第24話 聞き覚えのある名
掲示板の前は人でごった返していた。
「すみません。ちょっと通してください」
俺は人の間をぬうように、なんとか貼ってある依頼が見える位置まで辿り着いた。
見れば、掲示板には何百枚はあろうかというほど、数多くの依頼が貼られていた。
これだけあれば、俺とシルエが受けれる依頼が数個見つかるだろう。
だが、1人で探すとなるとこの数は骨が折れる。
とりあえず片っ端から目を通してみるが、本当に様々な依頼がある。
「グレイラビット45匹討伐してください」
「暗黒の草原攻略パーティー募集中!」
「龍の谷にて、龍を狩る!」
「キリザント山脈に生息している、キリキリウルフ討伐お願いしたいです」
「彼女募集してます」
ん? なんか場違いなものが……。
よく見れば、冒険者に頼まなくてもいいだろうという依頼が結構な数紛れている。
「毎週日曜日、家庭教師募集してます」
「冒険の酒場で働きませんか!?
やる気のある方募集しています!
まかないあり
時給 銅貨10枚」
「私の奴隷になってください。
連絡先 ◯◯◯◯-◯◯◯-◯◯◯◯」
なんだか、冒険者も大変そうだ。
とはいえ、需要があるからここにあるわけで、受ける人がいるんだろう。
初心者冒険者が受けるのか、冒険者以外の人なのかよく分からないが……。
俺は拍子抜けした気分になったが、ふと赤文字で書かれ、警告!と書かれた一枚の依頼が目についた。
「上級者向け。
仙谷の滝 アークドラゴン討伐。
報酬 金貨30枚」
金貨30枚だと!
2人なら2ヶ月は楽々暮らせる金額だ。
いや、工夫して節約すればもっと持つだろう。
周りの依頼より少し目立っており、何人かの冒険者はそれを見てヒソヒソと話しているが、やがて別の依頼に目を移す。
難易度が高めの依頼だし、迂闊に手は出せないといった感じだ。
俺はひとまずその依頼を手に取ろうと、手を伸ばした。
すると
「あっ」
と、1人の冒険者と手が重なった。
「あ、ごめんなさい。どうぞ、譲ります」
俺は慌てて、その冒険者に言う。
「あ、そうですか? すみません」
女性の声だった。
顔はフードを被っていたため少し隠れており、どんな外見なのかは分からなかった。
チラッとフード越しに青色の髪が覗く。
彼女はその依頼を手にすると、そそくさとその場から離れていった。
「おい、カノン! いいのあったか?」
「あ、うん!」
連れらしき男が彼女に話しかけている。
カノンっていうのかあの子。
なんか、懐かしい感じがした様な……。
そんなことを思いないながらも、俺はさっきの依頼があった場所を再び見る。
すると先程貼られてあった依頼と同じ場所に、もう一枚依頼が貼られていた。
どうやら、先程の依頼と二重で重なっていたようだ。
これも同じく赤文字で警告!と記されている。
みると、
「上級者向け、アークリザード討伐
報酬 金貨20枚」
と書いてあった。
先程の依頼より報酬の値は劣るが、俺にとっては充分魅力ある依頼だった。
俺はすぐさまその依頼を手にすると、先程対応してもらった彼女のカウンターへと向かった。
「何かいいのありましたか?」
「あ、はい。これなんてどうですかね?」
俺は手にしていた依頼を渡すと、彼女は一瞬驚いた様な表情を見せた。
「えーっと、これなかなか難易度高い依頼ですよ? お兄さんぱっと見、そこまで強そうには見えませんが……。
まぁでも、とりあえず魔力計測してみますね」
若干失礼なことを言われた気もしたが、俺は言われた通り、差し出された魔法具に手をかざす。
すると、その丸い水晶玉の様な魔法具は、青、緑、黄色と変色していった。
「え? ウソ、まだ変わっていく……」
その様子を見て、獣人の彼女は目を見開く。
「えっと、なんか良いんですか?」
「この魔法具知らないんですか?
