たとえ世界が立ち塞がっても、俺はあなたと約束を交わす  -転生したらもう一度!この世界で-

センセン

転生・運命編

第1話 プロローグ

  目が覚める。 

 

 

 どうやら気持ち良すぎて昼寝をしてしまっていた様だ。

俺は一人、とある街中にある自然豊かな公園の芝生に仰向けで寝転んでいる。


木々の間から降り注ぐ、日の光が眩しい。

生前は鬱陶しいとさえ思っていた太陽の光が、これ程居心地良く感じるようになるとは思ってもいなかった。

風が吹き抜ける度に、周りの木々が呼吸する様に葉を揺らしてざわめく。


 ふと、俺はこの世界で過ごしてきたこれまでの人生に想いを馳せる。

俺は今まで、この世界に生まれた意味をずっと探し求め、追い続けてきた。

そして、自分自身とこの世界に何百回もの勝負を挑んだ。

 

 この世界に転生した時、世界は単純明快で、この先長楽万年ちょうらくまんねんな生活が俺を待っているんだと思っていた。

だが、それは虚像でありただの理想だった。

俺が想像していたより、この世界は残酷で理不尽極まりなく、混沌としていた。

そして俺はその一端と言ってもいい程、重く長い鎖の様な運命に縛られ、世界から拒絶された。

生前の過去とこれから行く末の運命に板挟みになり、これまで千辛万苦せんしんばんくな人生を歩んできたわけだ。

 

 どんな場所でも光があれば必ず影が生まれる。光と闇は相反するが、それ故に共存し合える存在でもある。

この世界の俺はそんな闇の部分であり、世界において異端の存在だった。

そう俺に世界が語りかけ、飲み込もうとしたが、俺は自分の運命と世界に抗うことを選択した。

その日々は苦悩の連続だった。

恨み、妬み、嫉妬、憎悪、嫌悪、あらゆる周りの負の感情が連鎖し、俺に降りかかってきた。

だがそんな悪戦苦闘の日々を送るなかで、俺の大きな支えとなり、光となったものがあった。


---彼女との約束。


 そう、俺の運命の歯車が動き出したキッカケは、ある一人の従者からだった。

 あの日俺はこの世界の理を知り、それと同時にこの世界の矛盾や理不尽を知った。

だから、自らがこの世界で持つ定めと運命に抗い、自身の過去と、世界と向き合ってきた。

そして彼女と時を共にして行く中で、約束した。


「例え世界が立ち塞がっても、俺はあなたと約束を交わす」と。


この先何が待ち受けてようと、あの日交わした誓いを、想いを、俺は忘れることはないし、今まで一度たりとも忘れたことは無かった。

そんな彼女の存在がいつも自分の中にあったから、俺はここまで歩んでこれたのだ。


 だが、今まで過ごしてきた人生が全て暗黒に満ちていたのかというとそうではない。辛くやるせない気持ちになることが多かったと言うだけだ。


 時に励まし合い、支え合う仲間と出会い、それこそ自分が思い描いていた様な異世界ライフを満喫することができた。

そんな仲間と幾度となく荒波に立ち向かい、困難を乗り越え、その度に成長してきた。

そしてその結果、俺は世界から認められ、今は光の下にいる。


「あっー! もう、こんなところにいた! ◯◯◯◯、早く家に帰らないと皆んな待ってるわよ」


「ん? やあ、◯◯◯。悪い、今行く!」


俺はそんな仲間であり、その中で最も大切な存在とも言える人物に名前を呼ばれて体を起こす。

悠然と広がる青空を見上げて、俺は少しの間再び目を閉じる。


 本当に色々なことがあった。

自身の過去に押し潰されそうになり、自暴自棄に陥ったこともあった。

三日三晩泣き明かしたこともあった。

人との関係がグチャグチャに壊れかけた時もあった。

でも、今となっては全てが大切な思い出であり、俺という存在を構成している一部だ。

この世界に転生できてよかった。

心の底からそう思う。


転生したらもう一度。


この世界で彼女と、仲間と同じ様に出会い、共に前へ進んでいきたい。

何故なら、それが無ければ今の俺は存在しないからだ。

そう強く思い、俺は声のする方へと歩いていった。



今から語られる物語は、

俺がここに辿り着くまでの----


普通の日常に退屈していた少年が歩んだ、第二の人生の冒険譚だ。


*******************

2021年東京


 朝、目が覚める。


「はぁ、またか……」


また、同じ天井。

1日の始まりに目にする天井だ。


俺はカーテンを開けた。

眩しい太陽の光が「おはよう!」と言わんばかりに、一気に自分の視界へ飛び込んでくる。


あー、うるせぇよ。

少し静かにしろ。


ありがたい日の光に向かって、朝からそんな悪態をつく。


窓から差し込む光に目を曇らせながら、またなんの変哲もない日常が始まるのかと思うと、心底深いため息が出てくる。


 寝癖でボサボサになった金髪の髪を、水とクシのコンビネーションで雑に整えて顔を洗う。

いつもの様にリビングのテーブルに用意されていた朝食を食べ、手紙と共に置いてあった一万円を握りしめて家を出た。

両親は共働きで、家にほとんどいないので顔を合わすことはない。


 こんな月並みな日々を送っているといつも考ることがある。

この生活の先に何があるんだろうか?と。

別に将来やりたいことも特にないので、当然自分の未来にもあまり期待はしてない。


だが、俺は一体何のために生きているのだろうかと日々自問自答する。

この日常に、この世界に、満足していない自分がいる。

退屈していると言った方がいいのかもしれない。


いつもの様に学校に行き、いつもの様に友人と喋って、いつもの様に勉強して、いつもの様にご飯を食べて寝る。そんな当たり前の日々に退屈しているのだ。

日々の惰性を貪り、ただ無駄に時を浪費しているだけだ。

こんなことを言うと、日々平和に生きていられることに感謝しろ!と誰かに怒られそうだが。


 ここらで学校の先輩が急に告白してきたり、小さい頃に一緒に遊んでいた幼馴染みが突然訪ねて良い関係に……。

そんなムフフみたいなイベントでもあれば、この思考回路も少しはマシになりそうだが。

もちろん、そんな展開が訪れる気配はない。

仮に訪れたとしても、それは流れ星が流れる様に一瞬で、やがてはそれも日常と化すのだろう。


 そんな日常が少しでも変わったらと、俺は高校デビューするやいなや、髪を金髪に染めて耳にピアスをあけた。

見た目は完璧に不良だ。

その影響で、最初は周りから色々と反応された。だが、別に不良になったわけでもなかった。今までと変わらない生活を送っていくうちに、周りもこれまでと変わらずに接してくるようになり、それも普通の日常へと化した。

髪を染めたところで、俺の日常は何一つ変化することはなかった。



いっそ誰か殺してみようか。



 何回もそう思ったことがある。

だが、それをすれば後戻りができなくなると分かっているし、牢獄にでも入ったらそれこそ今よりひどく退屈な「日常」を過ごすことになるのだ。

さすがにそれは嫌だった。


なんて、こんなことを何度も考えている自分のひねくれた思考回路にうんざりするが、それを含めた上で今の俺の日常は成り立っている。


「はぁ、異世界とかあんのかなぁ……」


 学校の帰り道。

1人、東京のビル街から覗く青空を見上げてボソッと呟く。

この言葉も今じゃ日常の一部だ。

このビル街が牢獄だとしたら、その隙間から見える青空は自由や冒険なんだろうか。



 こうして俺はいつも通りに何の生産性もなく、無気力にただ時間が過ぎるのを待ち、その日は終わりを告げた。

 

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