第30話 潜在の中で
おーい、起きろー
おーい、おーーい。
おーーーい!
遠くで誰が俺を呼ぶ声がする。
「ッ!?」
次の瞬間俺は目が覚めた。
「あ、やっとお目覚めかぁ」
声の主は、何とも緊張感のない仕草をして俺を見る。
「お前は……」
「やっ! 久しぶりだね俺」
そう、その声の主は俺だった。
「とゆうことは、ここはまた……」
「そ、ご名答。
思っている通り、ここは俺の潜在意識の中だよ」
「くっそぉ、またかよ。
で、今度は何の用だよ」
「あらら、同じ自分だってのに、つれないなぁー」
もう1人の俺(この世界に来る前の姿をしている俺)は、髪をクシャッと掻きながら、ダルそうに俺に言葉をかける。
「あっさりやられちゃったねぇ。
自分とは言え、不甲斐ないなぁ」
「うるせっ!
てゆうか、俺はどうなったんだよ!
死んだのか? シルエとルミエはどうなってる? あの男は! 早くしないとあいつらまでっ……」
「シーーーーッ」
俺は口を手で押さえられる。
「質問が多いなぁ。
焦らなくても、答えてあげるって」
「ばか、焦るに決まってんだろ!」
「はぁー、自分が油断したがためにこうなってるってのを忘れちゃだめだよ。
順番に答えるなら、君はまだ死んでない。まぁ瀕死状態ではあるけど。
それと、彼女たちなら無事だよ。
男は君の生死を確認した後、どこかに去っていったよ」
その言葉を聞き、俺は全身の力が一気に抜けるのを感じた。
「それと、あの男の正体だけど……。
残念ながら俺も分からない。
ただ一つ言えるのは、異端の存在を知っていて、なんだかで狂魔族に関わっているってこと」
「狂魔族……。 リリアか……。
とりあえず状況は分かった。
なら早いとこ俺を目覚めさせてくれ!
早くシルエ達を安心させたい」
「まぁ待てよ。そんな慌てることはないさ。今君が目覚めたところで、また激痛でこっちの世界に戻ってくるのが落さ。
少しここでゆっくりしていきなよ。
俺がその間、お前の体に干渉して傷口を治してやるから」
「はぁー?
こんな何もない場所で何すりゃあいいんだよ。てか、お前は一体なんなんだよ。何で俺の前に現れてくる」
「そりゃあ自分なんだから君の中にいるのは当たり前じゃないか」
もう1人の俺はとぼけた顔で俺の言葉に答える。
「あ、そうそう。
前に言ったこと考えてみたかい?
この世界に生まれてきた意味をさ」
「そんなもん分かるかよ。
けど、俺は今目の前にある環境や支えてくれるシルエたちを大切にしようって思った。
何でこの世界に転生したのかってのは、これからも考え続ける。けど、その答えは今後生きてく上で手に入れらもんだとも思ってるよ。
だから、今どうこう決めるもんでもないだろう」
「なるほどね。
生前の俺とは考え方がまるで違う。
まぁ、ゆっくり考えていきなよ」
「お前、最初に会った時より、なんつーか、棘が無くなったな。言葉遣いとか固くなくなってるし」
「君が変化すれば、中の俺も変化するんだよ。相乗効果ってやつだね。
ま、とりあえず君には今から試練をやってもらうよ」
「試練?」
「己を見つめる力、心眼を会得してもらおうかなってね」
「なんだそれ」
「まぁ、一言で言うなら客観的に物事を見極め行動できる精神スキルみたいなもんさ」
「バカ言うなよ。俺はいつでも冷静だ」
「だったら何故あの男に立ち向かっていった? 力量は明白だったろ?
君は勝ち目のない戦いでも、手を出す節がある。父さんとの一騎打ちでもそうだ」
「それは! やらなきゃいけない時だってあるだろ!」
「それはいつか身を滅ぼすよ。
身を引くことも一つの戦術だ。君が狙われたから良かったものの、彼女達どちらかだったらそれこそ死が待っていた」
確かに、もう1人の俺の言う通りだ。
シルエとルミエがいくら俺より冒険スキルが高いとはいえ、あそこで男に手を出す意味はなかった。
「はい、そんなわけで!
始めようか」
「あぁ、わかったよ」
俺は立ち上がると、もう1人の自分の目を真っ直ぐ見据えた。
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