア……と言うのもおかしいか。今までずっと一緒にはいたしね。でも、まさか君だったとはね。

……僕が何を言いたいかは分かるね?

フィアは返してもらうよ」


優しい口調でリリアに話しかけたサロスのその表情は、俺が今まで見たことない程の殺意を発していた。











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