これは魔石から作られた魔法具で、手をかざした人の魔力を測定してくれるものなんです。
青、緑、黄色、オレンジ、赤、紫って魔力が高ければ高いほど変化していくんですけど……」
見れば、魔法具はオレンジ、赤と変色していきついに紫にまでなった。
「えっ!? はわわわ……
紫なんて初めてみた……」
彼女はかなり動揺した様子を見せたが、周りの視線を感じて我に帰ると、俺から魔法具を慌てて回収した。
「えっと? で、この依頼は受けれるんでしょうか?」
「問題ありません!」
目を輝かせながら勢いよくそう言われ、思わず俺は少し後退りする。
「てゆうか、凄いですね!
さっきは弱そうみたいなこと言っちゃってすみませんでした!
生まれて初めてですよ、紫色になった冒険者見たの!
あの、あの! よかったらお名前教えてくれませんかっ?」
さっきまでの冷静さはどこに行ってしまったのか、大分興奮した様子で俺に話しかけてくる。
「あ、えっと、ディアス・ラルドラクって言います」
「ラルドラク? どこかで聞いたことあるような……。
ディアスかぁ! ディアスって響きすごい気に入りました!
あ、私の名前はルミエ・ルーフェルトって言います! またここに立ち寄る機会があれば私を指名して下さいねっ!」
俺の名前を聞いて少し首を傾げたが、それも一瞬。ルミアという彼女はすぐさまテンションが高くなり、俺に訴えかけるように話す。
「あ、はい。ルミエさんですね。
宜しくお願いします……ん?」
いや、ちょっと待ちなさい……。
ルーフェルトってなんか聞いたことあるぞ?
随分と馴染みのある響きだと首を捻る。
ルーフェルト…
ルーフェルト…
あれ?
シルエ……
シルエ……ルーフェルト……
あっ!
シルエ・ルーフェルト!
「ちょっとぉ!!」
「ヒャい!?」
俺はあまりの衝撃に大声を上げてしまった。その様子を見て、周りの冒険者が何事かと俺に視線を注ぐ。
だが、俺はそんなことはお構いなしにカウンターに身を乗り出す。
さっきと立場が逆転して、今度は俺が興奮気味だ。
「ルーフェルトって……。
あの、シルエ……シルエ・ルーフェルトって知ってますか!?」
「え、なんでお姉ちゃんのことを?」
お姉ちゃん!?
薄々予想はしていたが、まさかの発言に一瞬頭が破裂しそうになった。
まさかシルエに妹がいたとは……。
てっきり一人っ子だと勝手に思っていた。
いや、とはいえシルエの家族構成については何も聞いてなかったので、妹がいてもなんら不思議はないのだが。
「じゃあ、あなたはっ……!」
「あ、はい、私はシルエ・ルーフェルトの妹でルミエ・ルーフェルトです」
再び頭をタライかなんかで叩かれた衝撃を覚える。
おぅぅ。 ふぅ、まじか。
俺は改めてもう一度よくルミアを見る。
なるほど。
確かに言われてみれば、雰囲気や仕草がどことなくシルエに似ている。
髪の色こそ異なるが、シルエと同様顔立ちも整っていて妹と言われてもなんら違和感はない。
まだこの世界を旅して間もないのでなんとも言えないが、異世界とはいえ世間が狭いというのは、生前俺がいた世界と変わらない様だ。
とゆうか、たかが家から3時間程しか離れていない町に、何故シルエの妹がいるのか気になるが。
シルエは知っているんだろうか?
サロスよ、どうせならルミエもシルエと一緒に雇えば良かったんじゃないか?
なんて思いながら、はやる鼓動を落ち着かせる。
「えっとそれで! なんでお姉ちゃんのことを? お姉ちゃんが今どこに居るか知ってたりします?」
少し落ち着きを取り戻したところで、今度はルミアが興奮気味で話しかけてきた。
彼女のこの反応を見る限り、シルエもルミエがここに居ることは知らなそうだ。
そもそも知っていたら、この町に着いた時に俺に言ってくる筈だ。
「あっ、えっと、そのことなんですけど。
話せば長くなりまして……」
「あっ! ディアス様、1人でこんな所に来てたんですね!」
俺がシルエについて話そうとしたその時、
俺の言葉を遮って、随分と聞き慣れた声がした。
「あっ」
その声のする方に振り返ると、そこにはシルエが立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます