第23話 言語と種族
【ウィルの町・大通り】
宿のある静まり返った裏通りとは違い、大通りはやけに活気に溢れていた。
昨日は夕方に着いたからだろうか。
朝にも関わらず、昨日よりも賑っている。
「さて、どうしたもんか」
俺は大通りの中央に位置する、噴水のある広場で今後の計画を練る。
何はともあれ、とりあえず資金を調達しなくてはならない。そのためには冒険者用の依頼を受けるのが手っ取り早い。
そして、その依頼を手軽に探せて、受けることのできる場所といえば、冒険者ギルドと相場が決まっている。
もっとも生前読んだことのあるラノベから引っ張り出した知識だが……。
だが、魔導書で読んだ限りでは、この世界にも存在している様だ。
とはいえ、この町中を手当たり次第探すのはいくら狭い町とはいえ、効率が悪い。
やはりシルエを起こしてくるべきだっただろうか。
いや、一度決めたら最後までやり切るのか俺と言う男!ディアス・ラルドラクだ!
それに、シルエに頼ってばかりにもいられない。
とりあえず、誰かに聞くのが妥当だろう。
俺は周りを見渡す。
改めて道行く人々を見ると、本当に様々な種族がいる。
シルエと同じ様に、可愛らしい耳と尻尾のある獣人族。(獣人族は猫ベースの他にも、狐や兎をイメージさせる者もいる)
キリッとした容姿と尖った耳を持ち、凛とした雰囲気を漂わせているエルフ族。
人族と外見はそれほど変化はないが、俺の身長の半分程だろうか。やたらと背が低い
頭に角の様な物や、翼が生えている魔神族。
そして、まんま
魔神族は一括りにされているものの、「人間ベース」と「動物、爬虫類ベース」がある様だ。
とにかく、多種多様な種族がこの町では互いに協力し合って生活している。
ここに狂魔族が紛れているのかもしれないと思うと少しゾッとするが……。
思えばこの世界で6年間生きてきて、今まで関わった種族といえば獣人族のシルエと、エルフ族のフィア(狂魔族が化けていたため、少し微妙な所ではあるが)ぐらいだった。
実際目にしてみると、ラノベやアニメで見た様なただ可愛らしい、ゆるキャラ的なイメージとは何処となく違い、なかなかに生々しく感じる。
ムルンの村にも人族以外の種族は住んでいたが、獣人族やエルフ族がほとんどで、そこまで人外的な容姿をした魔神族や
そして何より、今回が初の社会体験でもある。
目に映るもの全てが珍しく、好奇心を擽り、刺激のあるものばかりだ。
とはいえ、これだと自分の関心のままに行動して1日が終わりそうだ。それだけは避けたい。
別にいいじゃないか。
そうだ。珍しいといえば、後でシルエの尻尾や耳を好きなだけ触ることができる。
ここは我慢だ。欲望に忠実になってはいけない。
なんとか溢れ出る欲求をシルエで解消させ、
俺はふと目にした、冒険者らしい身なりをしている集団に駆け寄って声をかけた。
「すみません。
この町に冒険者ギルドみたいな所ってありますか?」
獣人や人族にオークといった様々な種族で構成されていた集団は、お互い顔を見合わせると、何も喋らずに俺に視線を集める。しばらくしてその中の強面な人間族の男が
「あぁそれなら、この通りをひたすら真っ直ぐ進んでいけば左手にあるぞ。
人集りも常にあるし、看板もデケェから行きゃぁ分かる」
と答えてくれた。
「そうですか。ありがとうございます!」
今の間はなんだったのだろうか?
少し疑問に思ったが、とりあえず教えてくれた通りに、俺は大通りを真っ直ぐ進んでいった。
しばらく進むと、ある一件の建物に何やら
その建物付近にいる人々は、剣や鎧などを装備しており、いかにも冒険者らしい身なりをしている。なるほど、確かに分かりやすい。
あそこがいわゆる冒険者ギルドだろう。
俺は、いかにも冒険臭い香りのする建物の中へと入っていった。
中に入ると、これまた自分が思い描いていた通りの光景が広がっていた。
少し乱雑に設置された木造りのテーブルやイスに様々な種族の冒険者が座って募り、それぞれが自身のこれまでの冒険譚や実力を豪語している。
中には酒を浴びる様に飲んでいる者、何か一つの芸を皆に披露している者、賭けを楽しんでいる者、実に様々な者が許される限り自由に振る舞っており、外の大通りとはまた違った活気で溢れていた。
奥に進むと、なにやらカウンター越しにスーツの様な服装をしている人達が、それぞれ冒険者と対話をしている。
おそらくギルドスタッフというものだろう。
俺はその列に並んで順番を待ち、カウンターへと案内された。
案内されたカウンターにいたのは、黒耳に黒い尻尾を持ち、いかにも万人受けする可愛らしい獣人族の女の子だった。
いやーやっぱりいいなぁ獣人族。
この子も目から眼球が飛び出る程可愛いが、こうして改めて色々な獣人族を目にすると、シルエはその中でもかなりレベルが高いというのが分かる。
カウンターでその女の子と向き合った俺はペコリとお辞儀をされ、話しかけられた。
「&/#_☆♪→1○*<°5×+〆〆々〒9,-/)%°1」
おっと? 話しかけられたはいいが全く何を言っているのか理解できない。
「あ、えっと、すみません……」
少し戸惑いながらも言葉を発すると、その女の子はハッとした表情をして、すぐさま言語を変えてくれた。
「申し訳ございません。こちらの言語でしたら理解できますか?」
「あ、はい。ありがとうございます。大丈夫です。ところで、今の言葉は?」
「あ、さっきのはコイネー語です」
俺は言葉が通じたことにホッと胸を撫で下ろす。
そして、コイネーという言葉を聞き、魔導書に書いてあったことを思い出した。
そういえば、今までシルエとずっと一緒に居たからか、言語に対して何一つ意識を向けていなかった。聞いたことのない言語で会話をしているなぁとは思っていたが。
それがこの世界の
俺の話している言語は人語で、シルエやフィアといった人族と一緒に暮らす者は例外として、基本的には人間族にしか通じないものだ。
それとは別に、どの種族にも通じるこの世界共通の言語、コイネー語があり、生前の世界で言うところの英語の様な役割をしている。
シルエはそのコイネー語が喋れるので、これまで何一つトラブルが起こることなく、ここに辿り着くことができた分だ。
先程、俺が話しかけた集団に少し間があったのは俺が人語を話していたからだろう。
だから、人間族の人が答えてくれたわけだ。
俺としたことが、魔導書で知っていたというのにうっかりしていた。
しかも、知識としては知っているが話すことはできない。
幸い冒険者ギルドのスタッフは何語でも対応できる様で、他のスタッフを見るとそれぞれが冒険者と全く異なる言語を用いて会話をしている。
なるほど、共通言語とはいっても冒険者の中にはコイネー語を喋れない者もいる様だ。
てゆうか、ギルドスタッフの優秀さを感じる。一体どれだけの言語を勉強するのだろうか。
これでは、今後コイネー語は必須になってくるだろう、
俺は先が思いやられ少し憂鬱になったが、スタッフの女の子に話しかけられ気を取り直す。
「あの……?」
「あ、すみません。
えっと、依頼を受けたいんですが……」
「あ、冒険者クエストですね!
でしたら、あそこにある掲示板に一通りクエストが記載されているので、そこから選んで頂けたらと思います」
彼女が指差す場所には、一段と人集りができている。
「分かりました!」
「とりあえず、ご自身の身の丈に合いそうなクエストを選んで、またこちらに持ってきてください。
そしてご自身の魔力をこの魔法具で測定して頂き、選んだクエスト難易度に適合しているか調べます」
へぇ。そんなことができるのか。
俺は感心しながらも「分かりました!」と頷いて、その掲示板を見に行った。
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